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第6話 「ゴブリンリン討伐とヲタ通」



ゴブリンリン討伐依頼――。


期限、三十日。


未達成時、違約金百万円……じゃなかった。


100万イェーン。


その事実を知った俺たちは、地獄のような日々を送っていた。



☆☆☆


ギルド酒場の一角――。

俺たちは、完全に死んでいた。


「……臭い」


受付嬢が真顔で言う。


「まだ言う!?」


「だって臭いんだもん」


ミリアですら、自分の服をつまんで涙目になっていた。


「うぅ……まだ匂う……」


フィリアもぐったりしている。


「……しばらくゴブリンリン見たくありません」


その言葉に、俺は机へ突っ伏した。


「くそぉぉぉ……」


《クエスト失敗》

《なお、失敗率は想定範囲内です》


「想定するなぁぁぁ!!」


ナビ子の画面が目の前へ出てくる。


《では、反省会を始めます》


「学校か!!」


《まず失敗原因その1》


画面に文字。


《匂い玉の臭気範囲を理解していない》


「うっ……」


《その2》


《風向きを考えていない》


「ぐふっ……!」


《その3》


《自分たちも吸う前提で動いていない》


「やめろぉぉぉぉ!!」


ミリアが腹を抱えて笑った。


「だって自分たちが一番苦しんでたじゃん!」


フィリアまで肩を震わせている。


「……ゴブリンリンと一緒に逃げ回る冒険者なんて初めて見ました」


「うっ……うるせぇ!!」


《総評》

《クミがバカでした》


「お前最近辛辣じゃない!?」


☆☆☆

だが、しかし、(大事なので同じ言葉を繰り返しました)、笑ってばかりもいられない。問題は…


100万イェーン。


「どうするの……」


ミリアが青ざめる。


「あと二十九日しかないよ……?」


フィリアも真剣だった。


「今の実力では、正面戦闘は危険です」


「ぐぬぬ……」


俺は腕を組む、考える、考える。何も出ない。ここで俺は、人差し指をなめて頭の上で三回回した。それを見たミリアとフィリアが、


「何バカやっているのよ!!汚い!!」


しかし、俺は真剣だ。

ポク、ポク、ポクーー


チーン!!


俺の考えがまとまった瞬間、ナビ子が


《あまりお金がありません》


「え?」


《前回の報酬は、あと、3万イェーンしかありません。三人ではあと二日しか持ちません》


「うそ!!」


《まずは先立つものが必要です。よって、薬草採集のクエストをお勧めします。》


「まずは資金集めだ!!」


☆☆☆


翌日――。


俺たちは薬草採取へ来ていた。当然、森の入口付近の初心者向けエリアでヒール草の採取をしている。


「結局薬草採取なんだ……」


ミリアが苦笑する。


「でも安全です」


フィリアが頷いた。俺も草を摘みながらゴブリンリンのことを考えている。ゴブリンリン、集団で洞窟に住んでいるが警戒心は低めだが、攻撃されると集団で攻撃をしてくる厄介な存在。その時だった。


《ながら作業はあまりお勧めしません》


「なぜ!!」


《手を見てください》


「うわ!!くっさ!!」


ヒール草の葉の部分を間違ってもいでいたのだった。その時だった。


ガサッ。


草むらが揺れ、現れたのは、小柄な緑色の魔物、ゴブリンリンが一体


「で、出た!?」


ミリアが剣を抜き身構える。だが、その瞬間、ゴブリンリンの足元で音が鳴った。


パキッ。


「ギャッ!?」


ズボッ!!


「……え?」


ゴブリンリンが、穴へ落ちていった。それを見た俺たちは固まり、お互いの顔を見て首をひねった。そして、ゴブリンリンが落ちた穴を見に行くと、誰かが作った簡易落とし穴だった。


《成功例を確認》


ナビ子が静かに言った。


《ゴブリンリンは足元への注意力が低い傾向があります》


「……あ」


《さらに、単純な誘導罠へ反応しやすいです》


俺は、ゆっくり顔を上げ、ミリアとフィリアを見ると二人も俺を見ていた。


「……いける?」


ミリアが言うとフィリアも小さく頷いた。


「単純な罠なら……通用するかもしれません」


その瞬間、俺の脳内で、オタク知識が繋がった。


「……フフ」


「クミ?」


「フハハ……!」


嫌な笑いが漏れる。


《危険な顔しています》


「見えた!!」


俺は立ち上がった。


「ゴブリン殲滅作戦が!!」


《嫌な予感しかしません》


「聞けぇぇぇ!!」


俺は地面にゴブリンの洞穴の絵を描いた。そこに2体の見張り役の位置、道を書いて、バツ印をかいた。


「ここに落とし穴を作る。落とし穴の反対側にミリアとフィリアが待機する」


「それでクミはどうするの」


「俺が匂い玉をもって、ゴブリンリンの洞穴の前まで行って、洞穴に投げ込み、ここまで逃げる」


ミリアとフィリアがポカンとしている。


「何が言いたいの」


「俺がそのまま、おとりとなってミリアとフィリアのところまで逃げてくる。すると、ゴブリンリンは、この落とし穴に落ちて一網打尽というわけだ」


「なるほど」


「それなら何とかなるかも」


「じゃぁ…明日から、薬草採取クエストの合間に落とし穴を掘りに行こう」


だが、ナビ子だけは沈黙していた。


数秒後。


《……今回は》


「お?」


《いえ……なんでもありません。あまり推奨できません》


「なんだそりゃ!!」


しかし、手がない俺たちは、5日間かけて、落とし穴を掘った。


クエスト期限まであと24日



☆☆☆


俺たちはギルドの居酒屋にいた。


「もう…どうすんのよ!!」


「そうよ」


落とし穴作戦は失敗した。匂い玉を洞穴に放り込んで目的地までおびき寄せたまではよかった。そう…ここまでは、最初の数匹は見事に落とし穴に落ちて行った。しかし、ゴブリンリンの数が多すぎたのだ。ある程度すると奴らも落とし穴に落ちないように移動を始めたのだ。それを見た俺たちは命からがら逃げ帰ってきたのだった。


《クエスト失敗》

《あまりお勧めしないと申しました。なお、失敗率は想定範囲内です》


ナビ子は相変わらず冷たい。


《クエスト期限まであと23日》


「なんだ。そのカウントダウンは!!」


《間違いではありません。クエスト期限まであと23日》


「わかったよ」



☆☆☆



この後、俺たちは三度挑戦し、三度失敗した。最初は生き埋め作戦。見張り役を倒して、フィリアに土魔法で入り口を封鎖。しかし、別の出入口があって、そこから反撃を受けた。次に催眠ガス作戦。これは、催眠ガスが逆流し俺たちが睡魔に襲われ、やばくなって退却、最後は、水没作戦、これは、想定以上に洞穴が広かった為、効果がなかった。



《クエスト期限まであと5日》


俺たちは、途方に暮れていた。すると、そこへ、ギルドの受付嬢がやってきた。


「みなさん。大丈夫そうじゃなさそうですね」


「「「はい…」」」


絶望の淵に立たされている俺たちに残酷な笑みを浮かべ話しかける受付嬢。するとなぜかミリアとフィリアを呼んでひそひそと話をしている。


「え?」


とか二人が驚く顔が見えたが、やがて、納得した様子で3人は俺のところにやってきた。


「お二人の了承を得ました。あとは、クミさんの了承だけなんですけど」


「いったい何の話なんですか」


「それは…ゴブリン退治クエストに関する情報についてなんです」


「ほんとうですか?」


「ええ…本当よ。ただし、成功の暁には私が提示した条件をのんでもらいますけどいいですか?」


「いいですけど、俺たち…お金ないですよ」


「そんなことわかっていますよ」


するとナビ子が


《この提案は受けるべきです》


おい!!条件を聞いていないけど大丈夫か


《大丈夫です。たぶん》


おい!!今、多分って言ったよな


「ミクさん。何独り言を言っているのですか」


「あ…すみません。で?条件とは」


「情報量として、ミクさんを一晩私に貸してください。前払いでね」


こうして、俺の1泊レンタルで交渉は成立した。




☆☆☆



「3日後、郊外の森で校外学習をする」


「えーー!!」


2日前。私たちは校外学習という名前の魔物狩りを体験した。魔物とはいえ、獣臭と殺したときの感触と血の匂いが、まだ、体に染みついているような嫌な感じが残っている。戻ってから1日寝込んだ子までいた。

そういえば、太い男と二人の女の子のパーティーが複数のゴブリンリンから逃げているのを見て、衛兵が3人でゴブリンの巣を攻撃するなんて、おバカさんがすることだって、笑って教えてくれた。

しかも、その太い男がどうやらキモブタかもという話まで出ている。そんなおバカな話でもないとやり切れない。それが私たちの現実だ。しかし、あのキモブタだったら、そんな馬鹿なことをしていてもおかしくない。となぜかみんなで久しぶりに大笑いした日だった。

そして、待ち受ける現実、私たちは生きていかないといけない。



☆☆☆


クエスト期限まであと1日と迫った今日。クエスト達成の為、俺は昨日、一晩レンタルされ、「朝まで生・・・」であった。だから、くそ眠いのだが、体力は回復している。それはポーションのおかげだ。そして、今日、その決戦の日を迎えた。


作戦はこうだ。


数か所ある通気口のうち一つを残して、土魔法で封鎖する。そのあと風魔法で洞穴に風を送り、催眠ガスを投入、催眠ガスが効いて、いったん換気できるまで送風。そして、突入し、眠っているゴブリンリンを倒していく。


《なかなか上出来の作戦です。成功率は30%です》


ナビ子がほめてくれたわりに成功率が低い。


「成功率低くない?」


《今まで成功率すらありませんでしたので》


「話が違う」


《ゴブリンリンの上位の魔物がいる可能性もあります》


「けど、もうこれしかないんだ」


《ご武運をお祈りします》


「おい!」


こうして、俺たちは、この作戦にかけることになった。


作戦開始


数十分後。

フィリアが土魔法で通気口と入口を封鎖、洞窟の隙間から、催眠ガスが流し込まれていく。

しばらく待機後、入口を開放、フィリアが風魔法で換気する。そして、中を覗き込む。


「……寝てる」


大量のゴブリンリンが倒れていた。


「やったぁぁぁ!!」


クミが叫んだところまでよかったんだが、次の瞬間、洞窟奥から呻きが聞こえた

「グルルル……」

低い音とともに現れたのは、大柄なボブゴブリン、と杖を持つゴブリンメイジ、さらに通常ゴブリンリンが三匹。


「「「あっ」」」


《ボス個体未処理です》


「聞いてないぃぃぃ!!」


《説明しました》


ゴブリンメイジが火球を放つ。


「うわぁぁぁ!!」


ミリアが飛び込み、剣で通常ゴブリンを迎撃、フィリアも魔法で援護、だがボブゴブリンだけは強かった。


「ぐっ……!」


クミが吹き飛ばされる。


「クミ!!」


「いてぇぇぇ……!!」


ボブゴブリンがコン棒を振り上げる。クミは必死に受け止める。


重く強いそして怖い、けど、逃げない。


《解析完了しました。ボブゴブリンは、首を寝違えております》


「……え?」


《今回の作戦でびっくりして起きて寝違えたようです》


「そんな馬鹿な!!」


クミは叫びながら突っ込んだ。その瞬間、ボブゴブリンが首をかばうように変な動きをして持っていたコン棒がゴブリンメイジの方に飛んだ。それに気を取られたゴブリンメイジにフィリアのファイヤーボールが直撃した。その間にミリアが3体のゴブリンリンを撃破していた。


残りはボブゴブリンのみとなった。


ミリアが左から斬り込む。

フィリアが魔法で牽制。

クミが足を狙う。

ドタバタ。

悲鳴。

叫び声。

泥だらけ。

それでも。

三人は連携していた。

最後。

クミの一撃で。

ボブゴブリンが崩れ落ちる。

静寂。

そして――。

「……勝っ、た?」

「……勝ったぁぁぁ!!」

三人で抱き合って喜ぶ。

完全に泥まみれだった。


「「「やった-!!」」」


俺たちは泥まみれになりながらも、討伐の証を集めた後、洞穴内を探索し、隠していた財宝?と拉致されていた女性を救助して、洞穴から出た、


そんな様子を女子たちは見ていた。

「……なに、あれ」

誰かが呟く。フラフラになりながら、

「クミぃぃぃ!!」

残党ゴブリンを処理している三人、しかも、洞窟奥から、攫われていた女性まで救助していた。

「た、助かった……」


「やったぁぁぁ!!」


「依頼達成ぃぃぃ!!」


三人は、抱き合いながら飛び跳ねている。

その姿を見て。

クラスメイト女子たちは、ぽかんとしていた。

なんというか――。

楽しそうだった。

その時、一人の女子が目を見開く。


「……え?」


「どうしたの?」


「あれ……国府田?」


「は?」


全員が、もう一度見た。泥まみれで汗まみれになりながら叫んで喜んでいる太い男。


「……え、マジ?」


「うそ……」


「いや、でも……」


確かに、まだ少しキモい。テンションも変。動きもうるさい。


でも――。


「なんか……変わった?」


前より痩せて、目が違う。

何より、生き生きしていた。


「ねぇ……」


女子の一人が、小さく呟く。


「王城、出ても……いいのかな」


「え?」


「普通に生きるのって……ダメなのかな」


誰も答えられない。


その時だった。


クミが、ようやく彼女たちへ気づく。


「あれ?」


「……クラスの奴ら?」


沈黙。


数秒後。


「やっべぇぇぇ!! 逃げろぉぉぉ!!」


「なんで!?」


「まだキモいと思われてる!!」


「そこ自覚あるんだ!?」


《自虐モード発動中》


「うるさい」


三人は全力で逃走。


その背中を見ながら。


女子たちは、しばらく動けなかった。


そして。


誰かが、小さく呟く。


「……なんか、楽しそうだったな」


「そうね。王城では、あんな顔をする奴なんて、もういなかった」


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