第5話 「勢いとヲタ通」
王都に残った男子生徒たちは、女たちに囲まれ、表向きは優遇されていた。
だが――。
その実態は、まるで違う。
「……またかよ」
疲れ切った男子が、ベッドへ倒れ込む、青白い顔、虚ろな目、毎晩のように求められ、精を搾り取られる。それが、この国における“男の役目”だった。
そして――。
弱い男は、もっと悲惨だった。戦闘能力が低い、魔力が少ない、女を満足させられない。そう判断された男は、“男子サポートセンター”へ送られる。
通称、“センター送り”。
そこでは最低限の生活だけ保証される代わりに、定期的な精子提供を義務付けられていた。
「次、三番」
無機質な声、並ぶ男たち、疲弊した顔、中には、泣きそうな顔をしている者までいる。
それでも、この世界では――。
“男であること”自体に価値があった。
だから、完全には捨てられない。ただ。人として扱われているかと言われれば、別問題だった。
☆☆☆
王城――。
そこでは今日も、召喚された勇者たちへの“訓練”が行われていた。だが、その実態は、もはや訓練ではない。男たちは、“希少な男性”として扱われ、女たちから日々求められていた。もちろん、すべてが幸せなわけではない。体力のある男子は上位扱い。
風間暉のようなカースト上位組は、比較的優遇されていた。だが、それ以外は違う。毎晩のように求められ、勢力を搾り取られ、疲弊していた。
そして――。
女子側もまた、地獄だった。強いスキルを持つ女子は、まだいい。だが、弱い女子は違う。
危険な訓練を押し付けられ、拒否すれば、“価値がない”と扱われる。
そんなある日だった。
訓練場の隅で、一人の女子が下級衛兵の女たちに囲まれていた。
「や、やめて……!」
制服は乱れ、涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。
「うるさいわねぇ」
衛兵の女が、ニヤニヤ笑う。
「弱い女は、強い男に可愛がってもらうのが役目でしょ?」
その横では、風間と、その取り巻きたちが笑っていた。
「おいおい、そんな嫌がんなって」
「俺たち、勇者様だぜ?」
女子は震えていた。
その時だった。
「やめろ!!」
飛び出した男子がいた。優斗。彼女の恋人だった。
「離せよ!!」
だが――。風間たちは笑った。
「は?」
「雑魚が逆らうの?」
次の瞬間。訓練用の木剣が、優斗の腹へ叩き込まれた。
「がはっ……!」
さらに、横から、後ろから、まるで遊びのように。
「おら!!」
「どうした!?」
何度も何度も叩き込まれ、ボキリと骨が折れる音がして、口から血飛沫と呻き声がもれている。それでも、風間たちは止まらない。
「訓練だろ?」
「勇者様への反抗はダメだよなぁ?」
最後には、優斗は、動かなくなった。慌てて駆け寄る聖女スキル持ちの少女。
「ハイヒール!!」
溢れる光。
だが――。
間に合わなかった。
「……そんな」
少女の声が震える。その光景を見ていた恋人の女子は、完全に壊れたように座り込んでいた。
だが。
地獄は終わらない。
「じゃ、次はお前な」
風間が笑った。
「や、やだ……!」
逃げようとする彼女は、衛兵の女たちが押さえつける。
「離して!!」
泣き叫ぶ声、響く笑い声。
そして――。
その夜。
彼女は、自室で首を吊った。
☆☆☆
翌朝。
王城は騒然となった。玉座の間、そこには、怒りに満ちた皇帝リゼリアの姿があった。
美しい銀髪、冷たい瞳、だが今、その瞳には明確な怒気が宿っていた。
「……誰がやった」
静まり返る空間、風間たちは顔を逸らしている。だが、衛兵の一人が震えながら答えた。
「か、風間様と……その仲間が……」
瞬間、皇帝の魔力が爆発し、床が砕け、空気が震える。
「貴様ら……」
皇帝の声は低かった。
「勇者だからと、何をしても許されると思ったか?」
風間ですら、顔を青くする。
だが。
皇帝は風間ではなく、衛兵たちへ視線を向けた。
「貴様らも同罪だ」
「ひっ……!」
「止める立場でありながら、加担した」
静かに、だが、確実な殺意を込めて、皇帝は剣を抜いた。
次の瞬間。
銀一閃。
衛兵の首が宙を舞った。吹き出す血飛沫、悲鳴と命乞いが玉間にむなしく響いた、
誰も動けない。
風間を守っていた衛兵たちは、次々と処刑されていった。そして。血の付いていない剣を、風間へ向ける。
「次はない」
皇帝は冷たく言い放った。
「この国の秩序を乱す者は、勇者であろうと処刑する」
だが――風間たちは処刑されなかった。理由は単純、男だからこの国において、男は貴重な資源だった。
だからこそ風間は生かされた。そして彼は、皇帝への恐怖と同時に歪んだ憎悪を抱き始めていた。
「……クソが」
☆☆☆
一方その頃――。
「よぉぉぉし!! 今日はゴブリンリン討伐だ!!」
クエスト用紙を掲げながら、俺は元気よく拳を突き上げていた。
「ちょっと待ってよ……」
ミリアが引いた顔をする。
「いきなりゴブリン討伐は早くない?」
フィリアも真顔だった。
「……少し危険です」
《警告します》
脳内にナビ子の声が響く。
《現在レベルでのゴブリンリン討伐は推奨されません》
「え〜? でも初心者定番クエストだろ?」
すると俺は胸を張った。
「大丈夫だ!!」
《警告します》
「前回もなんとかなった!!」
《警告します》
「今回は俺に考えがある!!」
《…………はぁ》
ナビ子がため息をついた。
「なんでため息!?」
《クミさんが勝手に盛り上がっているからです》
「うるさい!!」
《なお、“楽勝モード”は解除されていません》
「当然だ!!」
ミリアが頭を抱えた。
「なんで自信だけはあるの……」
☆☆☆
森の奥。
薄暗い洞窟前。
そこが、ゴブリンリンの巣だった。
《対象:ゴブリンリン》
《特徴》
・集団行動
・増援型
・上位個体出現率高
《推奨:撤退》
「……帰りませんか?」
フィリアが真顔で言う。
だが、俺はニヤリと笑った。
「フッ……オタク知識を舐めるな」
《嫌な予感しかしません》
俺は袋を取り出した。
「燻製作戦だ!!」
「え?」
「煙で追い出す!!」
《クミさん》
「勝ったな」
《話を聞いてください》
「行くぞぉぉぉ!!」
匂い玉へ火をつけた瞬間――。
ボフッ!!
とんでもない悪臭が爆発した。
「ぐぇぇぇぇぇっ!?」
「くっさぁぁぁぁぁっ!!」
「な、なにこれぇぇぇ!!」
洞窟から。
ゴブリンリンたちが飛び出してきた。
「ギャギャギャ!!」
「ギィィィ!!」
だが。
俺たちも死にそうだった。
「ケホッ!! ケホッ!!」
「クミぃぃぃ!! 何これぇぇぇ!!」
「お、おかしい!! こんなはずじゃ!!」
《警告しました》
「うるせぇぇぇ!!」
煙。
涙。
鼻水。
咳。
全員パニック。
しかも。
ゴブリンリンたちまで混乱して、四方八方へ逃げ回っている。
「ぎゃあああ!! こっち来たぁぁ!!」
「うわぁぁぁ!!」
結局――。
俺たちは。
ゴブリンリンたちと一緒になって。
森の中を全力で逃げ回る羽目になった。
☆☆☆
数十分後――。
《クエスト失敗》
《なお、生存には成功しました》
「くっ……」
半透明の画面が現れる。
【国府田 久実】
レベル:3→2
《ヲタ通スキル一部喪失》
・簡易戦術補助 消失
《理由》
・ヲタクポイント不足
・行動がバカすぎます
「なっ!?」
さらに。
腹がぷにっと揺れた。
「……太った?」
《体脂肪率上昇を確認》
「うわぁぁぁぁぁ!!」
ミリアが腹を抱えて笑った。
「バッカじゃないの!?」
フィリアまで肩を震わせている。
「……確かに、酷かったです」
「くっそぉぉぉ……」
☆☆☆
その後――。
俺たちはボロボロになりながらギルドへ戻った。
だが。
入口を入った瞬間。
「「「くさっ!!」」」
ギルド中の冒険者が振り返る。
「うわっ、なんだこの臭い!?」
「腐乱死体でも持ち込んだのか!?」
「ちげぇ!! 新人どもだ!!」
ギャハハハハ!!
大爆笑だった。
そして――。
受付嬢が、嫌そうな顔で依頼書を見つめる。
「……あれ?」
嫌な予感がした。
「この依頼書、ちゃんと読んだ?」
そして。
小さな文字を指差した。
『※受注後30日以内に未達成の場合、違約金100万イェーン』
「…………は?」
受付嬢がニコッと笑う。
「さぁ、どうするの?」
「違約金を払う?」
そこで一拍置いて。
「それとも、ゴブリンリンを倒す?」
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