第19話 「結奈とヲタ通」
――王城
風間たちはガーウルフ討伐から帰還した。本来なら褒められるはずだった。
だが、風間の顔は晴れない。
「あいつさえいなければ……」
誰にも聞こえないように呟く。伸一、一番弱いはずの男。だが今回は、伸一の指示で助かった。
納得できない。
勇者は俺だ。
なのに。何故あいつが活躍する。何故あいつの言葉で全員が動く。何故俺が助けられる。
それが我慢できなかった。
☆☆☆
今回も目の前に一匹のガーウルフが出て来た。
「行くぞー!!」
「「「おー!!!」」」
俺の号令と共に突撃する予定だったが、
「待て!!止まれ!!」
そう叫んだのが伸一だった。しかし、駆け出していた俺は立ち止まらなかった。だが、他の奴らは立ち止まった。
「くそ!!」
俺は構わずにそのガーウルフを斬った瞬間。
ガサガサガサッ!!
周囲の茂みが揺れて、出てきた10匹のガーウルフに囲まれた。
「くそっ!!」
俺はなりふり構わず目の前のガーウルフを斬る。すると、伸一が、
「リク!!幸一!!左!!竜也!!右だ!!」
俺以外の全員が動く。
そして、数分後、討伐は終了した。誰もケガすらしていなかった。だが、なんなんだこの気分の悪さは…
勇者なのは俺だぞ。
何故だ。
何故なんだ。
☆☆☆
――王城。
風間たちは、報告を終えると衛兵長は、顔色一つ変えずにこう告げた。
「次はゴブリンリン討伐だ」
「は?」
風間の顔が引きつる。
「女子勇者パーティーは既に成功した」
「え?」
「それどころか、Eランク冒険者の四人パーティーも成功している」
風間は耳を疑った。
Eランク?
四人?
俺たちより弱いはずだ。
「三十匹以上のゴブリンリン」
「ボブゴブリンリン二体」
「ジェネラル一体」
「討伐成功だ」
「…………」
風間は黙った。女子に負けた。冒険者にも負けた。
「なんだそれ」
風間は拳を握った。気に入らない。
「なんで冒険者なんかと比べられる」
気に入らない。なぜだ…
やはり、あの時から狂っている。結奈だ。あいつがキモブタヤローのところに行ってからこうなった。ということは、結奈を取り戻せば、うまくいくはず。しかし、俺が直接動くわけにもいかない。
幸一、あいつ結奈が好きだったよな。あいつにやらせよう。
「幸一、結奈をさらってこい」
「え?どうして?」
「こんなことになったのも結奈が逃げ出したからだ、だから、取り戻さないといけない」
「お…おう」
「けど、俺は既に皇帝から見張られている」
「それは、俺も同じはず」
「いや…ちがう、幸一の方が手薄になっている」
「本当か?」
「ああ...俺と違って実際にお前は市中へ出ることが許されている」
「たしかに」
「結奈はキモブタに洗脳されている」
「そういえば、彩音がそんなこと言っていたよな。たしか、隷属とか」
「だから、お前が助けてやれ、あのキモブタから」
「たしかに、あのキモブタヤローのところにいるのには、何か理由があると思った」
「白雪姫の状態になっている結奈を助けられるのはお前だけだ」
「だとしても、どうやって」
「さらってきたら、結奈をやっちまえ」
「え?」
「やれば解放されるらしい。その隷属とかは」
「俺でいいのか…」
「好きなんだろ?」
「あ…うん」
「隷属解放は、結奈を好きな奴しかできないらしい。だから、毎晩、あのキモブタヤローにやられている結奈を救い出せるのはお前しかいない。わかったな」
「お…おう…わかった」
「それと、馬小屋の横の小屋を使え、許可はとってある。ほれ、鍵はこれが」
「サンキュー」
こうして、ずさんな結奈誘拐計画が始まったのだった。
☆☆☆
―――ギルドの食堂
クミ・ミリア・フィリア・結奈の4名は、冒険者たちの前に立っていた。
リリナがジョッキを高々と上げ
「今日は、Dランクに昇格した4人を祝して、パーティーを行う。それではみなさん。いいかな?」
「「「「「おーー!!」」」」
「4人のDランク昇格を祝して、カンパーイ!!」
「カンパーイ!!」
昇格パーティは、冒険者恒例の行事の一つらしい。今回は、新人からDランクへの昇進ということもあって、一部はギルド基金から出されている。それよりも今回の食事は豪華だ。なにせ、結奈が腕によりをかけて作ったからだ。そう、から揚げ、てんぷらとマヨネーズがあったのだ。これを見た冒険者たちは喜んだ。
《高カロリー注意報発令。取り過ぎに注意してください》
「うるさい!!」
《特にクミ》
「うるさい!!」
《また、レベルダウンしますよ》
「う・・・」
すると、茉子と真奈と紗季が私のところにやってきた。
「結奈ちゃん。おめでとう」
「ありがとう」
茉子は、私の耳元でぼそりと呟いた。
「ところで、結奈…国府田くんと付き合っているの?」
その言葉を聞いて、ジュースを飲んでいたにもかかわらず、思いっきり息を吸ってしまった。
「うぐ…げほげほげほ…」
飲みかけていたジュースが気管に入って、むせ返してしまった。
「結奈…大丈夫?」
と言いつつ私の反応を見て、不敵な笑みを浮かべている。しかも
「違うの?」
ここは、全否定をしないと
「ち、違うよ!!」
真奈
「でも仲良いよね」
紗希
「いつも一緒じゃん」
「ち、違うんだってば!!」
すると茉子が
「でも、結奈の顔......真っ赤だよ」
「誰のせいだと思っているのよ」
するとミリアやってきた。
「ん?なんの話をしているの?結奈」
私の頬をつんつんとつついてくる。これはミリアさんが酔い始めた証拠だ。そこへ茉子は、いらぬこと言うし
「ミリアさん。結奈って、国府田くんのこと好きですよね」
「茉子!!」
「そうねぇ~?そう言われてみればそうかも?」
ミリアさんがじっと私の顔をつつきながら、
「そうなんだ~ところで結奈、クミのどこが好きなの?」
「好きじゃないです!!」
するとフィリアさんまで来て
「好きじゃないそうですって…?」
フィリアさんの声がクミ君まで届いた。
「何の話?」
すると私以外の全員が
「「「「「黙ってて!!」」」」
「はい」
みんなの迫力に押されて、引き下がるクミくんをナビ子が慰めていた。
《クミにはガールズトークの参加資格がありません》
「はい」
《太過ぎます》
「おい!!」
《ダイエットを推奨します》
「ダイエットって?」
そのことに気づいたリリナさんは、クミを連れて行った。そこに、見たこともない女性が入ってきた。
「誰、あの美人……」
冒険者たちがざわつく。
豪華なローブ。
長い銀髪。
そして自然に周囲が道を開けている。
普通の人物ではない。
するとリリナさんが慌てて頭を下げた。
「魔導士長様」
え?
魔導士長?
私は思わず目を見開いた。そんな偉い人がどうしてここに?すると、その女性は真っ直ぐクミ君のところへ歩いていった。
「よっ。久しぶりだな」
「うああっ!?」
クミ君が露骨に逃げようとした。しかし、リリナさんががっしりと押さえつけている
「安心せえ、今すぐ取って食べる訳じゃないわ」
するとクミくんが落ち着いた様子に戻るとやけにベタベタしている。
「魔力通環した仲じゃないか。それにしてもだいぶ痩せたな」
魔力通環したって?だから、クミくんの体をあんなに触っているの?
「結奈?結奈?」
しかも、抱きついているし。
「結奈ってば!!」
茉子の声で我に帰ったんだけど、みんなの顔がニヤついている。
「やっぱり」
「違うんだってば」
すると瑞稀まで変なこと言ってきた、
「意外だったけど、国府田くんて優しいよね。あれ初めからなの」
「え?」
するとミリアさんが
「クミ?やさしい?そういえばそうかもだけど、優しいというよりヘタレかな」
「そうなんだ」
「でも、優しいのは優しいね。だって、助けてと言ってきた女の子をあっさりと助けてるんだもの」
その視線は、私を見ていた。すると瑞稀はまた余計なことを言った。
「なんか、最近痩せて来て、なんとなくかっこよくなってない?」
その話に真奈と紗季がうんうんとうなずいている。
「そうそう、私も思った」
ってみんな何の話をしているの?
「結構、モテそうだね」
「実は、最近やばいんだ。ただ、ギルド規則で、私たちのパーティーに入っているから手出しできないんだけど、狙っている冒険者もいるみたい」
「そうなんだ…それで?なんで国府田くんはやせたの?訓練のせい?」
「実は、レベルアップの時に、魔力通環をしたら痩せるのよ」
瑞稀、茉子、真奈、紗季は真っ赤な顔をして、ミリアさんとフィリアさんと私に聞こえないように話をしているんだけど、魔力通環=えっちということは私も知っている。そして、みんながニヤニヤしながらこっちを見ている。
あの人がクミくんと?。う…うそ…私は思わず声を上げた。
「やめて!!」
するとみんなはきょとんとした顔で私を見た。
「なんで?」
「なんでって……」
私は言葉に詰まった。
なんで?
なんでだろう。
別にクミ君が誰とレベルアップしようが関係ない。関係ないはずだ。
なのに。
胸の奥がモヤモヤする。
すると茉子が追撃してきた。
「結奈」
「なに?」
「もしかして嫉妬?」
「違う!!」
即答だった。
だが。
「早かったね」
「早かったですね」
「早かったねぇ」
「早かったわね」
全員が頷いた。
「違うってば!!」
すると瑞稀が首を傾げた。
「でも、もし国府田くんが他の女の子と付き合ったら?」
「え?」
私は固まった。
付き合う?
クミ君が?
誰かと?
頭の中に知らない女の子と並んで歩くクミ君が浮かぶ。
なんか嫌だ。
すごく嫌だ。
「ほら」
「顔に出た」
「出たね」
「出ましたね」
「出たわね」
「うぅぅぅぅ……」
私は机に突っ伏した。
逃げ場がなかった。
そして、最後にミリアさんがポツリといった。
「そういえば、さっき、ナビ子がこの後、レベルアップがあるって言ってたよ」
「レベルアップって」
「魔力通環よ」
その言葉に胸がドクンと跳ねた。
魔力通環。
つまり――。
私は慌てて首を振る。
違う違う。
何考えてるの私。
そんなことあるわけないじゃない。
そもそもクミ君はパーティーメンバー全員とやってるんだから。
私じゃなくても不思議じゃない。しかし、次だって誰か別の人。
そう。
別の人。
別の――。
そこまで考えて、なぜか胸が少しだけ苦しくなった。
なんで?
私は思わず自分の胸を押さえる。
別に私じゃなくてもいいはずだ。
そもそも、この世界じゃ普通のことなんだし。
男性は少ない。
魔力通環も必要なこと。
だから。
別に。
私が気にする理由なんてない。
ないはずなのに。
「結奈?」
「え?」
茉子に呼ばれて顔を上げる。
「顔、真っ赤だよ」
「う、うるさい!」
慌てて否定する。
でも。
心のどこかで。
もしかしたら。
ほんの少しだけ。
期待していた自分がいた。
その事実に気づいた瞬間。
顔がさらに熱くなった。
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