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第15話 「作戦会議とヲタ通」

「ランクアップ試験」


冒険者が避けて通れない試練。そして今回、その試練をクミたちのパーティーが受けることになった。

会議室で苦悩するクミたち。

ゴブリンリン討伐――。

それは、たった四人のパーティーにとって最大の試練だった。そして、カオスと化した会議。


彼らを苦しめた最大の敵。


その名は――『カロリー爆弾』。


これは、ランクアップをかけた冒険者たちの苦悩と青春の物語である。


☆☆☆


――数日前


《それは腐っています》


「すっぱーっ!! なにこれ!?」


ミリアとフィリアがお酒を飲んでいると、一本のワインがテーブルに置かれていた。しかし、それは既にワインではなかった。見事に腐っていた。


「もう……ミリアったら。また安いワイン買ってきたでしょう」


フィリアが呆れたように言う。


「だって安かったんだもん」


「安かったって、これはひど過ぎます」


「確かに酸っぱ過ぎるわね」


二人が顔をしかめていると、ミリアが突然、不敵な笑みを浮かべた。


《ミリアさんが悪だくみをしています》


「これ……クミに飲ませない?」


「それ……面白そうですね」


フィリアも即座に乗った。


《絶対に面白いので了解します》


《作戦名:腐ったワイン》


《なお、酸っぱい匂いが強いため冷やしておくことを推奨します》


これが後に会議をカオスへと導くことになるとは、この時まだ誰も知らなかった。


☆☆☆


数日後。


クミたちのパーティーはギルドに集まっていた。今回の討伐対象はゴブリンリン。そして、受付嬢リリナによるブリーフィングが始まった。


「今回の注意事項ですが――」


リリナは真剣な表情で言った。


「彼らは学習しています」


「は?」


クミの思考が停止した。


「学習?」


ミリアも首を傾げる。


「今回のゴブリンリンには催眠ガス作戦が通用しません」


「「「えええええぇぇぇぇぇっ!!?」」」


会議室に悲鳴が響いた。


《それは困りました》


結奈だけが一人、話についていけていなかった。


「ゴブリンリン討伐へ向かった冒険者から報告がありました」


リリナは資料を広げる。


「催眠ガスを流しても、ゴブリンメイジが風魔法で換気するそうです」


その瞬間、結奈以外の三人の顔色が変わった。


「どうするんだよ……」


クミが頭を抱える。


すると、その空気を変えようと思った結奈が手を挙げた。


「ここは一旦、お茶にしませんか?」


《気分転換は必要です》


「ナビ子、今日は嫌にまともだな」


《失礼な。私はいつもまともです》


いつもなら結奈一人で準備するお茶。しかし今日はミリアも立ち上がった。


「手伝うわ」


「ありがとう」


二人はキッチンへ向かった。その途中、ミリアとフィリアにだけ聞こえるようにナビ子が囁く。


《作戦名:腐ったワイン》


《MISSION START》


二人の口元が吊り上がった。この日の会議室には客もいた。王城女子組のリーダー瑞稀、軍師役の茉子、そして真奈と紗季。

ゴブリンリン討伐の話を聞き、参考にしようと見学に来ていたのだ。


そして――。


作戦は実行された。


「今日はぶどうジュースです」


結奈が笑顔でコップを配る。


「おおっ!!」


クミが嬉しそうに受け取った。


そして、何の疑いもなく一口飲んだ。


次の瞬間、


口の中いっぱいに広がる強烈な酸味。


鼻を突き抜ける刺激臭。


「――ぶっ!!」


ぶぶーーーーーーーーっ!!


クミが盛大に噴き出した。

窓から差し込む光に飛沫が反射する。

その空間に虹がかかった。


「ななななな……なんだこれぇぇぇぇ!!」


ミリアとフィリアは大爆笑。


《ミッションコンプリート》


会議室は大混乱に包まれた。


そして、その中で一人だけ別のことに気付いた人物がいた。


小森結奈。


生活魔法の才能を買われ、このパーティーに加入した少女。今では立派な戦力となっている。そんな彼女が首を傾げた。


(この匂い……)


(まさか……お酢?)


《正解です》


「え?」


《ワインビネガーです》


しかし、この会話に気付いたのは結奈だけだった。


☆☆☆


しばらくして、ようやく会議室が落ち着きを取り戻した。

ミリアとフィリアがリリナにこってり絞られたのは言うまでもない。

机の上にはゴブリンリンの巣の簡易地図が広げられていた。


「つまり――」


クミが腕を組む。


「真正面から突っ込むと死ぬ」


《はい》


「即答!?」


《敵戦力は前回の約三倍です》


《正面突破時のクミ死亡率は九十二%です》


「高っ!!」


クミが思わず叫ぶ。ミリアが呆れたようにため息をついた。


「で、どうするの?」


「前回みたいに催眠ガスは?」


フィリアの言葉にナビ子が反応する。


《却下です》


「早っ」


《ゴブリンメイジが風魔法で拡散する可能性があります》


「あー……」


全員が頭を抱えた、催眠ガスはもう通用しない。奇襲も難しい。しかも相手は前回より学習している。


状況は最悪だった。


するとリリナが追加情報を口にした。


「さらに――」


嫌な予感しかしなかった。


「前回の調査で、ボブゴブリンリンの存在が確認されています」


会議室が静まり返った。


「うわぁ……」


クミが天井を見上げる。ボブゴブリンリン。前回、辛うじて倒した強敵だ。


「前は寝違えてたんだよな……」


「そうね」


ミリアも頷く。


「しかも催眠ガスで周囲のゴブリンリンが眠っていたから戦えた」


「今回はその条件がない」


フィリアが冷静に告げる。つまり、真正面からぶつかれば勝てる保証はない。


「詰んだ?」


「詰んだかも」


「詰んだわね」


《ほぼ詰みです》


「おい!!」


クミが机を叩いて、辺りを見回した。みんなの戦意を喪失して、言葉の出てこない。


そんな時だった。


突然、結奈が立ち上がった。


「そうよ!!」


全員が振り向く。


「マヨネーズ!!」


沈黙。


「そう!!」


結奈の目が輝いていた。


「これでマヨネーズが作れるわ!!」


みんなは、結奈が何を言っているのか分からなかった。


⭐︎⭐︎⭐︎



《緊急速報!!》


《緊急速報!!》


《リリナの魔王覇気を確認!!》


「結奈さん!!」


リリナが立ち上がった。


「なんですかそのマヨ!!マヨ!!」


「マヨネーズです」


結奈が即答する。


「ですから!!」


リリナが机を叩いた。


「それでゴブリンリンを倒せるのですか!?」


「倒せるわけないでしょ」


結奈は真顔だった。


「だって調味料なんですもの」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


会議室に絶叫が響いた。


《リリナさんの魔王覇気レベルが上昇》


《危険水域に到達しました》


《直ちに避難することを推奨します》


「今は!!」


リリナが指を突きつける。


「ボブゴブリンリンをどう倒すかを考えている大事な会議なんです!!」


「でもマヨネーズよ?」


「でもじゃありません!!」


「だってマヨネーズなのよ?」


「だから何なんですか!!」


結奈が立ち上がる。


その瞳には決意が宿っていた。


「たかが調味料だと思ってるの?」


「たかが調味料でしょう!!」


次の瞬間。


会議室の空気が凍った。


《緊急速報!!》


《緊急速報!!》


《結奈から魔王覇気を確認!!》


「たかがですって?」


結奈の声が低くなる。


全員の背筋が震えた。


「え?」


リリナが一歩後退る。


「たかがですって?」


結奈がもう一歩前へ出る。


「これはね」


さらに前へ。


「世界を変える調味料なのよ!!」


ドン!!


机を叩いた。


「ボブゴブリンリンごときと一緒にしないで!!」


「何を言っているんですか!?」


「マヨネーズは偉大なの!!」


「だから今はゴブリンリンの話を――!!」


「卵は!? 卵はあるの!?」


「ありません!!」


「酢は!?」


「知りません!!」


「油は!?」


「だから知りませんって!!」


「ランプ油使えるかしら?」


「使わないでください!!」


《会議は完全に崩壊しました》


ナビ子が冷静に宣言した。


その後も。


「マヨネーズは文明よ!!」


「違います!!」


「革命なのよ!!」


「だから違います!!」


「リリナさんはマヨネーズを知らないから!!」


「知りたくありません!!」


「人生損してるわ!!」


「余計なお世話です!!」


完全に収拾がつかなくなった。


そして――。


ランクアップ試験へ向けた作戦会議は。


いつの間にか。


『マヨネーズ開発会議』


へと変貌していたのだった。


☆☆☆


数分後。


会議室は静寂に包まれていた。


結奈が、


「やっぱり卵は新鮮な方がいいよね」


と言い残して買い物へ行ってしまったからである。


残されたメンバーたちは無言だった。


そして。


魔王覇気を発動したにもかかわらず。


結奈に押し切られたリリナも無言だった。


完全敗北である。


やがてリリナは立ち上がった。


「……あとは任せます」


そう言い残して会議室を出ていった。


背中が少し泣いていた。


《リリナさん戦闘不能》


《会議進行役が消失しました》


「おい」



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