第12噺 「結奈の料理とヲタ通」
――訓練場
この日、私たち、早乙女莉子、篠原真奈、白石紗季の3人も含めたみんなが訓練場に集められた。どちらかというと魔力も弱い私たち、一応、魔法は使えるがたいしたことはない。ちなみに私は火属性、真奈は、水属性、紗季は、風属性、多少の攻撃はできる程度、なので、後衛として今回は参加することになった。攻撃力が半端ない、瑞稀は前衛、回復がメインとなる莉亜羅と攻撃力が少ない女子は、私たちと同じとなっている。そして、攻撃力が弱い男子は、私たちを守る為、後衛にという班分けが決まっているはずだった。
衛兵の説明に、男子たちはざわついた。
「今回の討伐対象はガーウルフだ」
「なんだ、また雑魚かよ」
「この前も余裕だったしな」
風間が鼻で笑う。だが、衛兵の表情は微妙だった。確かにガーウルフは低ランク魔物だ。だが、最近になって被害報告が増えている。特に問題視されているのは群れでの連携だった。
「油断するな。ガーウルフは――」
「はいはい、わかってますって」
風間は途中で遮った。
「ザコはザコ、俺たちが蹴散らして見せますって、なぁ、竜也、リク!!」
「おう!!」
確かに、風間は既にレベル60を超えている勇者、竜也は剣士でレベル50、リクは、武闘家でレベル50と男子の中でスリートップ。
「それに、もう一人勇者がいるから、大丈夫だよな。瑞稀」
瑞稀、彼女はレベル80を超えの勇者、クラスメイトの中で一番強い。
「ええ…そうね」
しかし、衛兵は話を続けようとした。
「しかし…今回の実習は」
「ええい!!ガーウルフだろう!!10匹でも20匹でも、ザコはザコだ。そんな説明はいらん!!早くいこうぜ!!」
――この感じ、嫌だ。私達3人にガーウルフの対戦経験はない。この間、結奈たちが戦っているのを見たのが始めて、ランク上位の男子たちは、雑魚と言っているが、話によると衛兵が誘い出したのを一体一で倒して、楽勝だと言っている時点で不安になる。何よりリーダーになっている風間、あいつが信用できない。
「莉子。どうする」
真奈が不安そうに話しかけてきた。
「正直行きたくない」
「わたしも」
不安そうな紗季、私も逃げ出したい。そう思って近くの衛兵に辞退したいといったけど、今回は却下された。いつもなら、体調不良ということで、休むことは可能なのだが、なぜか、休めない。
☆☆☆
「嫌だなぁ~」
隊列の最後部で私たち3人がついていく。一応、衛兵もどこかで見守っていると思う。結奈たちとの実習で聞いた話を思い出す。
『ガーウルフは単体なら弱い。でも群れになると厄介』
『囲まれる前に位置を取る』
『森では木を使え』
クミがそう言っていた。最初は何を大げさな、と思った。だが、実際に実習へ行ってわかった。あのパーティーは、異常なくらい森に慣れていた。
そして、目の前にガーウルフが現れた。しかし、いきなり攻撃をしてこないで、威嚇しながら、距離をとっているように見える。その時、再びクミたちの話を思い出した。
『一匹で威嚇して、距離をとっているガーウルフは偵察役だ。近くに本体がいるから、距離を置いて、ゆっくりと下がるのがベスト。無理なら近くの木に登れ。決して前に出るな!!出ると囲まれるぞ!!そうなったら、お前らだと終わりだ』
すると風間は、
「へへへ!!いいカモがそこにいるじゃねぇか。とっととやっちまうぞ!!突撃!!」
「「「おー!!」」」
風間の声と同時に男子たちが突撃した。女子たちも慌てて続く。しかし、私が立ち止まると、それに気づいた真奈と紗季は、同じように立ち止まった。
「莉子。どうしたの」
「ちょっと…」
と話をした途端、目の前の状況を見て、私たちは恐怖に包まれた。
ガサガサガサッ!!
「っ!?」
森の奥から次々と影が現れた。
「なっ……!?」
「囲まれてる!?」
ガーウルフの群れだった。しかも速い。すでに数匹はクラスメイトに飛びかかって、慌てて振っている剣を軽く避けている。
すると横から別個体が飛びかかった。
完全に連携している。
クラスメイトの悲鳴が聞こえた。
「ぎゃあっ!!」
男子の一人が肩を裂かれる。
「回復!!回復ぅぅ!!」
「どこ?だれを?」
あちこちからクラスメイトの悲鳴が聞こえる。
「無理!!速すぎる!!」
みんなパニックになっている。しかし、私はあの時の言葉を思い出した。
「木!!木の上!!」
「え!?」
「フィリアさんたちが言ってた!!」
真奈と紗季は頷いて、必死によじ登る。下では悲鳴、ガーウルフが男子たちを翻弄していた。
「莉子。これからどうする?」
おびえる二人に
「ガーウルフはここまで来れないから、大丈夫。だけど、このままだとみんな死んでしまうからよく聞いて」
「「う…うん」」
「ここから魔法攻撃をする」
「でも、わたしたちって」
「ガーウルフに隙ができれば、瑞稀がなんとかしてくれる。それに――これがあるから」
私は匂い玉を見せた。
「最悪、これを使うから」
三人でうなずいて、ガーウルフに向かって魔法攻撃を始めた。
ドンッ!!
ガーウルフが怯んだ。
「あっ……!」
「効いてる!!」
紗季も続く。真奈も放つ後方からの遠距離攻撃だけで状況が少し変わって、ガーウルフの陣形に隙ができた。すると、瑞稀が声を上げた。
「あそこから脱出する。みんな続け―!!」
みんなが逃げ出した瞬間、私は、匂い玉をガーウルフに向かって投げつけた。
パァン!!
次の瞬間。
「ギャウンッ!?」
ガーウルフたちが一斉に怯んだ。
「今!!逃げて!!」
全員が転がるように撤退した。
☆☆☆
撤退完了後、男子たちは疲弊していた。
「クソ……なんだよあれ」
「低ランクじゃなかったのか……?」
風間は舌打ちした。だが、彼らは、私たちの行動を全く知らないようだった。それに、逆に無視をしているようにも見えたので、何も言わなかった。
しかし、瑞樹は、私たちのところにやってきて、
「助かった。ありがとう。ところで、何故、突撃に参加しなかったの?」
「えっ……あ、私たち、最初から後衛だったので。あれ?って思ってるうちに、みんな突撃していって……」
「そうだったの? でも、どうして木の上に?」
「そ、それは……後ろから魔法を撃ったら、みんなに当たりそうだったし……その、上のほうが見やすいかなって思って……」
「そうだったの、いい判断だわ」
そう言い残して、彼女は莉亜羅のもとに向かった。ただ、あの日のことを言うことはなかった。
そして。
「……また干し肉」
昼食を見た瞬間、私もだけど女子たちはげんなりした。
硬いパンと干し肉と水
それだけ。
しばらく沈黙が続いたあと――
真奈がぽつりと言った。
「……結奈のお弁当、食べたい」
「そうね。また食べたいね」
私たち3人だけが思い出す。
パンは、同じでも薄く切ってあって、具材は、卵焼きやハムチーズのサンドイッチ。
味付けは同じ塩味だったけど、結奈とたべた記憶が蘇る。
「……わかる」
「おいしかったよね、あの卵焼きのサンドイッチ、あれなんか出汁の風味なかった?」
「あった。なんか、塩以外になんか入っているよね」
「それにあのハムチーズ、なんか柑橘系の味もしてったような」
「あれもおいしかったよね」
「また食べたい……」
結局、この日の実習訓練は負傷者が多くでたので、午後からは中止となった。
☆☆☆
数日後。
再び実習訓練の許可が下りた。
私と真奈と紗季は喜んだ。
「やった!!」
「また行ける!!」
「結奈のお弁当!!」
今回は、私たちのほかに彩音以外に、瑞稀、莉亜羅とナミとレイアの合計8名で行くことになった。実習訓練は、やはり薬草採取。瑞稀、莉亜羅は、不満を言っていたが、私たちにとっては、これがベスト。ナミとレイアは、魔物討伐じゃなくて、ほっとしたみたいだった。
結奈は私たちを優しく迎えてくれたんだけど、彼女たちは、国府田君のことを信用していない。なので、距離をとっている。
今回は、薬草採取時にネズネズミ、ホーンラビットやプルプルスライム、それに、ガーウルフも出てきたんだけど、強すぎるよ結奈たちは、あっという間に倒してしまった。特に、結奈、あんた、あの距離から弓矢で急所を撃ちぬいてガーウルフを即死させる?みんな驚いていた。
しかし、結奈は相変わらずだな。薬草を間違えるなんて、今回はデンデンサイというのを間違って引いて、電気ショックを受けていた。
「結奈、大丈夫?」
「だ,,,大丈夫」
そして、待っていました。ランチタイム
今回はパンが変わっていた。更に薄くなっているし、やわらかいものになっていたので、食べやすいしおいしい。
「結奈、これだし巻き卵になってない?」
「あっ、わかっちゃった。クミくん以外で、気付いたの莉子が始めて」
結奈が嬉しそうに話す。
「けど、まだまだなんだ。これ」
結奈が指刺したのは、ポロポロチョウの串焼き、焼き鳥の塩味なんだけど、これも実は柔らくって美味しい。私達からしたら、王城では、最高級の食事として、塩味のパサパサの焼き鳥が出るんだけど、結奈のサンドイッチの前には霞んでしまう。
「だって、結奈サンドイッチが美味しい過ぎるから」
「ありがとう」
「じゃあ、特別にこれを出してあげよう」
そう言って結奈が取り出したのは、ハチミツがかかった少し硬めのパンケーキだった。しかも、上には木苺まで乗っている。
「「「きゃぁぁぁ!!」」」
女子たちの歓声が上がる。
「一人一個しかないんだけど、我慢してね」
「十分だよ!!」
「えっ、これほんとに食べていいの!?」
ハチミツなんて王城でも滅多に食べられない高級食材だ。そんなものが使われたお菓子に、みんな大興奮だった。
しかも甘い。
それだけで幸せになれる。
「おいしい……」
「なにこれ……」
「やば……」
みんな夢中で食べていた。
だけど。
前に来た私と紗季と真奈以外は、まだ国府田君と距離を置いている。料理は美味しい。でも、それとこれとは別。そんな空気だった。
その一方で。
結奈は、少し離れたところで、国府田君とミリアさん、フィリアさんが仲良さそうに話しているのを見て、小さくため息をついていた。
そして、私たちに向ける笑顔も、どこか無理をしているように見えた。
――あれ?
その時、私は少しだけ違和感を覚えた。
みんながこんなに喜んでいるのに。
結奈だけが、どこか納得していないように見えたのだ。
そして、今回も報酬は平等に分けてくれた。
帰りはみんなで買い物をして、最高の実習訓練は終わったのだった。
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