第11話 「実習訓練とヲタ通」
…風間SIDE…
――王城の一室
「今…なんて言った?」
風間は顔をしかめた。
国府田へ殴りかかった越智幸一がギルドで起こしたいざこざは、貴族たちがなんとか揉み消した。その代わりそろそろ魔の森での実習訓練で示せとか、これは楽勝だ。
そして、幸一は、1週間サポートセンターに送られ、毎日可能な限り、精子提供をさせられる。これも自業自得ってやつだ。仕方ない。
しかし、すでに死んでいてもおかしくない国府田が生きている?バカな。
「いなくなった結奈が国府田のパーティーにいたんだ」
そんな馬鹿なことがあるものか。それが本音だ。貴族たちにも確認した。ヲタ通なんてスキルがこの世界に存在していないこと、体力・精力もない奴のランクはF以下、つまり、ギルドに行っても、冒険者登録すらできない。よって、野垂れ死に確実、男ということで、奴隷という価値がありそうだが、精力がないという事実、最低でも週に一度の提出もできないという判定をさせられた奴が、生き残れる可能性は0に近い。そんな奴がパーティーを組んで、しかも、結奈を連れている?
「幸一…なんかの冗談だろ」
すると高坂 彩音
「本当よ。私もびっくりしたわ。しかも、生意気に結奈以外に二人の女を連れていたわ。それに」
「それに?」
「結菜は絶対にあいつの奴隷にされているわ」
面白くねぇな…それに、女を連れていた。んな…バカな?
あの件以来、彩音以外の女子からは総スカンになった。だから一番気の弱い結奈を狙っていた。皇帝の目もあったので、結奈が好きだと言っていた幸一を使って、結奈の周りを探っている矢先に王城から逃げ出してしまった。しかも、キモブタのところにいる?
「わかった」
すると彩音が面白いことを言っていた。
「あ…そうそう…今度、 莉子たちが、キモブタのところに行ってくるんだって」
その言葉を聞いて、不敵な笑みを浮かべ
「彩音、お前も一緒に行って来いよ」
「え~!!ヤダよ。キモブタのところなんか」
「莉子たちが奴隷にされないか。心配なんだ。俺には勇者としての責任があるからな」
「えー、どうしよう」
「彩音にしか、頼めないんだ。瑞稀と莉亜羅は使えないから」
「も…う…仕方がないな~後でちゃんとしてよ」
「ああ…そうするよ」
単純な女だ…
~女子SIDE~
「瑞稀ぃ~行っちゃダメ?」
すると珍しく彩音が声を上げた。
「私が一緒に行ってあげようか?」
「そう?あなたが行くなら安心ね。国府田が変なことしたら攻撃してもいいからね」
「わかったわ」
こうして、私たち、早乙女莉子、篠原真奈、白石紗季の3人は、結奈がいるパーティーに実習訓練ということで参加する許可が下りた。しかし、私たちはわかっていた。彩音は、護衛としてではなく、風間の見張りということを。それに、今回は、衛兵も一人ついてくるらしいので、皇帝の目が届くので、大丈夫ということになった。
しばらくして、ギルドから参加許可が下りたという連絡を受けた。
~クミSIDE~
あれからしばらくは、薬草採取を中心に、低ランクのプルプルスライムやホーンラビットの討伐をやっていた。意外なことに生活魔法しか使えないはずの結奈が、弓矢の才能があった。
きっかけは、エルフのフィリアが彼女に弓矢を持たせてみたら、筋がいいとわかったからだった。
最初はおっかなびっくり弓を引いていたのだが、プルプルスライムの核を一撃で撃ちぬいたのを見て、本格的に練習をやらせることになった。しかも、本人も前向きに頑張っている。更に、魔力も上がっていることから、魔力補正もできるようになっているそうだ。
しかし、薬草採取の時は相変わらず、品種を間違えてしまうこともあるが、以前よりだいぶましになってきている。そんなある日のことギルドで今日の成果を提出していたところ、リリナに呼び止められた。
「クミ。王城からクミのパーティーへ実習訓練の依頼よ」
リリナが封筒を差し出した。
中を確認すると、
依頼書
要件:高坂 彩音、早乙女 莉子、篠原 真奈、白石 紗季の4名の実習訓練
報酬:50万イェーン
訓練内容:冒険者ギルドでの依頼であること
報酬:50万イェーンにみんなの目が止まった。
「……多くないか?」
するとリリナがため息を吐いた。
「王城案件だからよ。それに――お詫びも含まれてる」
「お詫び?」
「ギルドでの件。かなり問題になったのよ」
空気が少し重くなる。
結奈が小さく肩を震わせた。
「……」
ミリアがすぐに気づく。
「結奈?」
「……ちょっと、思い出しちゃって」
するとフィリアが即座に口を開いた。
「反対です」
「フィリア?」
「また結奈やクミが傷つく可能性があります」
ミリアも頷いた。
「正直、私も嫌ね」
すると。
《客観的に分析します》
ナビ子が機械的に告げる。
《現在、王城側はクミパーティーに対して強硬行動を取りにくい状態です》
《理由》
《① ギルド問題が表面化》
《② 皇帝監視下》
《③ 実習名目》
《④ 衛兵同行予定》
《危険度:中》
《ただし、利益は大きいと判断します》
「利益?」
《50万イェーンです》
「そこかよ!!」
《現在のクミは金欠予備軍です》
「うるさい!!」
空気が少し緩む。
すると結奈が小さく言った。
「……莉子ちゃんたちが来るなら、私は会いたいかも」
ちなみに、訓練内容は危険度が低い薬草採取にすることでみんなで決めた。
☆☆☆
結奈は喜んでいた。
「彩音ちゃん、莉子ちゃん、真奈ちゃん、紗季ちゃん。ひさしぶり」
「「「結奈ちゃんも」」」
俺がみんなの前に出ると結奈以外は顔をしかめた。すると、ミリアとフィリアが俺を引っ張って、
「今日は結奈に任せるって決めたでしょ」
「そうですよ。クミはでしゃばっちゃダメ」
「そうだった」
こうしてギルドに行って、4人で予定通り、薬草採取の依頼を受けてきた。ここまではよしとして、俺たちは、木陰から彼女たちを見守っていたら、後ろからリリナが
「あんたら何やっているのよ。こんなものまで持ち込んで」
「いや…その」
「あ…来たね」
結奈がこっちにやってきた。
「クミ君…薬草採取の依頼を受けてきました。依頼書はこれね」
「ん?内容は…問題なし。じゃぁ…いつもの森に向かっていこうか」
「はい」
流石に4人は俺と距離を取っている。まぁ…想像していたけど、しかし、この距離感の違いは仕方ない。
……って、なんでミリアとフィリアはいつもより近いんだ?
「ミリア…フィリア…なんか近くない?」
「なにか?」
「なんですか?」
《相変わらずクミはおバカですね》
「うるさい」
「ほんと」
「おバカなんだから」
二人は、離れる気が全くないようだった。
「それより、薬草採取、結奈に任せて大丈夫なの」
「最近の結奈を二人とも見ているだろ」
そう…彼女は頑張った。最近はミスもない。
「けど、あの子、クミと同じで、調子に乗るとポンミスをすることあるからな」
そんなやり取りを見ていた結奈たちは、不思議そうな顔をしていた。
「結奈、ミリアさんとフィリアさんって、いつもああなの?」
「…」
反応がない。
「結奈!!どうしたの」
「あっ、ごめん。依頼の件を考えていた」
「それより、あそこの三人は、いつも、ああなの?」
「あっ、クミくん達?あっ…うん、いつも?というより、今日は特にベタベタしてるね。たぶん、わたしたちが安心するためだと思う。クミくん、みんなから嫌われてるしー」
すると彩音が
「へー、あんなキモブタでも気を使うんだ」
「クミくんをキモブタ呼ばわりしないで!!このパーティーのリーダーなんだから」
急に怒った結奈に四人が驚いた。特に彩音は、慌てて自分の言葉を訂正した。
「ごめん、ごめん」
(やっぱり、結奈は隷属化されているに違いない)
森の手前まで来たので、ミリアと俺が前、フィリアは後ろという体制で彼女たちを守ることにした。
防御体制は万全だった。しかし、薬草採取がはじまると不安が的中した。
結奈がドヤ顔で、
「今日は私が教えるね!」
と言う。するとミリアとフィリアが、
「不安しかない」
「結奈だからね……」
すでに警戒モード全開だった。結奈が指差した薬草、その草はヒール草ではなかった。
「これがヒール草で――」
ブチィ!!
次の瞬間、
びゅるっ!!
「きゃぁぁぁぁ!?」
白いネバネバ液が結奈達を直撃した。
しかも生臭い。
「うわぁぁぁ!!きしょいぃぃ!!」
《サッツメイモです》
「なんでそんな名前なの!?」
《酷似植物です》
「またそれぇぇぇ!!」
さらに。
《かゆみ成分があります》
「かゆっ!?」
「うわぁぁ!!かゆいぃぃ!!」
臭さと痒さで女子達は大混乱している。
「とりあえず、目をこするな!!」
「痒み広がるぞ!!」
「フィリア、解毒草!!」
「はい!!」
「ミリア…俺は、ここで待っているから結奈たちを洗い場へ連れて行ってくれ」
「了解」
彼女たちは、近くの小川に敷居をたてて体を洗った。
「クミは来ないよね」
ミリアが答えた
「私がここから見張っているし、クミの横にはフィリアが見張っているからここには絶対来れないわよ」
「でも…」
「あいつヘタレだから、そんな度胸ないって…それより、さっき引き抜いたサッツメイモの根っこを見てはしゃいでいたから、そっちの方が気になるんだけど」
《またろくでもない顔をしていました》
ナビ子が冷たく言った。
《クミが何か閃く時は必ず問題が起こります》
「そうね。きっと、またギルドが大騒ぎになる予感しかないわ」
そして、彼女たちが戻ってきた。
「あ~あ…ひどい目にあったわ」
「もう…本当に」
「ごめん。とにかく、薬草集めをしましょうって?クミは何しているの?」
「また、バカなことを始めるつもりだわ」
「そうね、クサイクサイと言いながら、サッツメイモの根っこを集めているわ」
彼女たちは、薬草採取を再開した。その後は順調そのものだった。お昼はというと5人でピクニック気分で、結奈が作ったお弁当を食べていた。
「なにこれ」
「王城の食事よりうまいんだけど」
「実習の時なんて、サイテーだもんね」
「そうそう…カタイパンと干し肉」
「あれ…最悪」
「結菜は、いつもこんなにおいしいもの食べているの?」
「あ…うん…今は、私がほとんど作っているんだ」
「なんで?」
すると視線をクミの方を向けた。3人は、この視線に気づいた。
「そうなんだ」
「あ…ちがうんだから」
「ふーん」
「ま…そういうことにしておきましょう」
そんな中、少し焦っていたのは彩音だった。隙を見て、可能なら国府田を殺せという指示があったが、そんな隙は全く無かった。というよりミリアとフィリアがしっかりと見張っている。
ついさっきも彩音がそっと短剣に触れた瞬間。ミリアの赤い瞳が、真っ直ぐ彩音を射抜いた。
「……変なこと考えてないわよね?」
「っ……!」
しかし、平和な時間もここまでだった。午後に入ってガーウルフが襲来してきたのだった。
《警戒》
《ガーウルフ接近。推定数10》
前衛に俺とミリアがでる。そして、後衛にフィリアと結菜という陣形をとって応戦した。
《なお、クミの作戦成功率は現在78%です》
「中途半端にリアルだな!!ミリア、匂い玉、準備できたぞ」
俺たちの後方では
「結奈、落ち着いて」
「う、うん……!」
フィリアに教わった通り。
矢を放つ。
ヒュッ!!
ガーウルフの脚へ命中。
「やった!」
「すごいです!」
《結奈の命中精度が上昇しています》
《弓適性:高》
すると後方から結奈の矢とフィリアの魔法攻撃がガーウルフの足をとらえた。
「クミ!!さっさと終わらせましょう」
「そうだな」
ミリアが負傷したガーウルフを切っていく、俺は、槍でさばいていく。
気が付くと10匹もいたガーウルフを倒していた。
「匂い玉いらなかったな」
「そうね。それ使うと地獄だもんね」
「そうだな」
それを見ていた残りの4人
「あれ?なんかやばくない?」
「ガーウルフよね」
「10匹、瞬殺って」
「結菜の弓矢もすごい」
これを見ていた彩音は、何もできないはずだと納得していた。
そして、ギルドに戻ると4人と一緒に依頼に関する報告と報酬を受けた。しかも、ガーウルフ10匹の討伐も含めてだった。
「今回は、みんな同額な」
俺が言うと女子たち驚いた。
「普通、護衛代取るんじゃ……」
「まぁ、初回だし。今回はみんなで決めたんだ。平等に分けようって」
「……」
この後、結奈は彼女たちを連れて町の露店や小物店、服屋を回ってきて、久しぶりに女子たちのショッピングを楽しんできたそうだ。
しかし、この後ギルドで事件が起きる。俺が持って帰ったサッツメイモをふかしていると
《警告》
《サッツメイモは食用ですが、社会的信用を失う可能性があります》
《サッツメイモを加熱調理しています》
《嫌な予感しかしません》
「ナビ子まで言うな!!」
しかし、日本で食べた焼き芋ほどじゃないが、ふかしサッツメイモもうまい。ギルドにいた冒険者もうめぇと食べたのだった。
《警告》
《サッツメイモに整腸作用を確認》
「へぇ」
数秒後。
ぶっ。
沈黙。
「……」
「……臭い」
「誰ぇぇぇ!?」
みんなの屁がギルドに充満したのだった。
さらに、ホテルに戻った俺たちを待ち受けていたのは、
《性欲増強効果もあります》
「またかぁぁぁ!!」
⭐︎⭐︎⭐︎
一方、王城でも悲劇は起きていた。
「……なんか暑くない?」
「わ、私も……」
「しかもお腹が……」
ぷぅ。
「きゃぁぁぁ!?」
そして。
「……国府田たち、こんなの食べてるの?」
「それと結奈の弁当めっちゃ!美味しかった」
「マジ、やばくない……?」
さらに、莉子、真奈、紗季が買ってきたお土産を見て「いいなぁ」という女子の声がし始めていた。
⭐︎⭐︎⭐︎
彩音の報告を聞くたびに、風間の中で焦りが広がっていた。国府田は死んでいたはずだった。女に嫌われ、何もできず、惨めに野垂れ死ぬ。それが当然だった。
なのに――。
なぜ、あいつの周りには女が集まっている
彩音が渡してくれたふかしサッツメイモを食べた。
なぜだ。
なぜ、あのゴミが――。
風間は、無意識に拳を握り締めていた。
ぶーーー!!!
盛大なおならをしたらしい。
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