第5話:全自動消音防衛網と、涙の不眠不休ポイント稼ぎ
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――カーン、コーン。
どこからか、朝を告げる清々しい鐘の音が聞こえる。
その直後だった。
『朝だァァァァァッ!! 邪悪なる魔王よ、目を覚ませェェェェッ!!』
ビリビリと石壁を震わせる、鼓膜を突き破りそうな大音量のアラーム(勇者志願者の叫び声)が、私のダンジョンに鳴り響いた。
「うあぁぁぁぁぁっ! うるさい! うるさいぃぃぃぃ!」
私は最高級の羽毛布団を頭からすっぽりと被り、ベッドの上でのたうち回った。
今日で、あれからちょうど一週間。
あの「レオン」と名乗った赤い髪の少年は、宣言通り、毎日欠かさず同じ時刻にこのダンジョンへと突撃してきている。
雨の日も、風の日も。
彼は律儀にダンジョンの入り口で宣戦布告の大演説をぶちかまし、私の安眠を木っ端微塵に破壊し続けていた。
「主様、おはようございます。本日の『定時襲撃』が開始されました。これより迎撃プロセスに移行します」
枕元には、すでに完璧な身支度を整えたSSR万能執事・影山が、優雅に紅茶のセットを準備して控えていた。
「迎撃プロセスとかどうでもいいから、あの音量をどうにかして! ストレスで私の胃に穴が空きそうよ!」
「お言葉ですが主様。あの少年がもたらす極度のストレスと不快感のおかげで、主様の生命エネルギーは爆発的に活性化しております。現在、一日あたりのポイント獲得効率は、初期の三百パーセント増しとなっております」
影山は、空中に展開したステータス画面を指差した。
確かにそこには、ものすごい勢いでチャリンチャリンと貯まっていくポイントの数字が表示されている。
神様の嫌がらせのようなシステム。
『起きている時間』かつ『強い感情やストレス』を抱いている時ほど、ポイントの生成効率が跳ね上がるのだ。
つまり、毎朝レオンの爆音演説で叩き起こされ、怒りと殺意で震えている今の私は、最高の『ポイント生成機』と化しているわけである。
「嬉しくない! 全然嬉しくない! ポイントが貯まっても、私が寝不足で死んだら意味ないでしょ!」
目の下にできた濃いクマをこすりながら、私は執事に泣きついた。
「いい!? 貯まったポイントは全部防衛設備に回して! とにかく、玉座の間に一歩も近づかせないで! それと、絶対に『音』を立てさせないで!」
「仰せのままに。主様の安眠を阻害する一切のノイズを排除する『全自動消音防衛網』の構築を急ぎましょう」
影山が一礼すると、貯まりに貯まった数千ポイントが一瞬にして消費されていく。
ダンジョンマスターである私の権限を代行し、彼が次々とトラップや設備を配置しているのだ。
その日、私は影山の手によって、タワーディフェンスの常識を覆す異常な防衛網の完成を見ることになった。
『食らえ! 俺の正義の……ぐふぅッ!?』
魔力映像のスクリーンの中で、突撃してきたレオンが不自然に声を詰まらせ、もんどり打って倒れた。
「な、何が起きたの?」
「入り口の通路に『沈黙の泥濘(スライム沼)』を設置いたしました」
影山が平然と解説する。
「侵入者が足を踏み入れた瞬間、特殊な粘液が対象の口と鼻以外の顔面を覆い尽くします。呼吸は可能ですが、口を開いて叫ぼうとすれば粘液が音を吸収し、完全な消音状態を作り出します」
「……えげつないわね」
画面の中では、顔の下半分をスライムに覆われたレオンが、無音で「むぐぐぐっ!」とジタバタしている。
可哀想だが、私の安眠のためにはこれくらいしてもらわないと困る。
「さらに、その先には『真空の風回廊』を配置しております。音は空気を伝わって届くもの。ならば、侵入者の周囲の空気を一時的に真空状態にすれば、足音も鎧の擦れる音も、一切発生いたしません」
「真空って……窒息しないの!?」
「ご安心を。彼が気を失う直前で酸素を供給し、安全かつ無音のまま、入り口の外へと強制排出するシステムを組み込んでおります」
私は戦慄した。
この執事、有能すぎるがゆえに、やり方が徹底しすぎている。
普通のダンジョンなら、火の玉を飛ばしたり、落とし穴に針を敷き詰めたりするだろう。
だが影山の構築する防衛線は、全てが『主の安眠(静寂)』を第一目標にしているため、致死性はない代わりに、精神的な圧迫感が尋常ではない。
「よし、これでようやく静かに寝られる……」
防衛システムの完璧な稼働を見届け、私は再び枕に顔を埋めようとした。
だが。
「主様、お待ちください。二度寝は推奨いたしません」
影山に、布団をガバッと剥ぎ取られた。
「なんでよ! 防衛は完璧になったじゃない!」
「防衛設備は、維持と修復に継続的なポイントを消費します。あの少年が明日以降も襲撃を続けることを考慮すれば、今のポイント残量では数日で枯渇いたします」
絶望的な事実だった。
トラップを維持するためには、結局私が起きてポイントを稼ぎ続けなければならないのだ。
「鬼! 悪魔! 社畜をなんだと思ってるの!」
「わたくしは悪魔(元)ですが、主様の有能な執事でございます。さあ、ポイント稼ぎの『業務』に戻りましょう」
影山は容赦なく、私の目の前に大きな魔力スクリーンを展開した。
そこに映し出されたのは、ドロドロのゾンビが人間を襲う、血みどろのホラー映画のような映像だった。
「ひぃぃぃっ! なにこれ!? なんでこんなの見せるの!」
「先ほど申し上げた通り、主様の『恐怖』や『緊張』が最も効率よくポイントを生み出します。運動による体力消費を避けるため、映像による精神的な刺激でポイントを搾り取らせていただきます」
「サイコパス!!」
私は涙を流しながら、強制的にホラー映像を見せられ続けた。
少しでも目を閉じようとすると、影山が横から「起きてください」と冷たく囁いてくる。
URのふかふかベッドの上で、私はガタガタと震えながらポイントを稼ぐという、最高に矛盾した拷問を受けていた。
レオンという外からの脅威(騒音)。
影山という内からの脅威(スパルタ管理)。
究極の安眠を手に入れるため、私の不眠不休のタワーディフェンス運営は、さらに混迷を極めていくのだった。
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