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初期ポイントは「SSR執事」と「UR至高の安眠セット」に全ツッパしました。~防衛力ゼロから始まる、全自動タワーディフェンス迷宮運営~  作者: tky
第1章:爆誕!不労所得(という名の地獄)編

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第29話:新たな盟約と、安眠の代償

 かつてないほど、清々しい朝だった。


 私はUR至高の安眠ベッドの上で、大きく伸びをした。


 昨日の「恥のダンス」による激しい筋肉痛は嘘のように消え去り、胃もたれも一切ない。


 身体の隅々までエネルギーが満ち溢れ、まるで羽が生えたかのように軽い。


 これが、あの「至高の安眠供物」の力なのだろうか。


 ラーメン王国の料理技術と、聖女の祈りが生み出した奇跡のコンソメスープ。


 あれは間違いなく、私の前世と今世を合わせた中で、ぶっちぎりで一番美味しい食事だった。


「おはよう、モコ。今日もフワフワね」


「メェ……」


 腕の中で微睡む安眠羊の頭を撫でながら、私は心からの微笑みを浮かべた。


 ダンジョンの入り口からは、忌まわしい勇者候補の怒声も、軍隊の騒音も聞こえてこない。


 完璧な静寂。


 これこそが、私が求めていた真のスローライフだ。


「おはようございます、主様。素晴らしいお目覚めですね」


 影山が、淹れたてのハーブティーをワゴンに乗せて、音もなく玉座の間に入ってきた。


「おはよう、影山。昨日のスープ、本当に最高だったわ。今日もあれが食べられるのかしら?」


 私が期待に胸を膨らませて尋ねると、影山は恭しく一礼した。


「はい、主様。昨日の供物の受け取りをもって、ラーメン王国との間に『定期的な供物の奉納』を条件とした、事実上の不可侵条約が成立いたしました」


「やったぁ! じゃあ、これからは毎日あんな美味しいものがタダで食べられるのね!」


 私はベッドの上で小さくガッツポーズをした。


 ダンジョンの防衛設備に魔力ポイントを割く必要がなくなり、しかも極上の食事が定期的にデリバリーされる。


 まさに、引きこもり魔王にとっての理想郷ユートピアの完成である。


「ちなみに、あのうるさい勇者候補はどうなったの?」


「王都の地下牢に幽閉されたようです。『人類の敵に媚びへつらうなど狂気の沙汰だ』と最後まで抵抗していたようですが、もはや彼の狂信的な正義は、王国にとって『平和を脅かす悪』と判断されたのでしょう」


 影山の報告を聞き、私は少しだけレオンを哀れに思った。


 彼は彼なりに、自分の信じる正義のために真っ直ぐだっただけなのだ。


 ただ、その正義が私の安眠と決定的に相容れなかったというだけの話である。


「まあ、自業自得ね。これでようやく、平和な毎日が始まるわ」


 私がハーブティーに口をつけ、勝利の美酒ならぬ美茶を味わっていた、その時だった。


「……主様。大変申し上げにくいのですが、平和な毎日を手放しで喜ぶのは、少々時期尚早かもしれません」


 影山が、いつになく真剣なトーンで告げた。


「え? なんで? 条約は結ばれたんでしょ?」


「人間という生き物は、私のような悪魔から見ても、非常に欲深く、そして現金な存在です。彼らは『至高の供物』という多大なコストを払い続ける見返りとして、いずれ魔王様からの『恩恵』を期待し始めるでしょう」


「恩恵……?」


「はい。例えば、領地の豊穣をもたらす奇跡や、他の魔物たちからの絶対的な守護などです。彼らは魔王様を『恐るべき敵』から『守り神』へとすげ替えることで、供物の正当性を確保しようとするはずです」


 私は、影山の言葉の意味を理解し、持っていたティーカップをカタカタと震わせた。


「……ちょっと待って。私、ただ毎日寝てたいだけなんだけど? 豊穣の奇跡とか、魔物退治とか、そんなめんどくさいことできるわけないじゃない!」


「おっしゃる通りです。主様にそのような力はありませんし、そもそもダンジョンの外に出る気すらおありにならない」


 影山は冷酷に事実を並べ立てる。


「ですが、もし主様がただ寝ているだけで、供物を搾取し続けるだけの存在だと人間たちが気づけば、どうなるでしょうか」


「……どうなるの?」


「彼らの畏怖と信仰は、やがて疑念と不満に変わります。そして、『なんだ、あの魔王、実は大したことないんじゃね?』と気づかれた瞬間、再び討伐の機運が高まり、今度は勇者候補どころか、本物の精鋭部隊が静寂を破りに来るでしょう」


「そんなの絶対に嫌ぁぁぁぁっ!!」


 私は頭を抱えて叫んだ。


 せっかく手に入れた至高の安眠ライフが、実は薄氷の上に成り立っていることに気づかされたのだ。


「影山! どうすればいいのよ! 私、外に出て仕事なんて絶対にしたくない!」


「ご安心ください、主様。主様が外に出る必要はありません。要は、人間たちに『魔王様は確かに我々を見守り、恩恵を与えてくださっている』と錯覚させればよいのです」


 影山の切れ長の瞳が、妖しく、そして極めて悪魔的に光った。


「錯覚……?」


「はい。当ダンジョンのポイントシステムを活用し、入り口付近にささやかな『奇跡(演出)』を定期的に発生させるのです。例えば、供物を持ってきた者の病が少しだけ治る魔法陣や、周囲の森の作物が異常に育つ魔力溜まりを設置するなどです」


「なるほど……。それなら、私はベッドに寝転がったまま、たまにポイントを消費するだけで済むわね」


「左様でございます。ただし、その演出のためのポイントを稼ぐためには、主様には引き続き、定期的な『ルームランナー・ダッシュ』や、神々を喜ばせるための『リアクション』をしていただく必要がございますが」


 影山は、どこからともなく取り出したスケジュール帳を開き、にっこりと微笑んだ。


「さあ主様。明日の供物のために、まずは一汗流してポイントを稼ぎましょう。至高のスープのカロリーも消費しなければなりませんしね」


「……結局、働かないとご飯は食べられないのね……」


 私は絶望の溜息をつき、泣く泣くベッドから這い出した。


 至高の安眠ライフを守るための、果てしなき「神と人間を騙すための自転車操業」が、ここに幕を開けたのだった。

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