第24話:無音の密使と、忍び寄る深夜のテロリズム
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天界からのサプライズ(嫌がらせ)である天使像を、力技で黙らせてから数時間後。
ダンジョンの最下層『静寂の岩窟』には、ようやく本物の平和が訪れていた。
「メェ~……」
腕の中で丸くなる安眠羊・モコの規則正しい寝息。
私はそのフワフワな毛並みに顔を埋め、今度こそ、今度こそ深い眠りの底へと落ちていた。
結界は完璧。ポイントも五千の黒字。
影山も、これ以上の無理な労働を強いることはないはずだ。
私は前世の記憶すらも手放し、完全なる無意識の海を漂っていた。
一方、その頃。
ラーメン王国の王城では、深夜の緊急御前会議が開かれていた。
「……パレードが、魔王の逆位相の舞によって粉砕されただと?」
国王バリカタ十四世は、頭を抱えて玉座に沈み込んでいた。
「はい、陛下。我々が奏でた百面大太鼓の音すらも、魔王のダンジョンに触れた瞬間に完全に『無』に帰しました」
報告を行うガレウス将軍の顔には、もはや戦士としての覇気はなく、絶対的な存在に対する畏怖だけが張り付いている。
「音を消し去る結界、神聖魔法をも逆流させる反射の力。そして今回は、我々の最大の『誠意(騒音)』すらも一顧だにせず弾き返した」
国王は立ち上がり、深刻な顔で重臣たちを見回した。
「皆の者、考え直さねばならん。我々は、魔王の好みを根本的に間違えていたのではないか?」
「と、申されますと?」
「魔王は、一切の『音』を拒絶しているのだ。ならば、鳴り物入りのパレードなど、最も下策であったということ。我々が示すべき誠意は、極限の『無音』でなければならないのだ」
国王の眼光が、玉座の間の隅に控えていた漆黒の影へと向けられた。
「王国暗部、隠密部隊『細麺』よ。お前たちの出番だ」
「ハッ……!」
影の中から、音もなく黒装束の男が数名、姿を現した。
彼らは王国最強の暗殺者集団であり、その気配の遮断と無音潜入の技術は、国宝級と言われていた。
「お前たちに命ずる。これより魔王の迷宮へと潜入し、誰にも、何にも気づかれることなく、魔王の懐まで到達せよ」
「御意。……して、魔王の寝首を掻くのでございますか?」
「馬鹿者! そのような真似をして逆鱗に触れれば、今度こそ国が滅ぶわ!」
国王は声を荒げ、そして慎重に、布に包まれた『ある物』を隠密部隊の頭領に手渡した。
「これを、眠れる魔王の枕元に、そっと置いてくるのだ。これぞ、我が国の食文化の粋を集めた最高傑作。極限の無音潜入をもって、この『供物』を捧げることこそが、我らの真の和平の証となる!」
「ハッ! 命に代えましても、必ずや魔王の御前へと!」
黒装束の男たちは、音もなくその場から姿を消した。
ラーメン王国が放つ、文字通り「最後の隠し玉」。
それが、私の安眠をかつてない角度から破壊する凶悪な兵器であることなど、夢の中でよだれを垂らしている私には知る由もなかった。
深夜のダンジョン。
プラチナ・サイレントの結界は、外からの物理的な騒音や、攻撃的な魔力を完全に遮断する。
しかし、その結界には一つの「盲点」があった。
それは、攻撃の意思を持たず、完全に気配を消し、かつ『音を立てない』侵入者に対しては、フィルターをすり抜けさせてしまうという点だ。
「(……報告通りだ。罠一つない。魔物もいない)」
隠密部隊の頭領は、手信号で部下たちに指示を出しながら、暗い廊下を滑るように進んでいた。
足音は皆無。呼吸音すらも特殊な布で遮断している。
「(玉座の間には、オーバーヒートした謎の寝具があるだけだ。魔王の気配は……さらに下か)」
彼らは魔法陣のエレベーターを音もなく起動させ、地下の『静寂の岩窟』へと降りていった。
薄暗い岩窟の奥。
そこには、フワフワの羊の魔物を抱きしめ、無防備な姿で眠りこける一人の少女の姿があった。
「(……あれが、魔王? ただの小娘にしか見えんが……いや、騙されるな。あれこそが聖戦軍を退けた恐るべき虚無の化身だ)」
頭領は冷や汗を流しながら、抜き足差し足で凛の枕元へと近づいた。
そして、背負っていた風呂敷を静かに解き、国王から預かった『供物』を、音を立てずに床へと置いた。
――カチャン。
器が置かれる微かな音すら、頭領は自らの魔力で相殺した。
完璧な無音潜入。完璧な供物の配置。
「(……任務、完了。退避する)」
暗殺者たちは、魔王が目覚める前にと、早歩きで岩窟から脱出しようと背を向けた。
だが、彼らは致命的なミスを犯していた。
音を消すことには長けていたが、その供物が放つ『暴力的なまでの香り』を遮断する術を、彼らは持ち合わせていなかったのだ。
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