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初期ポイントは「SSR執事」と「UR至高の安眠セット」に全ツッパしました。~防衛力ゼロから始まる、全自動タワーディフェンス迷宮運営~  作者: tky
第1章:爆誕!不労所得(という名の地獄)編

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23/23

第23話:天界のサプライズと、毛玉の突撃

明日も0時に更新します

 ――ひんやりとした空気が、火照った体を優しく包み込む。


 私は、新設したばかりの地下室『静寂の岩窟』の床で、安眠羊のモコを抱きしめながら、泥のような眠りの淵にいた。


 オーバーヒートしたベッドの熱気からも、王国軍の騒音からも完全に解放された、究極のオアシス。


 モコのフワフワな毛並みから発せられるマイナスイオンが、私の擦り切れた神経を修復していくのが分かる。


「(……ああ、幸せ。もう二度と、この岩窟から出ないわ……)」


 私は口元にだらしない笑みを浮かべ、さらに深くモコに顔を埋めた。


 しかし、運命(というか天界の神々)は、私の安眠を絶対に許さないシステムになっているらしい。


 パパパパーン!!


 突然、私の頭上――玉座の間の方角から、やけに陽気で、耳を劈くようなファンファーレが響き渡った。


「……っ!?」


 私は跳ね起きた。


 モコも驚いて「メェェッ!?」と鳴いている。


 静寂の岩窟の吸音効果をもってしても防ぎきれないほどの、物理的な大音量。


「な、なんなのよ今度は! 敵は追い返したはずでしょ!?」


 私は階段を見上げながら叫んだ。


 すると、影山が涼しい顔で階段を降りてきて、冷酷な事実を告げた。


「主様、大変不本意なお知らせです。天界の神々が、当ダンジョンの『地下エリア拡張記念』として、サプライズのプレゼントボックスを入り口に投下しました」


「……プレゼント? 神様からの?」


「はい。そしてその箱の中から、神の使いである『賛美歌の天使像』がスポーンいたしました」


「……は?」


「常に最大音量でハレルヤを歌い続ける、非常に騒がしい神造兵器です。現在、入り口から玉座の間を抜け、この地下室へ向かって陽気に行進してきております」


『ハァァァーレッルーヤァァァァッ!! 迷宮に光をォォォ!!』


 影山の言葉を証明するように、階段の上から、腹の底に響くような大音声の賛美歌が近づいてくる。


「なんで自分の家の中でモンスターパニック映画やらなきゃいけないのよ! 影山、早くトラップで迎撃して!」


「申し訳ありません、主様。先ほどの拡張工事でポイントを使い果たし、現在残高はゼロ。迎撃用のトラップを設置する魔力がありません」


「じゃああんたが直接殴ってよ! 万能執事でしょ!」


「わたくしは悪魔由来の存在ゆえ、神聖な天使像に直接触れると『浄化(物理ダメージ)』されてしまいます。労災が下りない危険業務は、契約外でございます」


「使えないわねぇぇぇぇっ!!」


 私は頭を抱えた。


 ポイントがない。罠がない。執事は役立たず。


 そして階段には、爆音で歌いながら降りてくる大理石の天使像の足音が迫っている。


『目覚めよ魔王ォォォ! 神の祝福(大騒音)を受けよォォォ!』


「……もう、私がやるしかないのね」


 私は、奥歯をギリッと噛み締めた。


 前世の社畜時代、クレーム対応で理不尽な客の口を塞ぎたかったあの衝動。


 それが今、魔王としての怒りと結びついて、私の中で爆発した。


「モコ! ごめん、ちょっと毛を貸して!」


「メェッ!?」


 私は、モコの体から抜け落ちていたフワフワの羊毛の塊を両手いっぱいに鷲掴みにした。


 モコの毛は、最強の吸音材だ。


「ハレルヤァァァ……むごっ!?」


 階段の踊り場に姿を現した天使像に対し、私は赤いジャージ姿のまま、文字通りの『肉弾戦タックル』を仕掛けた。


「人の家で! 勝手に! 歌うんじゃないわよぉぉぉぉっ!!」


 ドスッ! という鈍い音と共に、私は天使像の腹に頭突きを食らわし、その反動で奴が大きく開けていた口の中に、両手の羊毛の塊を限界までねじ込んだ。


『むーっ!? むーっ! むぐぐぐっ!』


 天使像の口が、モコの超絶吸音毛玉によって完全に塞がれた。


 賛美歌はくぐもった唸り声に変わり、音の圧力は一瞬にして消滅する。


「どうだ! これが残業代ゼロで鍛え上げられた、元社畜の意地よ!」


 私は息を切らしながら、口に毛玉を詰められてジタバタする天使像を見下ろして勝ち誇った。


 その瞬間。


 チャリンチャリンチャリンチャリンッ!!


「お見事です、主様。天界の神々から『魔王の泥臭い物理攻撃』に対する大絶賛の投げ銭が降り注いでおります。一気に五千ポイントの黒字です」


 影山が、満足そうにタブレットを叩いた。


「……神様たち、本当に性格悪すぎるわ」


 私は膝から崩れ落ち、天使像の横でぜぇぜぇと肩で息をした。


 静寂は守られた。


 だが、私の安眠への道は、知恵と罠のタワーディフェンスから、ついに『物理格闘』の領域にまで足を踏み入れてしまったのだ。


 汗だくのジャージを脱ぎ、ふかふかのネグリジェで朝まで一度も目を覚まさずに眠れる日は来るのだろうか。

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