第22話:オーバーヒートの代償と、灼熱のダンジョン拡張工事
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「影山、別の部屋はないの!? この部屋、ベッドの熱気でサウナみたいになってるじゃない!」
私は、オーバーヒートしたUR至高の安眠セットから発せられる熱波から逃れるように、玉座の間の隅っこにモコを抱えて避難していた。
冷たい石の床に這いつくばりながら、私は執事に泣きついた。
「申し訳ありません、主様。現在、当ダンジョンにはこの『玉座の間』と、入り口へ続く一本の通路しか存在しておりません」
影山は、サウナ状態の部屋の中でも一滴の汗もかかず、涼しい顔で答えた。
「じゃあ作ってよ! あんた万能執事でしょ!? スコップで穴でも掘って、涼しい寝床を作ってちょうだい!」
「物理的な土木作業は非効率的です。ですが、ダンジョンシステムによる『階層拡張』を行えば、瞬時に新たな部屋を生成することが可能です」
「拡張!? それよ、それを早くやって!」
私は希望の光を見出し、勢いよく身を乗り出した。
「たとえば、玉座の間の地下に、天然の吸音岩で覆われた冷涼な『静寂の岩窟』を新設することができます。オーバーヒートの熱も届かず、防音性も完璧です」
「最高じゃない! 今すぐその岩窟を生成して!」
「承知いたしました。……ただ、階層の拡張には莫大な魔力リソース、すなわちポイントが必要です」
影山が空中に展開した見積書には、無慈悲な数字が輝いていた。
「『静寂の岩窟』の生成費用、三千ポイントになります」
「さ、三千!? さっきのダンスで全部使っちゃったじゃない!」
「はい。現在の残高は『四ポイント』です。したがって、今から三千ポイントを大急ぎで稼いでいただく必要があります」
影山の眼鏡が、キラーンと不吉な光を放った。
「無理よ! もう一歩も動けないわよ! 私、パレードのせいで体力の限界なの!」
「ご安心を。今回は走り回る必要はありません。主様には、この灼熱の部屋の中で『究極の我慢比べ』をしていただきます」
「……我慢比べ?」
「はい。オーバーヒートしたベッドの、ギリギリ火傷しない距離まで近づき、そこで『灼熱の耐久ヨガ』を行っていただきます」
影山の口から出た言葉は、私の耳を疑うものだった。
「極度の暑さと、疲労した筋肉を無理やり伸ばす苦痛。この二つのストレスが相乗効果を生み出し、効率よくポイントを生成するはずです」
「熱湯コマーシャルじゃないのよぉぉぉっ!! なんで私が罰ゲームみたいなことしなきゃいけないの!」
「涼しい岩窟で眠るためです。さあ、主様。お着替えを。通気性の悪いサウナスーツをご用意いたしました」
「悪魔! あんた本当に元悪魔の顔が出てるわよ!」
私の魂からの抗議も虚しく、私は分厚いサウナスーツを着せられ、ストーブのように熱を放つベッドの真横に立たされた。
「いち、に! はい、そこで限界まで背中を反らせて! 汗が足りませんよ、主様!」
「ひぃぃぃぃっ! あつい! 痛い! 足がつるぅぅぅぅ!」
灼熱の熱気の中、私は涙と大量の汗を流しながら、無理なヨガのポーズを強要されていた。
汗が目に入って痛い。
サウナスーツの中は地獄のような湿度で、息をするだけで喉が焼けるようだ。
「素晴らしい! 天界の神々も『魔王のサウナ特番』として大喜びで投げ銭をしております! ポイント生成速度、ウナギ登りです!」
天界の奴ら、絶対に許さない。
いつか全員、ブラック企業に送り込んで残業地獄の刑に処してやる。
私は心の中で神々を呪いながら、ただひたすらに安眠の地(涼しい地下室)を求めて、奇妙なポーズを取り続けた。
――そして、一時間が経過した。
「ピピッ。目標の三千ポイント、到達いたしました」
影山のその声を聞いた瞬間、私は床にベチャッと倒れ込んだ。
「……お、終わった……。早く……拡張して……」
「仰せのままに。これより、ダンジョンの階層拡張を実行いたします」
影山がタブレットのボタンを押した。
ズズズズズッ……!!
玉座の間の床が激しく鳴動し、魔法陣の光が溢れ出した。
床の一部が四角く切り取られ、下へと沈み込み、そこから冷やりとした心地よい冷気が立ち上ってくる。
完成したのは、地下へと続く石造りの階段だった。
「完成いたしました。地下第一層『静寂の岩窟』です。内部は年間を通じて気温十五度に保たれ、天然の岩肌がすべての音を吸収します」
「あぁぁぁ……。神様、ありがとう……。いや、今回は私の努力のおかげね」
私はモコを抱きかかえ、ふらつく足取りで地下への階段を下りた。
そこには、薄暗く、ひんやりとした空気に満ちた、完璧な静寂の空間が広がっていた。
熱気もない。騒音もない。
「……ここが、私の新しい寝室……」
私は床の平らな岩の上に転がり、モコを枕にして目を閉じた。
ようやく、本当に邪魔されない安眠が手に入った。
そう思った私に、天界の神々が『新エリア解放記念』という名の最悪の嫌がらせを準備していることなど、知る由もなかったのだ。
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