第18話:魔王の咆哮と、決死の和平交渉
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【国王視点】
ラーメン王国の王城、その最上階に位置する玉座の間は、かつてないほどの重苦しい空気に包まれていた。
王たる私、バリカタ十四世は、玉座の上で冷や汗を流しながら、眼下に跪く二人の重臣を見下ろしていた。
一人は、王国最強と謳われる第一騎士団長、ガレウス。
もう一人は、神の奇跡を代行する神聖教会の聖女、セリア。
王国が誇る最強の矛と、至高の光であるはずの彼らは今、泥にまみれ、鎧は砕け、全身を包帯で巻かれた痛々しい姿で震えていた。
「……報告は、真であるか。ガレウスよ」
私は、震える声を必死に抑え込みながら尋ねた。
「はっ……。信じ難きことですが、事実でございます」
ガレウス将軍は、血の気の引いた顔で深く頭を下げた。
「我々は、辺境の森に現れた『絶対静寂の魔王』に対し、聖女殿の禁呪をもって浄化を試みました。しかし……魔王は、我々の魔法を吸収するどころか、それを『何倍にも増幅した咆哮』として弾き返してきたのです」
「咆哮、だと……?」
「はい。……『カゲヤマァァァ!』という、天地を揺るがすような恐ろしい断末魔のような叫びでした。その音の圧力だけで、我が騎士団の精鋭たちは吹き飛ばされ、陣形は完全に崩壊いたしました」
ガレウスの言葉に、玉座の間に並ぶ貴族たちが一斉にざわめいた。
カゲヤマ。
それが、あの見えざる魔王の真の名なのだろうか。
自らの名を天地に轟かせることで、己の絶対的な力を誇示したのだ。
「聖女セリアよ。そなたの光の魔法すら、通じなかったというのか」
私は、痛々しく肩を震わせている聖女に視線を向けた。
「……陛下。申し訳ございません。私の力では、あの底知れぬ闇の奥底に触れることすら叶いませんでした」
セリアは、涙をポロポロとこぼしながら懺悔した。
「あの魔王は、光を憎み、音を憎むだけではありません。自らもまた、神の光すら凌駕する圧倒的な『音の暴力』を秘めているのです。もしあの魔王が本気で咆哮を放てば、王都の城壁など一瞬で砂と化すでしょう」
私は絶望に目を閉じた。
物理攻撃を無に帰す結界を持ち、いざとなれば国を吹き飛ばすほどの咆哮を放つ怪物。
そのような存在が、なぜ辺境の森などに引きこもっているのか。
いや、考えるだけ無駄だ。我々人間の尺度で、魔王の思考を推し量ることなどできはしない。
「……武力での討伐は、不可能ということだな」
私の呟きに、誰も反論することはできなかった。
重苦しい沈黙が、玉座の間を支配する。
このままでは、ラーメン王国はあの「カゲヤマ」と名乗る魔王の気まぐれ一つで滅ぼされてしまう。
王として、国を守るために、私が下すべき決断は一つしかなかった。
「皆の者、聞けッ!」
私は玉座から立ち上がり、力強く宣言した。
「これより、ラーメン王国は『絶対静寂の魔王』に対する一切の敵対行動を放棄する! そして、国家の存亡を懸け、魔王との『和平交渉』に打って出る!」
「へ、陛下!? 和平など、あの怪物が応じるとは思えません!」
ガレウスが慌てて顔を上げる。
「応じさせるのだ。我々の武力ではなく、誠意をもってな」
私は玉座の階段を下り、大声で指示を飛ばした。
「直ちに国庫を開放せよ! 王国が誇る最高の宝物、美食、そして芸術を用意するのだ! 魔王は静寂を好むと聞くが、それは我々の供物がつまらぬからだ!」
恐怖の裏返しからか、私の思考は奇妙な方向へと加速していった。
「王立音楽隊の全メンバーを招集せよ! 王国伝統の『百面大太鼓』と『真鍮の爆鳴ラッパ』も引き出せ! これ以上ないほど賑やかで、華やかで、盛大なパレードをもって、魔王の森へ向かうのだ!」
「お、お待ちください陛下! 魔王は音を嫌うのですぞ! そのような鳴り物入りで向かえば、逆鱗に触れるのでは……!」
「馬鹿者! 隠れてコソコソ近づくから怪しまれるのだ! 我々は友として、最大の祝祭をもって魔王を歓待する姿勢を示すのだ! そうすれば、魔王も我々の誠意に心を打たれるはずだ!」
もはや、私の頭の中は「いかにして魔王を怒らせないか」という恐怖とパニックで満たされていた。
相手が何を求めているのか分からない以上、国が持てる最大の『賑やかさ(誠意)』をぶつけるしかないと思い込んでしまったのだ。
「私が直接、魔王の御前へと赴く。全軍、パレードの準備を急げ! ラーメン王国の威信を懸け、魔王に最高の祭典をお届けするのだ!」
かくして。
絶対的な安眠と静寂を愛する魔王(ただの元社畜)のダンジョンに向け、国を挙げた史上最大規模の『大騒音パレード』が、今まさに王都を出発しようとしていた。
それが、彼女にとって国軍の魔導砲よりも恐ろしい、真の地獄の始まりであることも知らずに。
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