第17話:音速の絶叫と、静寂の崩壊(オーバーフロー)
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「ああああああああああああッ!!」
私の視界は、極彩色の線となって流れていた。
時速三百キロ。
『至高の安眠セット』という名の、この殺人的な乗り物は、もはや物理法則を無視した挙動で玉座の間を跳ね回っている。
壁に激突する寸前、影山の魔力によって「ボヨン」と弾き返され、また逆の壁へ。
その度に内臓はシェイクされ、脳内からは「死」を予感した際の莫大な生命エネルギー(ポイント)がドバドバと溢れ出していた。
「素晴らしい! 主様の絶叫、かつてないほどの高純度です! 天界の神々からも『投げ銭』が止まりません! 『もっと回せ』『もっと加速しろ』との神託が届いております!」
影山が、嵐のような風圧の中で、平然と紅茶を飲みながらタブレットを操作している。
「影山ぁぁぁ! あんた、本当に、いつか呪ってやるんだからぁぁぁ!!」
私の羞恥心と恐怖がポイントに変換され、外壁の「プラチナ・サイレント」が黄金色の光を帯びて膨張していく。
だが、その膨張すらも追いつかないほどの圧力が、外から迫っていた。
ダンジョンの外では、聖女セリアが己の全魔力を捧げる儀式を完遂しようとしていた。
「……これで、終わりです! 聖なる残響、最大出力ッ!!」
セリアの聖杖から放たれたのは、光の粒子が密集して「音」へと変わる特異な魔法だった。
それは結界に触れた瞬間、吸収されるのではなく、結界そのものを「共鳴」させたのだ。
キィィィィィィィィン……!!
プラチナ結界が、限界を告げるような悲鳴のような高音を鳴らす。
「まずいぞ、セリア殿! 結界の色が変わった! 何かが起きる!」
ガレウス将軍が叫んだ直後。
――ドォォォォォォォォォォォォンッ!!!
結界が、耐えきれずに『音の逆流』を起こした。
蓄積された数日分の轟音が、結界を突き破ろうとしたその瞬間。
影山の手腕は、その一歩先を行っていた。
「主様から搾り取った二千ポイント、全額投入。……『逆位相・消音パルス』、展開」
逆流した騒音エネルギーを、彼はあらかじめ構築していたカウンターの波長で正面からぶつけ、相殺させたのだ。
その結果、何が起きたか。
ダンジョンの内部へ逆流するはずだった膨大な騒音が、結界の表面で反転し、物理的な「衝撃波」となって外部へ一気に解放されたのである。
「……え?」
セリアが呆然と呟いた瞬間。
ガレウス将軍の怒号、魔導砲の爆音、魔物たちの絶叫。
そして何より、凛の「影山ァァァァ!」という断末魔が、数千倍に増幅された音の壁となって、ラーメン王国の騎士団を襲った。
「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」
耳栓など無意味だった。
音の圧力だけで、騎士団のテントは吹き飛び、ガレウス将軍は馬から転げ落ちる。
聖女セリアは自らの放った魔法の反動と凛の絶叫によって、百メートルほど後方まで文字通り「吹き飛ばされた」。
「……静かになったわね、影山」
数分後。
ようやく停止したベッドの上で、ボロ雑巾のようになった私は、よだれを垂らしながら呟いた。
「はい。外部からの不快な刺激はすべて排除されました。主様、追加の二千ポイントによる拡張工事、無事に完了です。これでもう、どのような概念攻撃も届きません」
影山が、優雅に私の顔をハンカチで拭いてくれる。
「……もう、動けない。指一本、動かしたくない。……寝る。私は寝るわよ」
「ええ、どうぞ。……ただ、主様。今回の『音の逆流』の際、主様の絶叫が外部に漏れ聞こえたようでして」
「……は?」
「『魔王の咆哮が国を震わせた』『聖女を声だけで吹き飛ばした』と、撤退する騎士団の間で伝説になっております」
影山は、冷酷な事実を告げた。
「おそらく明日の朝には、王国の王様が直接『和平交渉(という名の大行列)』に来るかと思われます」
「……ねえ影山。私、ただ『静かに寝たい』って言っただけだよね?」
「主様の安眠のため、明日の朝までに『接待用マラソンコース』の整備が必要ですね。さあ、あと二千ポイントほど稼ぎましょうか」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
凛の悲鳴は、最新の防音結界によって、今日も一切外に漏れることはなかった。
安眠を求める彼女の戦いは、安らかな眠りから最も遠い場所で、加速し続けていく。
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