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初期ポイントは「SSR執事」と「UR至高の安眠セット」に全ツッパしました。~防衛力ゼロから始まる、全自動タワーディフェンス迷宮運営~  作者: tky
第1章:爆誕!不労所得(という名の地獄)編

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第16話:聖なる残響と、オーバーロードの予感

明日も0時に更新します

 ――静かだ。


 時速二百キロの反復横跳び、そしてジャージ姿での早朝マラソン。


 私の尊厳と体力を引き換えに手に入れた『プラチナ・サイレント(絶対静寂の城壁)』は、今日も完璧に機能していた。


 狂音の魔王軍が入り口で泡を吹いて倒れてからというもの、この森には「あの山には音を喰らう怪物が住んでいる」という噂が広まり、鳥一羽近づかなくなっていた。


「……ふふ、ふふふ。勝った。ついに私は、真のニートライフを手に入れたのよ……」


 私は豪華な天蓋付きベッドの中で、至福の二度寝を満喫していた。


 影山が用意した「ルームランナー地獄」によって蓄積された予備ポイントは、あと数日は何もしなくても結界を維持できる計算だ。


 このまま一生、ベッドの上でゴロゴロしていられる。


 だが、この世には「静かすぎること」が裏目に出る人種が存在する。


 ダンジョンの外。


 プラチナ結界の境界線ギリギリの場所に、以前よりもさらに神々しい(眩しい)オーラを纏った聖女セリアが立っていた。


 彼女の背後には、ガレウス将軍率いるラーメン王国の精鋭部隊が、何重にも耳栓を装備して控えている。


「……お聞きなさい、騎士団の皆様。この不自然なまでの静寂こそが、悪魔の証明です」


 セリアの澄んだ声が、森に響いた。


「セリア殿、しかし……。我々の総攻撃はすべて無効化され、あのディゾナンスまでもが精神を病んで敗走したのですぞ。これ以上の深追いは……」


 ガレウス将軍が、冷や汗を拭いながら進言する。


「いいえ、ガレウス様。あの虚無は、音を奪うだけではありません。今やこの森の『祈りの声』すらも飲み込もうとしているのです」


 セリアは、手にした白銀の聖杖を高く掲げた。


「神聖なる沈黙ではなく、命を否定する拒絶の沈黙……。これに対抗できるのは、もはや物理的な魔導砲や、魔王軍のような下等な騒音ではありません」


 彼女の瞳には、狂信的とも言える強い決意が宿っていた。


「教会に伝わる禁呪……『聖なる残響ホーリー・エコー』を発動させます。対象が音を消し去るというのなら、消しきれないほどの『神の祝福(概念的騒音)』を直接、結界の核へ送り込むのです!」


 セリアの詠唱が始まり、空が眩い光に包まれていく。


 その頃、ダンジョンの最深部。


 玉座の間にいる私の耳に、微かな、本当に微かな「キィン」という耳鳴りのような音が届いた。


「んん……? なに、今の音」


 私は眠い目をこすりながら体を起こした。


「主様、大変です。例の『眩しい女性』が、今度は概念的な嫌がらせを準備しております」


 影山が、寝ぼけている私の頬を冷たいおしぼりでペチペチと叩きながら報告してきた。


「……またあの聖女? もう放っておいてよ。どうせ音は届かないんだから、私は寝るわ」


「いえ。彼女が試みようとしているのは、結界の『吸音容量』をオーバーフローさせる攻撃です」


 影山は、一切の感情を交えない声で、恐ろしい例え話をした。


「例えるなら、ゴミ箱に無限のゴミを詰め込んで破裂させるようなものです。結界は一定の許容量を超えると、システムがクラッシュします」


「……それって、どうなるの?」


「もし結界が飽和すれば、蓄積されたすべての『音』が一気に室内に逆流します」


 影山の言葉に、私の眠気は一瞬で吹き飛んだ。


「これまで結界が吸い取った、ガレウス将軍の怒号、魔導砲の爆音、魔物たちの絶叫……それら数日分の騒音が、一秒間に圧縮されて主様の耳元で爆発します。主様の鼓膜は、物理的に消滅するでしょう」


「ぎゃあぁぁぁぁっ!! 防いで! 今すぐ防いで影山!!」


 私はベッドの上でパニックになり、毛布を握りしめて叫んだ。


「そのためには、結界の容量を急遽拡張せねばなりません。必要ポイントは……二千ポイントです」


「二千!? 先日は三千ポイントで何とか凌いだって言ってたじゃない!」


「敵の攻撃が概念的なため、防音材の特殊な追加工事が必要なのです。聖女の魔法が完成するまで、あと数分しかありません。通常のルームランナーやスクワットでは、とても間に合いません」


 影山の目が、スッと細められた。


 それは、執事が「主を守るため」に、容赦なく「最高効率の労働(拷問)」を強いる時の目だった。


「さあ主様、ベッドの『強制脱出・超加速モード』のスイッチを入れさせていただきます」


「待って! マラソン! マラソンするから! ジャージ着て走るからぁぁぁ!!」


「残念ながら、ランニングの発電効率では間に合いません。……主様、覚悟を決めてください」


 影山が、冷酷な手つきでベッドの横にある赤いレバーを最大まで引き上げた。


『警告。リミッター解除。これより室内を時速三百キロで不規則に跳ね回ります。舌を噛まないようご注意ください』


 UR至高の安眠セットから、かつてないほど高い電子音が鳴り響いた。


「三百キロォォォォォッ!!? 死ぬ! 確実に死ぬわよそれ!!」


 私の悲鳴を置き去りにして。


 ドガァァァァァンッ!!


 ベッドの底部から真っ赤な炎が噴き上がり、私の体は凄まじいGと共に壁へと打ち出された。


 聖女の光と、音速のベッド。


 私の安眠は、再び崩壊の危機に直面していた。

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