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初期ポイントは「SSR執事」と「UR至高の安眠セット」に全ツッパしました。~防衛力ゼロから始まる、全自動タワーディフェンス迷宮運営~  作者: tky
第1章:爆誕!不労所得(という名の地獄)編

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第13話:絶対静寂の城壁と、終わらぬ防衛線

明日も0時に更新します

 ギュイィィィィィンッ!!


 ドバァァァン!!


「あばばばばばばっ!! 無理ぃぃぃ! 吐く、もう全部出ちゃうぅぅぅ!!」


 時速百五十キロで部屋の端から端へ、振り子のように高速往復するUR至高の安眠ベッド。


 私はその上で、最高級のシーツに爪を立てて必死にしがみついていた。


 壁が目の前に迫るたびに、心臓が喉から飛び出しそうになる。


 そして激突の数ミリ手前で、影山の張った見えないクッションに弾き返され、また逆の壁へと猛スピードでぶっ飛ばされるのだ。


 これはもはやタワーディフェンスではない。単なる拷問である。


「主様、その調子です! 主様の生命エネルギーが、凄まじい勢いで結界へと注ぎ込まれております!」


 部屋の中央で、暴走するベッドの暴風を浴びながら、影山はまるで名指揮者のように腕を振るっていた。


「第一層、突破されました。ですが、主様の恐怖から抽出された二千ポイントで、即座に第二層を補強します。素晴らしい純度の絶望です!」


「鬼ぃぃぃ! 悪魔ぁぁぁ! あんたなんか、初期ポイントで選ぶんじゃなかったぁぁぁ!」


 私の絶叫がポイントに変換され、外壁の防音防振結界が鈍い銀色から、白銀の輝きへと強度を増していく。


 一方、ダンジョンの外。


 王国軍を率いるガレウス将軍は、馬上で信じられないものを見るように目を見開いていた。


『馬鹿な……我々の総攻撃が、何かに吸い込まれるように消えていくというのか!』


 彼らが放つ極大魔法も、魔導砲の物理的な着弾も。


 白銀の結界に触れた瞬間、すべての「音」と「振動」が完全に削り取られ、ただの無害な光の粒となって霧散していたのだ。


『これが、光すら喰らう虚無の力か……! なんという恐ろしい闇の化身!』


 ガレウスの顔に、明確な恐怖と焦燥が浮かぶ。


『全軍に告ぐ! これ以上の長期戦は我々の精神を削るのみ! 魔導班、全魔力を結集し、最大火力の聖なる大結界魔法と魔導砲の融合射撃を準備せよ! 次の一撃で、あの虚無を吹き飛ばす!』


 五千の軍勢が、最後の力を振り絞って巨大な魔法陣を空中に描き始めた。


 その魔力波は、ダンジョン内の影山のタブレットにも赤々とした警告を表示させている。


「主様、敵が最後の大技を準備しています。これまでの比ではない、極大の振動が予測されます」


「もう……無理……。私、死んじゃう……」


「あと一息です。結界を『絶対静寂の城壁プラチナ・サイレント』へと進化させるため、ベッドの速度を時速二百キロの最大出力(MAX)に引き上げます」


「やめてぇぇぇぇ! 結界が破られる前に私が死ぬぅぅぅ!」


 ズギュゥゥゥゥンッ!!


 ベッドのロケット炎が青白から真紅へと変わり、私の体感にかかるGが致死レベルに達した。


 右へ左へ、もはや目で追うこともできない速度で反復横跳びを繰り返すベッド。


 私の喉から、声にならない断末魔の絶叫が迸った。


 その瞬間、莫大なポイントが通帳の限界を突破し、結界へと注ぎ込まれた。


 ドォォォォォォォォォォン!!!


 ガレウス将軍の放った、王国軍のすべてを賭けた融合射撃が着弾する。


 しかし、プラチナの輝きを放つ進化した結界は、その凄まじい破壊力と大爆音を「ポスッ」という、雪に小石を投げ込んだようなマヌケな音と共に、完全に無力化してしまった。


 音が消滅し、衝撃波だけが虚しく空へと跳ね返される。


 その圧倒的なまでの「静寂」の力を前に、王国軍の兵士たちは戦意を喪失し、その場にへたり込んだ。


『我々の完敗だ……。いかなる光も、いかなる声も、あの深き虚無には届かぬというのか』


 ガレウス将軍は剣を鞘に収め、血を吐くような無念の声で撤退の号令を下した。


『全軍、退けッ! これ以上の犠牲を出すわけにはいかぬ!』


 王国軍が、潮が引くように森から逃げ出していく。


 そして。


『脅威反応の消失を確認。強制脱出モードを終了します』


 プシュゥゥゥ……。


 私のベッドの炎が消え、玉座の間の定位置に、何事もなかったかのように静かに着陸した。


「……」


 私は涙と鼻水とよだれで顔をぐしゃぐしゃにしながら、シーツに突っ伏してピクピクと痙攣していた。


 魂が半分ほど抜けかけている。


「お疲れ様でした、主様。見事な防衛戦でしたね。聖戦軍は完全に撤退いたしました」


 影山が、アイロンの効いた清潔なハンカチを私に差し出した。


「……終わった……の?」


「はい。結界も完璧な状態を維持しております。これで当面は、王国の人間がうるさく騒ぎ立てることはないでしょう」


「……もう、絶対に、絶対にこんな思いは嫌……」


 私はハンカチを受け取る気力もなく、うわ言のように呟いた。


 ようやく、本当に、誰にも邪魔されない安眠が手に入ったのだ。


「ええ、左様でございますね。当面は静かです」


 影山は優雅に微笑み、タブレットを操作しながら、とんでもないことを口走った。


「ですので、次は隣接する『魔王軍』が、主様の結界に領土的野心を持って攻めてくる前に、こちらから先制して防衛網を拡張する必要があります」


「……え?」


「これ以上のVRや室内暴走は主様の心身への負担が大きすぎます。ポイント稼ぎの効率化と基礎体力の向上のため、明日の朝からは実際にダンジョンの外周を走り込みましょう」


「影山ァァァァァッ!! 私は、ただ、寝たいだけなのぉぉぉぉ!!」


 完全なる静寂を取り戻したダンジョンに、私の絶望の悲鳴だけが、誰にも届くことなく木霊していた。


 私の終わらないタワーディフェンス地獄は、まだ入り口を抜けたばかりだったのだ。

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