第16話 思い出の制度
「ねえカイ」
夜、村が静まり返った頃、マイが言った。
「思い出って、人を安定させると思う?」
「スミレが言ってたやつか」
「うん」マイは膝を抱えた。「欲しいものとかやりたいこととか、そういう欲より、思い出の方が、人を争わせない気がして」
「そうかもしれない」
「制度として作れないかな。思い出を大切にする社会」
カイは少し考えた。
「具体的には?」
「思い出のために生きてください、って言う。家族の記憶、好きだったもの、そういうものを大切にしながら生きていく社会」
「それだけか」
「それだけ」
カイは空を見た。
「やってみよう」
◇◇◇
翌日、マイが全員を集めた。
カイの隣に立った。初めて全員の前に出た。
「あたしから、お願いがある」
静まり返った。
「思い出を大切にして生きてほしい。家族の記憶、好きだったもの、大切だったもの。それを胸に、ここで生きていってほしい」
誰も何も言わなかった。
「それだけです」
◇◇◇
三日後、カイはマイに言った。
「狩りに出る人が減ってる」
「うん」
「思い出だけじゃ、人は動かないみたいだ」
マイは黙っていた。
「思い出は守るものであって、動く理由にはなりにくい」
「そっか」マイが言った。「失敗か」
「失敗だ」
マイは少し考えた。
「じゃあ、ご褒美が必要かな」
「ご褒美?」
「頑張って生きてれば、家族を生き返らせる。そういう約束をする」
カイは少し止まった。
「できるのか」
「できる」
「約束を守れるか」
「守る」マイが言った。「あたしの願いだから」
カイはしばらく黙っていた。
「やってみよう」
◇◇◇
翌日、マイが全員を集めた。
「頑張って生きていれば、家族を生き返らせる。約束する」
広場がざわめいた。
「本当か」
「本当」
誰かが泣いた。誰かが叫んだ。
その夜から、村が変わった。
朝になると全員が狩りに出た。魔石が増えた。食料が増えた。村が活気づいた。
カイはそれを見ながら思った。
——うまくいってる。でも、何かが引っかかる。
◇◇◇
一週間後、カイの予感は当たった。
「俺の方が魔石を多く稼いでる。先に家族を生き返らせろ」
「俺の方が先に転生した。先に生き返らせるべきだ」
順番を巡って揉め始めた。
スミレが間に入った。でも止められなかった。
夜、マイがカイに言った。
「また失敗した」
「ああ」
「家族を生き返らせる、って約束したのに」
「約束は守れる。でも誰を先にするかで争いが生まれた」
マイは黙っていた。
「欲って、出てきちゃうんだね」
「そうだ」
「思い出だけじゃ動かない。ご褒美を出したら欲が出る」
カイは何も言わなかった。
「どうすればいいんだろう」マイが言った。
木々がざわめいてる。
村から、言い争う声が聞こえた。




