第15話 停滞
暴動から三日が経った。
村は静かだった。静かすぎた。
朝になると転生者たちは狩りに出た。でも戻ってくると、それぞれの部屋に引きこもった。酒場に集まっても、誰も話さなかった。思い出の品を眺めていた。
スミレがカイのところに来た。
「みんな、生きることに疲れてきてる気がします」
「そうか」
「狩りには行く。魔石も稼いでる。でも目が死んでる人が増えてる」
カイは広場を見た。ベンチに座ったまま動かない男がいた。アルバムを膝の上に置いて、空を見ていた。
「話しかけてみるか」
「してます。でもあたしには限界があって」スミレが言った。「看護師って、体を治すことはできても、生きる意味は与えられないから」
カイは何も言えなかった。
◇◇◇
その夜、カイは村の外れで願いの実験をしていた。
制限解除後、初めて一人でやってみた。
石を浮かせた。木を成長させた。水を出した。風を起こした。
なんでも叶った。
マイが来た。
「何してるの」
「実験だ」
マイが隣に座った。
「どう?」
「すごいな」カイが言った。「なんでもできる」
「でしょ」
「これは社会が混乱するわけだ」カイが言った。「みんながこれを使えたら、争いが止まらない」
「だから制限してる」
「なるほどな」
しばらく沈黙が続いた。
「一個だけ、叶わなかったことがある」とカイが言った。
「なに?」
「時間を巻き戻す願い」
マイは少し黙った。
「無理みたい」
「なんで?」
「パパが政府の人が研究してた結果を教えてくれた。時間っていうのは、因果の積み重ねの結果なのだろうって。起きたことは起きたこと。なかったことにはできない、って」
「そうか」
「うん」マイが言った。「あたしも試したことある。ママが、その前の状態に戻せないかって」
カイは何も言わなかった。
「無理だった。起きたことは起きたことだから」
風が吹いた。
「でも」マイが続けた。「だから今があるって、パパは言ってた」
「そうだな」
◇◇◇
翌日、マイはスミレを呼んだ。
「みんな、どんな感じ?」
「生きることの意味を探してる気がします」スミレが答えた。「思い出の品を持ち帰ってから、余計に考えてる」
「思い出」マイが繰り返した。
「家族の写真を毎日見てる人がいます。愛車のキーを握ったまま寝てる人もいる」スミレが言った。「でも不思議なのが、そういう人の方が、落ち着いてる気がするんです」
マイは少し黙った。
「思い出のある人の方が、落ち着いてる?」
「欲しいものとか、やりたいことより、思い出の方が、人を安定させてる気がして」
マイは広場を見た。
アルバムを眺めている男がいた。目が穏やかだった。三日前とは違う顔だった。
「そっか」とマイが小さく言った。
スミレは気づかなかった。でもカイは見ていた。
マイの中で何かが動いた瞬間だった。




