第12話 思い出の場所
翌日から、雰囲気が変わった。
真実を知った転生者たちは、狩りに出なくなった。広場に集まって、話し合っていた。声が大きかった。
スミレがカイのところに来た。
「みんな、家に帰りたがってます」
「わかってる」
「止められないと思います」
「止めるつもりはない」
スミレは少し驚いた顔をした。
「行かせるんですか」
「家族の写真を取りに行きたい人、愛車を見たい人、自分の部屋をもう一度見たい人。止める理由がない」
「でも、どうやって」
「マイに頼む」
◇◇◇
マイに話すと、マイは少し黙った。
「転移鏡をカイに渡す」
「転移鏡?」
「うん」マイが鏡を取り出した。手のひらサイズの、普通の鏡に見えた。「覗き込んで行きたい場所をイメージすると、そこが映し出される。確認してから転移できる。」
「安全だな」
「壁の中とか空中に飛んだら大変だから」マイが言った。
「よく考えたな」
「でしょ」
マイが少し得意そうな顔をした。
「カイだから渡せる。他の人には渡せない」
「わかった」
◇◇◇
翌朝、カイは広場に立った。
「一人ずつ連れていく。行きたい場所を教えてくれ。一時間だけだ」
列ができた。長い列だった。
最初の男を連れて、青森の住宅街に飛んだ。
人のいない街だった。車が止まったままだった。信号が消えていた。
男は自分の家の前に立って、しばらく動かなかった。
「入っていいか」
「どうぞ」
男は玄関を開けた。靴が並んでいた。家族の靴が。
カイは外で待った。
一時間後、男が出てきた。アルバムを抱えていた。目が赤かった。
「ありがとうございました」
それだけ言った。
◇◇◇
三日かかった。
五十人全員を連れていった。
終わった夜、カイは広場のベンチに座っていた。疲れていた。
スミレが水を持ってきた。
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
「みんな、複雑な顔して帰ってきてました」
「そうだろうな」
「でも落ち着いてきてる気がします」スミレが言った。「見てきたから、諦めがついたのかもしれない」
カイは空を見た。
「カイさんは、自分の昔の家に行ったんですか」
少し間があった。
「行かなかった」
「なんで」
「ここに戻ってこれなくなりそうだから」
スミレは何も言わなかった。
◇◇◇
その夜、マイがカイのところに来た。
「お疲れ様」
「ああ」
「みんな、落ち着いた?」
「少しずつな」
マイは隣に座った。
「カイは自分のうちに行かなかったの?」
「ああ」
「なんで?」
「ここに戻ってこれなくなりそうだから」
マイは黙った。
「カイ」
「うん」
「ここにいてくれてありがとう」
カイは答えなかった。
村の明かりが見えた。思い出を抱えて帰ってきた五十人が、静かに夜を過ごしていた。




