第8話 狩りの前に
午後になって、部屋から出てきたのは二人だった。
スミレともう一人、落ち着いていた男だった。名前はケンジといった。二十五歳、元会社員だと後で聞いた。
残り二人はまだ部屋にいた。カイは無理に出てこなくていいと伝えた。
広場のベンチに三人で座った。カイ、スミレ、ケンジ。
◇◇◇
「今日は魔法の練習をしよう」とカイが言った。「狩りはその後だ」
「魔法って、本当に使えるんですか」とケンジが聞いた。
「使える。転生させるにあたって、魔王からみなさんに力が与えられてる。二つある。氷の弾を飛ばす氷弾と、回復魔法のキュアだ」
ケンジが手のひらを見た。
「どうやって使うんですか」
「念じるだけだ。氷弾、と強く思いながら手を向ける」
ケンジが木の幹に向かって手を向けた。眉間に皺を寄せて、数秒後——
小さな氷の塊が飛んだ。木に当たって砕けた。
「おっ」ケンジが声を上げた。「本当に使えた」
スミレは黙って自分の手のひらを見ていた。それから木に向けた。
氷弾が飛んだ。ケンジより大きかった。幹に深く刺さった。
スミレは少し目を見開いた。それからまた黙った。
◇◇◇
「次は狩りの話をする」とカイが言った。「動物を狩って、魔石を取る。それがここでの稼ぎ方だ」
「動物を、殺すんですか」とスミレが聞いた。
「そうなる」
スミレは少し黙った。
「あたしは看護師でした。ずっと、人の命を助ける仕事をしてきた」
「わかってる」
「でも今度は、命を奪う側に回るんですね」
カイは答えなかった。
スミレは広場の向こうを見ていた。村のはずれに、山が見えた。
「仕方ないですよね」スミレが続けた。「生きていくためには」
「そうだ」
「でも、慣れるかどうかわからない」
「慣れなくていい」とカイが言った。
スミレが振り返った。
「慣れたら、何かが壊れる気がする。慣れなくていい。ただ、やるだけだ」
スミレはしばらくカイを見ていた。
「猟師の息子らしい言葉ですね」
「そうかもしれない」
ケンジが口を開いた。
「俺も正直、怖いです。でもやります。やらないと生きていけないし」
「それで十分だ」
◇◇◇
「一個だけ聞いていいですか」とスミレが言った。
「なんだ」
「魔王は、なんであたし達を生き返らせたんですか」
カイは少し間を置いた。
「人が必要だったから」
「それだけですか」
「今は、それだけだ」
スミレは空を見ていた。
「わかりました」
立ち上がった。
「じゃあ、行きましょう。狩り、教えてください」




