第6話 明日の朝
ダンジョンから戻った時、日はまだ高かった。
村の広場に座って、二人は話し合った。マイが石板を膝の上に置いて、カイが隣に立っていた。
「社会の構成を決めよう」とカイが言った。
「うん」
「目標は、転生した人達が自立して生活できること。マイが直接管理しなくても回るように」
マイは石板に目を落としながら頷いた。
「転生した人達への説明はこうしよう。ここは魔王の国だ、と。魔王が君たちを生き返らせた。当分の衣食住は保証する。でも、自分で稼がなきゃいけない」
「稼ぐって、どうやって?」
「狩りだ。今は動物が溢れてる。その動物を狩ってもらう。動物から魔石が取れる。魔石をこの国の通貨にしよう」
マイが顔を上げた。
「パパが言ってた。政府も魔石本位制みたいなものを検討してたって」
「なら話が早い」カイが頷いた。「魔石を集めれば食料が買える。そういう仕組みにする」
しばらく沈黙が続いた。
「野菜や米ってどうしてたんだ?」
「NPCの人達に作らせてる。パパがそうしてたから、ずっと」
カイは黙った。
村の畑が見えた。整然と並んだ野菜が、風に揺れていた。誰も食べない野菜が。
「食料が要るなら、新しく転生した人達にも必要だよな」
「必要ないと思うよ」
「なんで?」
「だって、あの人達の身体、食べなくて平気だもん」
カイが止まった。
「食べなくて、平気?」
「うん。兵隊さんになるために作られたボディだから、魔力さえ足りていれば動くようになってる。効率的なんだって」
カイはしばらく黙っていた。村の畑を見た。
「でも酒場はあるよな。あの時、人がいた」
「あれは盛り上げるために配置してるだけ。実際には飲み食いしてないよ」
「そこまでこだわってたのか」カイが少し笑った。「でも、料理は作れるわけだ」
「うん。料理専用の人がいる」
「なら、ちゃんとした食事をするべきだな。睡眠も」
マイが首を傾げた。
「なんで? 食べなくて平気なのに」
「平気かどうかの話じゃない」カイが言った。「食べることには意味がある。一緒に食卓を囲む、誰かのために料理する、季節の食べ物を楽しむ。そういうことが、人間を人間にするんだと思う」
マイはしばらく考えた。
「そうなんだね」
「俺の父さんが猟師だったから、そういうことをよく言ってた」
マイは何も言わなかった。カイも何も言わなかった。
「なら野菜や米のNPC増やそうか」
「そのうち農業する人も増やした方がいい。しばらくは足りそうか?」
「うん、しばらくなら」
◇◇◇
「じゃあとりあえず、4人転生させてみようか」
マイが石板から顔を上げた。
「カイのお父さん、呼ぶ?」
カイは少し止まった。
「いや、やめとく。落ち着いたらにするよ」
マイは何も言わなかった。ただ頷いた。
「ランダムで、若い人がいいな」
「うん。スキルどうする?」
「氷魔法ってどんなの?」
「今作ってるのは氷の弾丸を飛ばすやつ。射程30メートルくらい」
「獣は倒せるか?」
「うん」
「じゃあそれと回復魔法でいいかな」
「選ばせなくていいの?」
「ファイア選んで山火事にでもなったら困るしな」
マイが笑った。
「なるほどね」
「明日の朝、よろしく」
マイが頷いた。
広場に夕日が差し込んできた。NPCの村人が動き始めた。誰も食べないはずの夕食の準備が、静かに始まっていた。
カイはそれを見ながら思った。
明日から、この村が変わる。




