表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレな世界の少女を救う話  作者: やまし
第三部 国造り
16/31

第5話 ダンジョン

「そういえば」とカイが言った。「魔物ってどうなってるんだ。あの角うさぎとか」


「あれは野生の動物を改造しただけだよ」マイが答えた。「角をつけたり、色を変えたり」


 カイは少し止まった。


「改造、って」


「うん。あたしがコントロールしてた。完全に」


「……だから角うさぎはあんなに簡単に捕まってたのか」


「うん」


 カイはしばらく黙った。


「じゃあ、あの猪は」


 マイが少し目を逸らした。


「ごめんね。あれもあたし。あたしが襲われてたのも、演技だった」


 カイは何も言わなかった。マイはカイを見ないまま、石板の端を指でなぞっていた。

 

「怒った?」


「……いや」


 カイは少し間を置いてから続けた。


「まあ、あの時のマイには他に方法がなかったんだろ」


 マイが顔を上げた。何か言いかけて、やめた。


「ありがとう」と小さく言った。


◇◇◇


「ダンジョンっていうのは、どうしてたんだ」とカイが聞いた。


「あれはあたしが操作するわけじゃなくて、丁度いいバランスになるように動物を配置する感じだった。トラとか」


「トラがいるのか」


「うん。動物園の動物を解放したから」マイが言った。「パパと最初にやったことがそれで。あたしがお願いしたの。全部の檻を壊しただけだけどね」


「そうか」


「みんな生きていけるかわからなかったけど」マイは少し遠くを見た。「でも閉じ込めたままよりいいと思って」


 カイは何も言わなかった。


「トラの餌、あたしが毎日あげてた」マイが続けた。「ダンジョンに入れてからも、NPCに運ばせて」


「そこまでしてダンジョン作りたかったのか」


「大事だと思ったから」マイが少し胸を張った。「倒されたらまた捕まえてきて、色とか変えるつもりだったし」


 カイは少し考えた。


「よく小説にあるみたいに、ダンジョンが自動で魔物を生むようにはできないのか」


「無理だった」マイがため息をついた。「一回くらいならいけるけど、相当具体的に願わないといけなくて。諦めた」


「なるほどな」


 しばらく沈黙が続いた。

 

「ダンジョンは無しだな」とカイが言った。「そこらで野生化した動物を狩ってもらうことになると思う」


「せっかく作ったのに」


 マイがぼそっと言った。カイは少し笑った。


「なら今から行くか。ダンジョン」


 マイが顔を上げた。

 

「いいの?」


「せっかく作ったんだろ」


 マイは一瞬だけ嬉しそうな顔をした。それからすぐ立ち上がった。

 

「じゃあ行く」


 足取りが、少し軽かった。


◇◇◇


 ダンジョンの入口は、山の斜面にあった。


 岩をくり抜いた穴で、入口に松明が立っていた。NPCが管理しているらしく、火は消えていなかった。


「ここか」


「うん」マイが少し得意そうな顔をした。「奥まで三層ある」


 中に入ると、ひんやりとした空気が漂った。石畳の通路が続いていて、両側に松明が並んでいた。


「よく作ったな」


「一人でやること多かったから」


 マイが先を歩いた。慣れた足取りだった。


「一層目は角うさぎと黒い狼。二層目から大型になる」


「黒い狼もいたのか」


「うん。もともとは普通の犬」


 カイは少し止まった。


「犬を改造したのか」


「野良犬だよ」マイが振り返った。「人間がいなくなってから増えてたから」


「そうか」


 しばらく歩くと、角うさぎが現れた。三匹、通路の真ん中に座っていた。


 カイがナイフを構えた。


「待って」マイが言った。「ファイアでいける」


「ああ」


 カイが手のひらを向けた。


「ファイア」


 火の玉が飛んだ。角うさぎが三匹、まとめて吹き飛んだ。


 マイが目を丸くした。


「魔力が上がってる気がする」


「なんか最近そうなった」


「血筋かな」マイがぼそっと言った。「大分の土地で2年眠ってたから、何か特別なものが宿ったのかも」


「よくわからないな」


「あたしもよくわからない」


◇◇◇


 二層目に入ると、通路が広くなった。壁に苔が生えていて、水の音が聞こえた。


「ここに地下水が流れてるんだ」とマイが言った。「偶然見つけて、そのまま使った」


「本当によく作ったな」


「でしょ」


 マイが少し胸を張った。


 次の曲がり角で、黒い猪が現れた。あの時と同じ、全身が墨を塗ったように黒い猪だった。


 カイは一瞬止まった。


「あの猪か」


「違う猪だよ」マイが言った。「ごめんね、やっぱり」


「いや、いい」


 カイがファイアを構えた。猪が突進してきた。カイが横に躱して、横腹に火の玉を当てた。猪がどっと倒れた。


 マイが魔石を拾った。


「大きい」


「二層目はそういう設定にした。魔石の品質が上がるように」


「なるほどな。よく考えてある」


 マイは魔石を眺めながら、少し黙っていた。


「カイがダンジョン来てくれるとは思ってなかった」


「せっかく作ったんだろ」


「うん」


◇◇◇


 三層目の扉の前で、マイが立ち止まった。


「ここから先、トラがいる」


「一匹か」


「二匹。オスとメス」


 カイは少し考えた。


「どうする?」とマイが聞いた。「倒す?」


「いや」カイが言った。「野生に返そう」


「野生に?」


「ダンジョンは無しにするんだろ。なら閉じ込めておく理由もない」


 マイはしばらく扉を見ていた。


「でも外に出したら、人を襲うかもしれない」


「その時はその時だ。逆に倒されるかもしれない」


「そっか」


 マイが扉を開けた。


 中は広い空間だった。岩の壁に蔦が絡まっていて、地面に草が生えていた。マイが手間をかけて作ったのがわかった。


 奥に、二匹のトラがいた。大きかった。カイを見て唸り声を上げた。


「大丈夫」マイが前に出た。「あたしのことは知ってるから」


 マイがトラに近づいた。トラが鼻を鳴らした。マイが首筋を撫でた。


「毎日来てたのか」


「うん」


 カイは何も言わなかった。


 マイが目を閉じた。次の瞬間、ダンジョンの壁の一部が消えた。山の景色が広がった。


 トラが二匹、ゆっくりと外に出ていった。草の中に消えていった。


 マイはしばらくその場所を見ていた。


「行っちゃった」


「ああ」


「寂しいな」


 カイは答えなかった。


 山の風が、空いた壁から吹き込んできた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ