第4話 天才
大分の山は、静かだった。
東京から転移して、二人は元の場所に戻っていた。マイが半年かけて作った村が、朝の光の中に広がっていた。
「ならとりかかろう」とカイが言った。
「うん」
「マイ、魔王だな」
マイが少し固まった。それからぷっと噴き出した。
「なにそれ」
「いや、呼び方が必要だろ。魔王でいいか」
「……まあいいか」
マイは村を見渡した。石造りの家、木の看板、石畳の道。半年かけて作ったものが、朝日の中に静かに並んでいた。
「ここを使おう」とカイが言った。「マイが作ったこの地域をベースに、ファンタジーな世界を作る。ゼロから作るより早い」
「うん。そのつもりだった」
「魔法陣、よくできてたな。あれどうやってるんだ」
マイは少し考えてから答えた。
「まず、目が覚める前に「魔力での願いは魔王が許可した願い以外叶わない」って制御を先にかけるの。そして、特定の魔法陣に触れた後に、特定のキーワードを言った時だけ、特定の現象を許可する。キュアとかファイアとか、そういう仕組み」
「なるほど」
「魔力に関する願いだから一日にたくさんは無理だけど、30人くらいまでなら大丈夫だと思う。願いに関する記憶の操作とセットだね」
「記憶の操作?」
「願いの仕組みを知ってたら、抜け道を探す人が出てくるから。魔法陣を使えばできる、くらいの認識にしておく方がいい」
カイは少し黙った。
「問題はその「制御に関する魔力」をどう継続するか、だけど、それはその人の魔力を使うの」
「じゃあもし魔力がゼロになったらその人は制御を抜け出すんじゃないか?」
「うん。そうだけど、そんなことにはなかなかならないよ。生きてれば自然と魔素をとりいれるし」
「それもパパと考えたのか」
「うん、パパに教えてもらった。考えたというより当時の政府の人の考えかな。制御しながらも魔法をうまく活用したかったみたいだよ。こんな風に魔法陣は使わないけどね」
「よく出来てるな」
マイは少し嬉しそうな顔をした。すぐ表情を戻したが、カイは見ていた。
「それで魔法だけじゃなくてスキルもいけるよね」
「うん」
「スキルも考えてたのか」
「たくさん考えたんだよ」マイが言った。「使わなかったけどね」
「見せてくれるか」
マイが少し驚いた顔をした。
「メモがあるの?」
「うん、ちょっと待って」
マイが目を閉じた。次の瞬間、石板が現れた。びっしりと文字が刻まれていた。
カイはそれを受け取って、じっと見た。
「これ、全部マイが考えたのか」
「うん」マイが答えた。「あたし、一人でやることなかったから」
カイは石板を見たまま何も言わなかった。
「どう?」とマイが聞いた。少し心配そうな顔だった。
「天才じゃないか」
マイが少し固まった。それからまた、ぷっと噴き出した。
「なにそれ」
「本当のことだろ」
マイは石板を受け取って、また目を伏せた。でもその表情は、さっきとは少し違った。
しばらく沈黙が続いた。
「ねえ、カイ」マイが言った。
「うん」
「なんであたし、こんなにたくさん考えてたんだろう、って思う時がある」
「どういう意味だ」
「うまく言えないけど」マイは石板を見ながら言った。「なんか、続けなきゃいけない気がしてて。世界を安定させて、長く維持しなきゃ、みたいな。誰かに言われたわけじゃないけど」
カイは少し黙った。
「それが魔王ってことじゃないか」
「そうなのかも。だから魔王って言われるのに違和感がないんだよね」マイが言った。「どうも、最初に魔素を取り込んだって事実から、あたし、神みたいなものになっちゃったみたい。なんか使命感みたいなのがある。うまく説明できないけど。」
「そうか」
「変かな」
「変じゃない」カイが言った。「マイらしい」
マイは少し照れたような顔をした。それからすぐ石板に目を戻した。
「じゃあ、一緒に考えよう」とカイが言った。
「うん」
◇◇◇
「そういえば」とカイが言った。「魂を入れるボディって、どうしてるんだ。マイが考えたのか」
「ううん、もらった」
「もらった?」
「あたしが目覚めてすぐくらいに、海外から調査団が来たんだよね」マイが石板から目を上げた。「そこまではいいんだけど、あたしを渡す渡さないで揉めて、最終的に一部の国と戦争になった」
「戦争」
「こっちの圧勝だったけどね」
マイはさらっと言った。カイは何も言えなかった。
「その時に相手が使ってきたのが、この人工ボディ。色んな国が色んな風に研究してたんだって。魂を効率よく活用して兵隊を作る、とかで」
「それは」
「うん、気持ち悪いよね」マイが言った。「でもパパが交渉してくれて、技術ごともらった。顔も体の大きさも年齢も変えられる。少し人間より丈夫にも作れる」
「そういうことか」カイは少し間を置いた。「今、海外とはどうなってるんだ」
「鎖国状態」
「鎖国」
「パパが怒ったから」マイが静かに言った。「日本列島の海岸線を覆う形で、踏み入れない制約をつけた。魔量を魔石でおぎなってるから、定期的に魔石の交換が必要だけどね。それ以来、誰も入ってこれない」
カイはしばらく黙っていた。
「パパが怒ったのか」
「うん」マイは石板に目を戻した。「あの時だけ、パパが怒ったの見た」
それ以上は言わなかった。
「じゃあ、一緒に考えよう」とカイが言った。
「うん」
二人は石板を挟んで、朝から話し合った。




