第3話 魔王
しばらく沈黙が続いた。
東京の朝が、静かに広がっていた。
「一つ聞いていいか」とカイが言った。
「うん」
「生き返らせた人間、その後どうする」
マイが顔を上げた。
「どうするって」
「生き返っても、この世界で生きていく仕組みがなければ混乱するだけだ。食料、住む場所、社会のルール。それがないと人間は不安になる」
「わかってる」
「マイが直接全員を管理するのは無理だろ。人数が増えれば増えるほど追いつかない」
マイは膝を抱えたまま答えた。
「だからずっと悩んでた」
「ゲームはゲームでも、前みたいなRPGじゃなくて、シミュレーションゲームにすべきだと思う」
「どう違うの」
「人に、ここはこういう世界で、自分はその一員だと納得させる。自分の立場がわかれば、人間は自分で動ける。命令されるより、自分で決断したことの方が強い」
マイはしばらく黙っていた。
「でも、その世界を動かす中心が必要だよね」
カイは答えなかった。
マイがカイを見た。
「あたしが、ってこと?」
「そういうことだ」
「でも」マイが言った。「あたしが直接管理するのと、何が違うの」
「全然違う。管理するんじゃなくて、世界の法則を作る。人間が自然にそこで生きていけるように、ルールを設計する。あとは人間が勝手に動く」
「法則って、魔法の?」
「魔法もそうだし、社会のルールも。人間が生きていく上で必要なものを、最初から世界に組み込んでおく」
マイは少し考えた。
「それってあたしが神様になる、ってこと?」
「神様は大げさかもしれないけど、そういうイメージに近い」
マイは黙った。
「でもあたし、そんな大それたことできるかな」
「できるかできないかじゃなくて、マイしかできないんだよ」
マイがカイを見た。
「一番最初に魔素を取り込んだのはマイだ。この世界の上位者はマイだけだ。他に誰もいない」
風が吹いた。
「それに」とカイが続けた。「直接管理しないことにすると、もう一つメリットがある」
「なに」
「生き返らせた人間に感じる違和感、あるだろ」
マイが少し固まった。
「基本的に関わらなければ、その違和感を感じなくて済む。法則を作ったら、あとは人間が勝手に動く。マイが直接触れる必要はない」
マイは膝を抱えたまま、東京を見た。
「それって」マイがゆっくり言った。「あたしが魔王になる、ってこと?」
カイは少し考えてから答えた。
「魔王かどうかはわからない。でも、この世界を動かす中心になる、ということだ」
「あたしひとりで?」
「俺がいる。当分は」
マイは東京を見た。人のいない街が、朝日の中で静かに広がっていた。
「当分、か」
「まずはそこからだ」
しばらく沈黙が続いた。
「わかった」とマイが言った。小さい声だった。「やってみる」
それだけだった。
カイは何も言わなかった。東京の朝が続いていた。




