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第二回アルシュの世界ぶらり旅2

2.



「ごめんなさいね。私はあなたの御飯じゃないの。頑張って食べ物を探してね。」


岸でずぶ濡れのアルシュがそう言うと、グォォーっと残念そうな声を上げて大きな口は水中へと帰っていく。


「ちょっとビックリしたけれど、話を聞いてくれる良い子だったわ。」

「いやいやいやいや・・・。大丈夫?痛いところとかない?どっか溶けたりしてない?」

「大丈夫よ。水浴びも出来たし、ちょっと日光浴して身体と服を乾かしたら川に沿って歩いて見ましょう。」


逞しいなぁ。うちの子は。




―アルシュがその口に食べられて十分程が過ぎた頃。

僕は、突然の出来事に混乱していた。

全てを見通す僕の目も、生き物のお腹の中までは見通せない。

取り合えず水の中へと目を向けて、アルシュを食べた生き物を探す、が中々見つからない。

だが、砂の中に巨大な何かが居るのが分かった。アルシュの反応も同じ位置にある。

どうやら砂の中に隠れて、獲物を待ち伏せしていたらしい。

そこへ不用心な獲物がジャブジャブと無警戒に近寄ってきたものだから、ガブリといったわけだ。

アルシュを食べた奴の位置を特定した僕は、急いで彼女を救出すべく川の下へ通る自身の根に力を送る。


そして根から力を放出しようとした時、


「ソーキちょっと待って。今出るから。」

「アルシュ!?」

「ええ、そうよ。私は大丈夫。この子はちゃんと話を聞いてくれたわ。」


そう彼女が言った途端、水面が盛り上がり巨大な口が水上に現れた。

それは大きな口を持ち、長い体をしたワームのような生き物だった。

水上に現れたそれは身体を伸ばし、口を岸辺へと乗せるとグワッと開いた。

すると中からアルシュが歩いて出てきたのだ。


「岸まで送ってくれてありがとう。」


アルシュはその大きな口を撫でながらお礼を言う。

ワームもどういたしまして!とばかりに大人しく撫でられている。

それからアルシュが水浴びをしたいと言うと、そのワームは自分の身体を丸めて浅瀬に流れの無い安全なプールの様な物まで作ってくれた。

そうして冒頭に戻るというわけだ。




それから小一時間ほど日向ぼっこをして、服がすっかり乾くとアルシュはまた歩き出した。


「もう、心臓・・は無いや。んーっと葉脈がドキドキするから、もうちょっと慎重に行動してよ!頼むから。」

「そんな葉脈怖いわ。でも、ごめんなさい。気を付けるわ。」


ビクンッ!ビクンッ!と脈に合わせて一斉に跳ねる葉っぱでも想像したのだろうか。それは確かに怖い。


「うん。でも知らない内に色んな進化をしてる生き物が居るもんだね。僕ももっと色んな所を小まめに見てないと駄目だなぁ。」

「そうね。それにもっと落ち着いて力を使わないと駄目よ。もしさっきソーキを止めなかったら、地形が変わってるところだったわ。」

「はい。ごめんなさい。」


いつの間にか僕がお説教されている。


「大体ソーキは・・・」


何故かそのまま、暫くの間アルシュのお小言を聞かされながら、歩き始めたアルシュに僕の視界は着いて行くのだった。




それからもアルシュは川沿いを歩き続ける。

時々現れる森を抜け、川の支流を渡り、山を越え。

偶に親切な動物にその背に乗せてもらったり、意地の悪い獣をお仕置きしたり。

そうして進み続け、やがて季節が一回りした頃。


「おや、随分と小さな旅人さんだね。そんな歳で一人旅かい?」


川の小さな支流を渡り、少し歩いたところで誰かがアルシュに声をかけた。

声の方へと目を向けると、そこには森を出て以来、初めて見る二足歩行の生き物が立っていた。


この世界で初めて見る人間の男だった。

三十過ぎ位だろうか。背丈は然程高くないが、ガッチリとしている。背には籠の様な物を担いでいた。


「あら、こんにちは。あなたは?」

「俺は川で魚を取った帰りさ。この先の村に住んでる。もうすぐ日が暮れるし、良かったらお嬢ちゃんも来るかい?」

「あら、村があるのね。是非見てみたいわ。一緒に行っていいの?あ、私はアルシュっていうのよ。」


―自己紹介は大事だ。


「俺はクゼトアってんだ。ああ、おいで。暗くなったら獣除けで村の出入り口を閉めちまうから、中へ入れなくなっちまう。

 しかし妙だな。俺の村より向こうにゃ、人里が在るなんて聞いたこともねぇが。アルシュの嬢ちゃんはどっから来たんだい?」

「私は向こうにある森から来たの。ここからは、ずっと遠くよ。」

「へぇ、森に住んでる人間も居るんだなぁ。じゃあ着いといで。そろそろ行かねぇと村に入れなくなっちまう。」


そう言うと漁師のおじさん―クゼトアさん―は川の支流と並行に歩き始めた。

アルシュも少し後ろから着いて行く。


そうして三十分ほど歩くと正面に二メートル程の木の柵に囲われた村が見えてきた。

まだ門は開いているようだ。


やがて村へと辿り着き、門を通り過ぎた。


「おう、クゼトア。誰だいその子は。魚だけじゃなくて子供まで取ってきちまったか?」


門の近くに居た男がクゼトアに声をかけてきた。

クゼトアと同年代位で背丈は彼よりも頭一つ高い。


「馬鹿言うな、帰りに見つけたんだ。一人旅の途中だそうだよ。もう暗くなるってんで村に案内したんだ。向こうの森から来たんだと。」

「はあー、森にも人なんか住んでるもんなのかい。世界は広いねぇ。」

「隣の村位しか行った事ねえ奴が何言ってんだ。ほら、先に何時もんとこ行ってろ。俺はこの子カミさんに任せたら行くからよ。」

「はいはい。旨そうな魚、二、三匹持ってきてくれよ。」


そう言って背の高い男は背を向けて歩いて行った。


「待たせたな。取り合えず俺の家へ来な。カミさんが飯と寝床位用意してくれるから。」


アルシュの方を見て、クゼトアが言う。


「ええ、お世話になるわね。」


こうしてアルシュはこの世界の第一村人と出会い、初めての人間の村に足を踏み入れた。

ワームのイメージはトレマーズ

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