メリー:涙
父親と共に列車に揺られる少女。お互い向かい合い座っているが、かれこれ一時間も会話はない。
「……」
「……」
外の景色は確実に、都会の喧騒へと変わっている。
娘と父。会話もなく、視線を合わせるでもなく、ぼんやり景色を眺めていた。
「……」
「メリー。お腹空かないかあ?」
ようやくの言葉。父から娘へ掛けられた言葉。
メリーは黙って頷いた。父親は、車内販売の人に声を掛けた。二人前のサンドイッチとコーヒー、それと牛乳。
「……アタチの好物、覚えてたの?」
「当然だよ。牛乳を鬼のように飲んでいたのを鮮明に覚えている」
「サンドイッチ……お母が、よく作ってくれた」
「病気。そんなに重いのかい?」
「ずっと辛そう。ほとんど寝てるんだしょ」
「お父さんがしっかりしていれば」
「どうして、出ていったの? 理由を知りたいんだしょ」
「心配を掛けたくなかったんだ。お父さん、軍認として動いていたから」
「軍認をしていて、何で司令部の建設に反対なの!?」
「軍認だったからだよ。軍認として、色んな場所を訪れていた。それ故に、軍のやり方が気に食わないんだ」
「それは前の元帥での事しょ? 今の元帥は違うって言ってたしょ!」
「一度完成してしまった組織を変えるには、組織を壊すのが手っ取り早い。それをしない時点で、軍の変化なんてないこと位、お父さんは判る。だから反対なんだよ」
「じゃあ、軍認を辞めて。反対するなら、それくらいしないと駄目だしょ」
「今更、軍認を辞めるのは無理だ。軍認の在り方は変わったけど、本質は変わっていない。軍からの指令に応える。それだけだよ」
「どうして無理なんだしょ!?」
「この手で、いっぱい人を殺したんだよ。軍認という肩書きを大義名分にして」
「そ、そんな」
「だから引き返せないんだ。ごめん、メリー」
※ ※ ※
列車に揺られながら着いたのは、ロイズだった。
着いた早々に家へと向かう。鍵を開けて入っていく。
「お母!」
「メリー!」
寝ていた身体を起こし、大きな目を見開いた妻。それもそうだ。二年間、会っていなかった夫が現れたのだから。
「メリーから聞いたよ。重い病気らしいけど」
「そうね。特別隠すこともないから。そう、そうなの」
そう言いつつ、病名を明かすことはなかった。
気まずい雰囲気をなんとかしようと、メリーは、ウル達との話を二人にする。黙って聞いていた両親。
※ ※ ※
話すだけ話すと、メリーは疲れで眠ってしまった。
「メリーが来た時は驚いたよ」
「迷惑掛けちゃったわね」
「いや。こっちこそ、会いに来れなくて済まなかった。……病気の事……メリーには?」
「言ってない。なのに察していたようね。貴方と連絡を取っているのを知っていたのに、私が貴方に伝えていたとは思っていないようだけど」
「先生は何て?」
「年を越せれば御の字、と」
「そうかあ」
「戻らなくていいの? 軍認で訪れたノランに魅せられて、軍に反発している最中でしょう? 穏やかな街には、険しい司令部は不要なんでしょう?」
「直ぐに戻るつもりだったよ。けど、君の顔を見たら、そうは言ってられない」
「アパートは?」
「メリーのお友達が代わりに居てくれている。どうやら、軍と多少の繋がりがあるらしいんだ。軍に反発をしていながら、軍の手を借りるのもおかしな話だけど」
「ノランの代表と軍との協定なのよね? ……難しいんじゃない?」
「街の代表の考えは変わってないし、軍も司令部を造ることに躍起だ。確かに難しいだろうけど、ノランの為に頑張って粘る」
「その意気よ」
「お母。お父」
寝言で呼び掛けるメリー。
両親は、メリーの頭を精一杯撫でる。
メリーの目から、一筋の涙が流れ出た。




