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縁談

 コーヒーを飲みながらのひととき。

 お気に入りの雑誌の最新号を読みながら、ゆったりと朝を堪能するキリナ。

 そんなゆったりした朝を、一本の電話が崩してきた。電話に出たキリナの耳に飛び込んだのは、自分に縁談の話が舞い込んだというものだった。


「お父さん。勿論その話、お断りしたのよね?」


【何故だ? お前も二十歳。相応しい相手が現れれば、結婚のひとつも考える頃だろう】


「相応しい相手が現れれば、ね」


【今回のお相手はいい人だ。お父さんが保証する】


「勝手に話を進めないでもらえない? 相手の善し悪しを判断するのはお父さんではないでしょう」


【キリナには、ちゃんとした人と添い遂げてほしいんだ。メルのようになってしまう前に、キチンとした方と】


「メルが、どうかしたの?」


【どこの誰かも分からない男と一緒に居たんだよ。なんとか離したが、どこかで会ってるかも分からん。お父さんは、あんな奴との交際は許さない! ましてやメルは十歳だ。絶対に駄目だ!】


「過保護過ぎだわ。メルだって女の子。好きな男の子くらい出来て当たり前じゃない」


【随分とメルの肩を持つんだな。まさかキリナ、お前も意中の男がいるのか? 既に付き合っているのか!?】


「そんなんじゃないわ。只、人を好きになるのって、そんなに簡単な事ではないじゃない。メルは、その難しい事をしたのでしょう? ワタシは姉として嬉しいけど?」


【メルにはもっと相応しい相手が現れる。キリナ。メルがその男と一緒に居るところを見掛けたら、銃で脅してでも引き離せ】


「その男の子を知らないわよ?」


【銀髪でつり目の、生意気そうな奴だった】


(銀髪……つり目……)


「見掛けたら、ね。そう会うことなんてないだろうけれど」


【それで、いつ帰ってくるんだ】


「そのうち帰るわよ。だけど、その縁談は断っておいてよ?」


【何故そうなるんだ!?】


「ワタシは軍人。結婚した際は、退役も考えるわよ? けど、交際期間中は軍人でいるつもり。そんなワタシを理解出来る人じゃないと無理だもの」


【そこまで軍に拘る理由は何だ?】


「遣り甲斐を感じているの。ワタシの力が少しでも役に立ったときとかね。この国をより良く変える為に働けているのが嬉しいの」


【姉妹揃って、親の親切を拒絶するか】


「親切じゃないわ……押し付けよ。本当にワタシとメルのことを想っているのなら、信じてくれてもいいんじゃない? それに、ワタシがこうして軍人を続けていられるのは、お父さんが心配してくれるからなのよ? 親の想いが、子供にどれだけの勇気を与えているのか判らないでしょうけど」


【お、お前~】


「泣かないでよ!? とにかく、そういうこと。じゃあね」


 受話器を置くと、読みかけの雑誌に目を通す。

 飲んでいたコーヒーカップの底が見えた頃、雑誌も終わりを迎えていた。


『今月のあなたはパニック? 突然の連絡に振り回されるかも。でもお陰で、自分の気持ちと向き合えるかも! 恋愛運急上昇! 運命の相手は、身近なところにいるのかも!?』


「恋愛、か。そんな余裕無いわよ」


 雑誌を片付け、コーヒーカップを洗い、空気の入れ換えの為に窓を開ける。心地いい風が髪を揺らす。


「〝鈍感な〟上司を支えなければいけないもの」


 キリナは大きく深呼吸をした。

 晴れやかな空を照らす太陽のように、彼女の表情は輝いていた。

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