真犯人
ロイズ司令部の一室。ライド大尉の部屋には緊張感が漂っていた。キリナ、トーマ、セレン、クリスに加え、ティタ、メイル、メルも加わって、あるファイルを見つめていた。
「こんなに居るん!? かー!」
「軍認に選ばれている方々の住所へ向かいましたが、事件前後、ルワンに居たと答えた者は五人程でした。なので、容疑者はこの五人に絞られます」
「ご苦労だ、トーマ。これだけ人数を絞れれば何とかなるだろう」
「大尉。どうしましょうか? 任意で引っ張りますか?」
「あまり強引な手は使いたくない。軍への風当たりが強い今、こちらから下手に出よう」
「分かりました。ワタシが向かいます」
「俺も行くっす。キリナ少尉」
「気持ちは嬉しいけれど、貴方は待機でお願い、クリス。ボディーガードは別に居るから」
そう言ってキリナは、メイルの顔を見た。
見られたメイルはキョトンとし、メルはキリナに対抗心を燃やし始めた。
「子供を連れていく気っすか!?」
「ええ。この子達の頼もしさは、折り紙付きよ。少なくとも貴方よりはね」
「キリナ少尉、それはキツイっすよ!」
「あはは! クリス、また振られたん! お前じゃ少尉と釣り合わんから!」
バシバシ背中を叩くセレン。叩かれているクリスは酷く肩を落としている。
「では行ってきます。皆、宜しくお願い」
※ ※ ※
「……ここが最後の家だわ」
「他の四人には、絶対的な証明があった。ここもそうだとしたら、振り出しに戻る」
「……いくわ」
コンコンとノックをする。
キリナの後ろで、メイルが構えを取り、メルがバリアを張る。もしものための対策だ。
「はい?」
「ゴビンさんですね? ワタシ、ロイズ司令部から来ました、キリナ少尉と申します。すみませんが少し、お話をお伺いしたいのですが宜しいでしょうか?」
「軍の方が一体、何の用で?」
「実は、ルワンにて起きた事件についてなのですが……」
「その件か。その件なら既に、別の軍人さんに話しましたよ。その事件があった前後、確かにルワンには行きましたが、残念なことに体調を崩しましてね。折角の休暇が台無しになりましたよ」
「それを証明出来る方は?」
「残念ながら独り身で。その日も一人でしたよ」
「……あの、持病などはありますか?」
「五体満足、無病息災が自慢でね。有難いことに持病は無いんだよ」
「そうですか」
「さ、用件は済んだ。早く帰ってくれ。こんな人間に付き合っている程、軍は暇じゃないだろう。一刻も信用を回復しなければならないときに」
「仰る通りです」
玄関の扉を閉める為、ノブに手を掛けるゴビンを見て違和感を感じたメイルは、ゴビンを引き留めた。
「まだ何か。折角の休暇を潰されては堪らんのだ」
「手首、どうかしたのか?」
「え?」
「切り傷でしょ、それ。そんな一ヶ所に同じような傷……普通は出来ない筈だぞ」
「仕事柄、紙を多く触るんだ。その時に切れた傷なんだろうよ」
「そんなに頻繁に傷が出来るのなら予め、テーピングでもしとけばいいだけだ。それをしてないのは何故?」
「そういうの……苦手なんだよ。いちいち巻いたり、貼ったり……」
「傷が出来るよりはマシな筈だぞ。そんなに傷だらけだと、そのうち悪影響が出るかも」
「……こういう性格なんだよ……」
「おかしいぞ? さっき言ってなかったか? ……『五体満足、無病息災が自慢』って。そんな人間が、切り傷だからといって軽視するとは考えづらいんだが」
「……偶々、だ……」
「それに、〝五体満足、無病息災が自慢の人間が、連続殺傷事件が起きる街に偶々来て、偶々運悪く体調を崩した〟なんて出来すぎないか?」
「……た、偶々だ!」
「しかもその人間は、〝偶々〟軍認であった」
「……っ!?」
「偶然とは恐ろしい、ね?」
「い、言わせておけば!」
ゴビンは、メイルに向かって殴り掛かる。
間に割って入ったキリナの顔面に、ゴビンの拳がヒットした。ニヤリとするキリナ。
「……公務執行妨害で逮捕します」
「今のは只の事故だ!? 生意気な口を利いた子供を躾ようと!」
「軍人のワタシが、パンチ一発で血だらけになりました。これを彼が受けていれば……最悪の場合、死んでいたかもしれません。お分かりですね?」
「……うっ!?」
キリナの手によって手錠を掛けられ連行されるゴビン。車へと押し込まれ、ロイズ司令部へ連れていかれた。
「キリナさん!?」
「もしかしたら、鼻が折れてしまっているかも。でもこれで、ゴビンを連行出来たわ」
「女の子の顔を殴るなんて、絶対に許せないのだよ!」
「なに。これからキツく絞られる筈だ」
キリナ達も、ロイズ司令部へと戻っていく。
怪我の功名と言えば聞こえは良いが、顔に傷を負ったことは、女性としては非常に辛いだろう。それでも満足そうな表情をしているキリナは、軍人の鏡なのかもしれない。




