改革
大将室に居るにょんちゃんは、紙と睨み合いをしていた。かれこれ三十分はそうしている。
「うーーん。これで良いにょんか?」
「失礼します、テレサ元帥。お飲み物をお持ちしました」
「にょんちゃんでいいのに」
「そうはいきません。国と軍のトップの方を愛称で呼ぶなどなりませんよ」
「にょんちゃんは気にしないにょん。そもそも、テレサという名前は、にょんちゃんには勿体ないにょん。名前負けをしてるから」
「テレサ……美しい名前ではありませんか!」
「だからにょん。にょんちゃん、美しくなんかないよ?」
「何を仰っていらっしゃいます! テレサ元帥の人気が拡大してるのですよ! 元帥の美しさで、密かにファンクラブが作られているみたいですし」
「そんな過大評価だにょん。それはきっと、初の女性元帥だからだにょんよ」
「……もっとご自分に自信を持ってください。貴女の魅力が、この国が変わる切っ掛けになっているのは確かなのですから」
一礼して、元帥補佐は部屋を出た。
にょんちゃんは仮面を外して鏡を見る。御披露目以降、公の場で素顔を晒したことはなかった。御披露目の時に撮られた写真が新聞に載り、国民に知れ渡ったのは知っていた。それでも、にょんちゃん自身は納得してはいなかった。
「にょんちゃんのどの辺が美しいのだろう? 身体は軍服で覆われていたのだから……顔? ……そんな筈はないにょん。にょんちゃんの顔に、美しいなんて似合わないにょん」
再び仮面を着けて机に向かう。
机に置かれた紙を見ながら、にょんちゃんは考えていた。
※ ※ ※
「大尉!」
「何だね騒々しい。ノックもなしに」
「にょんちゃん元帥の声明だって!」
「今日がその日なのは知っている。君に急かされなくとも聴くつもりだ」
「ラジオ! ラジオ!」
「何故わざわざ、私の所で聴こうとするのかね?」
「軍のラジオの方が聴こえ易いんだって。ノイズも入らないし!」
「本来ならば、君みたいな子供が出入りしていい所ではないのだがね」
「細かいのは無しって!」
「仕方あるまい」
ライドがラジオをつける。ラジオには付き物な雑音などはなく、綺麗な時報が流れた。そして、にょんちゃんの声明が始まった。
【国民の皆様どうも。セラテシムン国、元帥のテレサです。この度は、発表の場を与えてくださり誠に感謝いたします】
「にょんちゃんだって!」
「しっ! 聴こえんではないか」
【本日はこの場を借りて、セラテシムン国の歴史に一石を投じたいと思います。先ず、〈精進の儀〉に関して発表があります】
「〈精進の儀〉だって?」
【〈精進の儀〉の、本来の目的に関しましては先日、お伝えした通りです。ですが、いつまでもそんな歴史を継いでいく訳にはいきません。〈精進の儀〉の有り様を変えなければなりません。なので、この場を借りて宣言いたします】
「どうなっちまうって!」
【〈精進の儀〉の目的は、軍のそれとは無関係とし、子供の可能性を広げ、育む為のものとする】
「大尉、どういう意味だって?」
「簡単に言えば、今の君達のように旅をさせ、色々な可能性を伸ばすということだ」
「変わらないんじゃ?」
「いや。軍とは無関係と宣言したんだ。将来的な軍への勧誘や、軍からの接触も無くなる」
「え!? じゃあ俺、司令部出禁!?」
「相手が承知していれば、その限りではない。心配は要らない」
「よかったって~」
【続いての発表は、軍認についてです。これまで軍認というのは、軍からの強制的な命令の元、民間人の核師を有事の際、軍人として使役する為のものでした。招集に応じない場合、死刑という形を取るという残忍なものでした】
「どうする気かね?」
【軍認という歴史にも、一石を投じなければなりません。軍認の制度を見直し、改めることを宣言します。軍認は今後、志望者による登録制とし、招集に関しましても参加の有無を選択出来るものとします。また、軍認にも階級を定め、働きに応じ昇進するものとし、昇進毎に報酬が上がるものとします】
「考えたな。今まで報酬は一律だったし、階級なども無かった」
「どうなるの?」
「軍認で食べていた者も居たらしい。そこから強制を払い、代わりに選択と地位を加えたことで、大きな間口が出来上がった。これから希望者が増えるかもしれん。思いきった事をしたものだ」
【……以上で声明を終了とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました】
「大尉。セラテシムンは変わる?」
「それは分からんよ。にょんちゃん元帥のセラテシムン国は、始まったばかりだからね」
「だよなー。まだ分からないって」
「〈精進の儀〉、続けるのかね?」
「勿論。にょんちゃん元帥にも言ってある」
「そういうのは早いのだな、君は」
ライドは、ウルと昔の自分を比べる。
自分が旅をしていた時は、こんなに輝いていたのかと考える。考えたところで、昔に戻れる訳ではない。単純に羨ましいだけなのかもしれない。そんなことを考える程の歳ではないのにと、ライドは思わず苦笑した。




