元帥の招待
ロンド司令部にある、重く大きな扉。大人でも一人で開けるのは困難な程だ。扉の前に立つ二人の見張りが、その扉を開ける役割を担っていた。
「開けてくれない?」
「ここは、子供が来ていい所ではない。迷子なら案内してやろう」
「違うって。俺、にょんちゃん元帥に呼ばれてるんだって」
「元帥に? そんな筈はない。君みたいな子供が、元帥とお会い出来ると思っているのか」
「本当なんだって!」
「駄目だ。もっと巧い嘘をつくこった」
「そ、そんなァー!?」
重く大きな扉の向こうから、トントンとノックが聞こえる。見張りの二人は、直ぐに扉を開ける。
「どうかなさいましたか? 元帥」
「騒がしいから何事かと思って……ん? ウルクン!」
「にょんちゃん元帥!」
「そんなとこで立ってないで、遠慮なく入ってにょん」
「いけません!? こんな得体の知れない人間を入れては!」
「にょんちゃんの友達にょんよ。元帥は、友達と会ってはいけないにょん?」
「そ、そんなことは!?」
見張りを言いくるめ、ウルを招き入れる。
扉が閉まりきったのを確認すると、にょんちゃんは溜め息をついた。
「……疲れるにょん……」
「御披露目から一週間、ずっと忙しいの?」
「忙しいのもあるけど、やたら、人に追い掛けられるにょん。それが嫌にょん」
「にょんちゃん元帥の人気は、うなぎ登りだもんな。御披露目前は、〝仮面の悪魔〟とか言われてたのに、御披露目後は、〝仮面の天使〟だもんな」
「何でだにょんね?」
「そりゃそうだって。赤い軍服と白い仮面から、あの素顔は反則だって」
「最初くらい外そうかと思っただけなのににょん」
「仮面、外さないのって?」
「この方が楽にょんよ。素顔でやり抜く自信はないにょん」
「勿体ないって」
ボソッと呟くウル。向かい合っていたにょんちゃんは一瞬、『ん?』 と反応したが、ウルは上手いことやり過ごした。
「ウルクンは、これからどうするにょん?」
「〈精進の儀〉の、本来の目的なんか関係ない。俺は旅を続けるって!」
「そうにょんか。……旅は楽しい?」
「辛い出来事の連続で正直、心が折れそうになったこともあったけど、それと同じくらい、良い出来事もあって……楽しいって!」
「それは良かったにょん。にょんちゃん達が味わえなかった旅の楽しみを、にょんちゃん達の分まで楽しんでにょん」
「うん! いつか思い出した時、話尽くせないくらいの思い出を作るって!」
「その意気にょん。ウルクン、何か飲むでしょ?」
招いたのは自分なのにお茶の一杯も出していないことに気付いたにょんちゃんは、大至急持ってくるよう指示を出した。
「ごめんにょん。気が付かなくて」
「そんな気遣い不要だって!?」
「ウルクンはお客様にょん。招いた以上、もてなすのが礼儀だにょん」
「にょんちゃん元帥は優しいって」
「そうにょん?」
暫くして、お茶菓子が到着する。香りのいいコーヒーと、焼き上がったばかりのビスケットが食欲を誘う。ウルの目は釘付けになっていた。
「食べようにょん。出来立てが一番にょん」
食べるにせよ飲むにせよ、必然的に仮面を外さなければならない。にょんちゃんは、仮面を外してコーヒーを飲んだ。口に広がる香りが、鼻を抜けていく。
「美味しい」
「やっぱ、にょんちゃんは仮面を取った方がいいって」
コーヒーを飲んで嬉しそうに微笑んだにょんちゃんを見て、ウルは思ったままを言った。
にょんちゃんは、ウルを見つめて微笑みながら、ビスケットを一枚取ったのだった。




