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語られる秘密

「あ、今から話す事は、他言無用でお願いだにょん」


「良かろう。私は口が堅いのでね」


「じゃー……」


※ ※ ※


 白衣の男女が駆け回る。駆け巡る。

 幾つものベッドの上には、子供が横たわっていた。


「一、二、四に点滴を」


「六、八、十にはどうしますか?」


「食事を摂らせろ」


 歩く者。車椅子に乗る者。痩せ細った子供達が次々と移動していく。その子供達に元気はない。


「所長。九に反応が!」


「よし、頃合いだ」


 目隠しをされ、ひとりの子供が連れていかれる。

 白衣の者達は、その様子に淡々としていた。


「目隠しを」


「外すのですか?」


「大丈夫。この実験を乗り越えれば、君は卒業」


「卒業……帰れるの?」


「帰れるかは分からない。でも卒業」


「……うん……」


 目隠しを取られる子供。

 その子供を残し、白衣の者は立ち去っていく。

 真っ暗な空間に取り残され、不安に駆られる子供は泣いてしまう。その泣き声は反響して響く。その現象に更に声を上げる。


「うっ……うっ!?」


「ウウー」


「うっ!?」


 人ではない声。人ではない地響き。真っ暗な空間に居ても分かる程、子供の感覚は研ぎ澄まされていた。


「ウウー」


「な、なんなの!?」


【暗くて見えなければ、自分で明るくしてみせろ】


「所長? どこ?」


【別室から話し掛けている。その空間には九、君だけだ】


「出して!」


【出たければ成果を。君の存在価値を示せ】


「存在……価値」


「ウウー」


「出なくちゃ……出たいんだ!」


「ウウー!」


 一点が明るくなる。現れた姿に震え上がる。理屈など抜きに恐怖する。寒さを感じないのに鳥肌が立つ。


「化物!」


「ウウー!」


「うわあ!?」


 突進する化物。逃げ回る子供。それを追う化物。

 鼬ごっこな展開に戸惑う子供は、後ろを気にするあまり、足を取られて転んでしまう。

 痛みに泣き出す子供の背後から、化物はお構い無しに襲い掛かる。


「ああああ!?」


「ウウー」


 玉転がしをするかのように蹴っていく化物。

 宙に浮いては叩き付けられるの繰り返しに子供は、なすすべがなかった。そのうち泣く気力も無くなっていく。悲鳴を上げる気力も無い。


(……もう)


「ウウー!」


(……)


 意識が飛んだ。これまでよりも高く舞い、強く叩き付けられた。気を失っていた為、痛みを感じることはなかったが、子供の身体の方はダメージを負っていた。


「ウウー」


 子供の身体をくわえると、一気に噛み締める化物。赤い血が飛び散り、化物の体毛が赤く染まる。

 コロコロと転がる頭部。子供の身体は無惨にも食べられてしまった。化物の視界に、転がった頭部が入る。口に頭部をくわえた化物は、躊躇することなく飲み込んだ。文字通り、丸飲みだ。


「ウウー!?」


 苦しみだす化物。呼吸を荒げ、倒れこむ。

 化物の身体の一部が膨れ上がり、風船のように破裂した。破裂した身体から出てきたのは、化物に食べられた筈の子供だった。


「ウウ……」


「人間を食べて腹を壊した化物。笑い話にもならない」


「ウ……ウ」


「食べられた仕返しに、お前を食べてあげる。心臓なんかどうだろう? 身体に良さそう」


 化物の心臓に目掛けて拳を突き出す。ドクンドクンと動く心臓を両手で掴むと、力一杯引っ張った。

 心臓を潰した瞬間に吹き出た血を飲んでいく。子供の顔色が、血の気を取り戻す。


【九。生きているなら言葉を】


「生きているよ。早く出してよ」


【成果を示せ】


「成果ならもう、ある」


 扉が開かれ眩しく感じた子供は目を閉じた。そのまま所長のところまで連れていかれる。血の付いた身体を洗う為、シャワー室へと連れていかれる。


「君は幸運です。初めての生還者です」


「初めての? 今まで何人死んじゃったの?」


「五十人程ですよ」


「程? ちゃんとした人数は知らないの?」


「記録を見れば分かるかと」


「その記録には、年齢とか名前とか書いてあるの?」


「いいえ。性別と結果だけです。正確な名前も年齢も知らないから」


「何で?」


「君達は捨てられた子供。どこの誰の赤ん坊かも分からない君達を引き取った施設から数年後、所長が連れてきたの」


「何で施設の子供を?」


「施設の子なら躊躇しないからよ。だってそうでしょう? 施設は仕事で育てていたに過ぎないし、捨てられた子供相手に遠慮も要らないし」


「本当にそう思ってるの?」


「捨て子の分際で何を訊くのかしら。君達が今、こうして生きていられるのは、奇跡に近いのよ」


「お姉さんも思ってるの?」


「皆、思ってる。君達は捨て駒よ」


「捨て……駒!?」


 その瞬間、子供の頭は真っ白になった。

 何も考えず、何も感じず、ひたすらに本能の赴くままに行動する。シャワーの甲斐もなく再び、血を浴びていく子供。所長の前に現れた子供の目は、年相応の目ではなくなっていた。


「おや、シャワーを浴びろと言った筈だが?」


「所長。施設の子は、捨て駒ですか?」


「役に立てば違うだろうし、役に立たなければそうだろう」


「何の実験なの!」


「軍の為の……国の為の実験だ」


「そんなの望んでないよ!」


「我々は望んでいる。望まれぬ存在の君達を有効に使ってやっているんだ。望まれていることに感謝するべきだが」


「嘘だ! 望んでいるなら死なせない!」


「望まれるに価しないからだ」


 所長の目が鋭くなる。研究に追われているのか、痩せ細った顔が印象的だ。子供を睨むその目は、人を見る目ではなかった。


「うわあああ!!」


 喜怒哀楽をごちゃ混ぜにした感情が、子供を動かしていた。所長の息の根を止めると、亡骸を気の済むまで痛め続けていた。

 

 軍へと駆け寄った子供達は、研究所での一連の出来事を話した。直ぐ様、研究所に調査が入る。程なくして研究所は封鎖され、研究所の関係者は処刑された。


 研究所に居た子供達は、軍による精神鑑定ののち、里親へと引き取られた。


※ ※ ※


「これが世に言う、〈研究所の悲劇〉だにょん」


「十五年前の出来事だと聞いてはいたが、事件の内容までは知らなかった」


「そりゃそうだにょん、公表してないんだにょんから」


「何故しなかったのかね?」


「子供達を引き取った里親は全員、軍人なのだにょん。軍の事は、軍で収めろってやつだにょん」


「今の話と今回の件、何の関係があるのだね?」


「今回集まる大将達は皆、〈研究所の悲劇〉の子供達だった者だにょん」


「おいおい冗談はよさないか。あまりにも出来すぎだ」


「そう、出来すぎだにょん。出来すぎだにょん」


「どうかしたのかね?」


「ライドクン。にょんちゃんはね、知っているんだにょん。誰が研究を指示したのか……何の目的の研究だったのかを」


「何だったのかね」


「あの研究は、核師コアマスターを生み出す為の研究……人体実験だったんだにょん。そして、それを指示した人間は……」


 にょんちゃんの手が震え、その手で軍服を掴む。仮面で見えない為、表情は確認出来ない。


「……今の元帥だにょん!」


「何だって!?」


「それだけじゃないにょん。この国の習わし、〈精進の儀〉。これもまた、軍が核師コアマスターを見つける為に作ったものだったにょん」


「どういうことだね?」


「十歳から十三歳。この年齢が一番、コアを目覚めさせるに最適な年齢なんだにょん。〈精進の儀〉を通じて核師コアマスターになった者から、有望な人間、軍認を選ぶにょん」


「いくら軍が治める国といっても、何でもかんでも思い通りには!?」


「なるのだにょん。全ての決定権は、軍と国の長である元帥にあるにょん。その元帥は代々、一族で継がれていってるにょん」


「何が言いたいのかね!?」


「この国の全ては、一族の一存で決まっているという事にょん。そして、その一族に代々受け継がれている野望があるにょん。……戦争だにょん」


「戦争だと!? 〈精進の儀〉や軍認も、核師コアマスターという兵士を集める為の口実に過ぎんと言うのかね!」


「そうだにょん。そしてライドクン、君を流れ者にしたのは、にょんちゃんだにょん」


「君が?」


「ギルフォードクンの事を知らせたのも、君をカムールへと来させたのも」


「何の目的で!」


「ライドクンを救う為だにょん」


「どういう訳だね!」


「ギルフォードクンに一連の犯行をさせたのは、他ならぬ元帥だにょん。元帥は、〈研究所の悲劇〉の事も全て話した上で、ギルフォードクンに軍への怒りを植え付けた。軍認の核師コアマスターを殺させることで、軍認の洗い直しをする為に。言う事を聞けば、ライドクンを自由にするとでもそそのかしてにょん」


「私を救うとはどういう事だ!」


「次に狙われるのはライドクンだろうからにょん。君に〈研究所の悲劇〉を明かした上で、ギルフォードクンに指示をした人物をでっち上げ、ライドクンを第二のギルフォードクンに仕立てるとかにょん」


「……君は一体、何者なんだね」


 ライドの心境は複雑だった。自分がカムールに行く原因となった人物が目の前に居るのに、同時に自分を救うと言ってきたからだ。


「にょんちゃんに名前は無いにょん。里親が付けてくれた名前は、にょんちゃんには似合わないにょん」


「もしかして……君は!?」


「軍人大将のにょんちゃん、だにょん」


 仮面の前で人差し指を立てて、それ以上の追及も言及も拒否をした。ライドもそれを汲んだのだった。

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