理想への壁
翌日、キリナは朝一で列車に乗り込んでロイズへと向かった。司令部に着くなり、ライドの部屋へと向かったキリナだったが、ドアに付けられていた名前のプレートが外されていた。気になったキリナは、射撃場に居るアルンの元に行く。アルンはキリナを見るや、苦悶を顔に出した。
「……カムール……ですって!」
「そうなの。上層部からの圧力っぽい、きな臭い感じ。自分等に都合が悪いから遠ざけた感じ。腹の黒さが見えるよ」
「大尉はいつ?」
「あんたと入れ違いみたいなもん。昨日のうちに荷物は纏めていたみたいだけど。今のうちに部屋を見てきな。ライドのこった……なんか残してるんじゃない?」
「ありがとう、アルン!」
「へいへーい」
(伝言は伝えたよ、ライド)
※ ※ ※
「……大尉は何かを残しているのかしら? ……」
部屋に残されていたのは、元々の備品くらいだった。ライドの私物も残っておらず、キリナは肩を落とした。そのまま椅子に座り込む。ライドがいつも座っていた椅子に。
「こんなに広かったかしら」
広く感じる部屋を眺めながら天を仰いだ。天井には、煙草のヤニで変色していた箇所がチラホラと見受けられた。キリナは視線を戻す。ライドは窓を開け、外の景色を見ながらの一服を好んでいたのを思い出した。
「まあ。吸い殻を捨てていないじゃない」
デスクの上の灰皿は、吸い殻で一杯になっていた。溜め息を吐きつつ、灰皿に手を伸ばした。
「あら? この灰皿、違うわね」
部屋にひとつ備え付けられている灰皿をライドは使っていないことを知っている為、キリナは違和感を覚えた。その灰皿は、この部屋の備品だったからだ。
「まさか」
キリナは、ライドが備品の灰皿をしまっていた引き出しを開ける。一見すると空だったが、キリナは注意深く探った。違和感を感じたキリナが、それを引っ張る。ライドが吸っている煙草の箱だった。
「ん?」
普通なら、そのまま捨てられる空箱だ。しかし、キリナは箱を開けた。中には一枚の紙があった。折られた紙を開いたキリナは息を呑んだ。
『君はロイズに残り、私の指揮に従ってほしい。またこの事は、私の隊の者以外の、内部の人間には他言無用で頼む。アルンには特例で伝えてあるので安心してくれ。良いか、ライド隊とアルン以外の軍人を信じるな! 以上』
「大尉……はい」
キリナは、その紙を胸に忍ばせると、部屋を出て吸い殻を捨てた。司令部を右往左往する軍人達。仲間を疑うのは苦しいが、それ以上にライドに対する信頼が強かった。
(あの街……リイムの大将の件もある。上層部への報告は、よしたほうが良さそうだわ)
「キリナ」
「アルン、どうしたの?」
「ロンド司令部で公開処刑があるみたい。リイム司令部から、連れ込まれたみたいだね」
「リイム!?」
心当たりは一つだけだった。ギルの処刑が行われるのだと直ぐに察した。
「行くの? キリナ」
「いえ。ワタシには、そこまでの野次馬根性なんてないもの」
※ ※ ※
「何だ……これ!?」
ウルの左目に、銃を構える兵の姿が映った。




