天の輝き
その日の夜。ウルは、ギルから渡された左目に悩まされていた。痛みと違和感に襲われていたのだ。
「ウル!?」
「へっ、へへぇー! こんぐらいの痛み……堪えてやるって!」
「我慢も大概にしないと、取り返しのつかないことになっちゃうよ」
ティタは氷でウルの左目を冷やす。痛みと違和感が和らいでいくのをウルは実感した。
「君の目じゃないんだ。多少の事は覚悟しとかないといけない」
「そういうお前はどうなんだ? 随分と急場な仕込みだったろ、左腕」
「異常なしだ。寧ろ、本来の腕よりも調子がいい気がするくらいさ」
「そいつはよかったな」
ウルは、自分が見た〝頭〟のことを話せずにいた。正直話すことを躊躇っていた。話してしまえば、また暗い空気へと変わってしまうだろうから。
「キリナさん。今回の件はどうなるんです?」
「これ以上の関与は難しいわね。完全に情報を渡す気など無いみたいだから。何度か、街の司令部に問い合わせたのだけれど、『箝口令だ』の一点張り」
「公開されずに片付けられて終いか。負傷した兵が居たことも、犠牲者が出たことも丸め込む気だな」
「街の人達の心情なんて知らないってこと!」
「そうなる。とてもじゃないが、この街の事など微塵も感じていないだろう」
「……ロイズの軍とは段違いだって!」
拳を叩き付けて怒りを露にするウル。そんな様子に堪えかねたのか、家の主が声を掛けてきた。
「お腹が空いた筈だ。そろそろ食事といこうじゃないか」
「お食事までお世話になる訳には!?」
「軍人さんだって空腹には敵わんだろう。食えるときに食っとかないと、いざってときにへっぴり腰だね」
「お姉ちゃん、食べよう!」
「……そうね。お言葉に甘えちゃおうかしら」
※ ※ ※
「食ったぁーって!」
「銃で撃たれた奴の食欲じゃないぞ?」
「予想に反して美味かった」
満腹のウルのお腹が膨れている。五回もお代わりをした挙げ句、残ったパンすらも平らげたのだ。
「そんなにあたしのシチューが気に入ったかい」
「うん。何度食べても飽きないって」
「そうかいそうかい。そいつは良かった。作った甲斐があったってもんだよ」
「お姉ちゃんも料理が得意なのだよ?」
「メ、メル!?」
「おっ? 軍人さん、そうなのかい」
「とても人様に出せるような腕ではありません!」
「そう? ボク、お姉ちゃんが作るシチュー、好きなのだよ」
「キリナさんのシチュー、私も食べてみたいです!」
メルとティタに板挟みにされて恐縮するキリナ。それを聞いていたウルの腹の虫が、グ~っと鳴った。
「君という奴は……」
「だ、黙れって」
「よし! お腹も満たされたようだし、ちょいと夜空でも見ようじゃないか」
「何で? 夜空なんかいつでも見れるって」
「この街の名物なのさ。よく空気が澄んでいるから、綺麗に星が見えるって訳だい」
「へぇー。まあ、たまには星を見上げるのも悪くないか」
※ ※ ※
「こんな街中で、こんなに綺麗な星が見えるだなんて!」
「綺麗なのだよ!」
ティタとメルが、夜空を見上げながら感動している。澄んだ空気が心地よく、今日の疲れを吹き飛ばしていく。
「皆。ワタシは一度、ロイズに戻るわ。大尉に伝えておかないといけないから。一応、他の上層部にも」
「お別れなの?」
「そんな顔しないの。ちゃんと戻ってくるわ。もう! 皆が一緒に居るんだから……ね?」
キリナの、メルに見せる顔はまさしく姉の顔だった。夜空に輝く星に暫く、ウル達は目を輝かせていたのだった。




