メイル:助太刀
「すっかり夜になってしまったか」
「長時間座りっぱなしっていうのも疲れるのだよ~」
列車を乗り継いで、メイルとメルが目的地へと到着した。メルが眠い目を擦っている。
「とりあえず、宿を取ろう。前に来たときに泊まったホテルにしよう」
「お師匠さん、ここに居ると良いけどね」
「それは明日でも構わんだろう。今は身体を休めないと」
メイルは、以前泊まったホテルを見つけると、チェックインを済ませてベッドに身体を預けた。一気に睡魔に襲われていく。
「メイル、寝ちゃ駄目なのだよ! シャワー浴びないと」
「……そうだった……」
寝かけたメイルを無理矢理起こして誘導するメル。お湯を出して温度を確認する。
「大丈夫なのだよ、メイル」
「おう」
眠気と戦いながら服を脱ぎだすが、そこでメイルは重大な事に気が付いた。
「どうしたのだ?」
「……何で、僕とメルが一緒の部屋に居るんだ!?」
「部屋を一つしか取ってないからなのだよ。一つしか空いてなかったから」
「そういえばそうだった。僕の方が寝惚けていたか」
「ベッドだって一つだけなのに、メイルが受付の人にウンウン頷いてたのだよ?」
「し、しまった!?」
自分の落ち度を反省するメイルだが、今更宿泊を取り消す訳にもいかなかった。とりあえず、シャワーを浴びようと服を脱ごうとするが、視線を感じて脱げないでいた。
「いくらなんでも、人前で全裸になるほど寝惚けていないぞ。向こうに行ってくれないか」
「ボクは構わないのだよ?」
「僕は構わなくないぞ」
メイルに言われて渋々離れるメル。シャワーのお湯が、疲れたメイルの身体を解きほぐす。油断をしていると、そのまま寝てしまいそうだ。
(この街の夜は不気味だ。ショウの死亡推定時刻からして夜だったのは間違いない。〝左目〟は、こんな夜更けにも行動しているということになる。〝左目〟と遭遇するにはうってつけだろうが、無闇に出歩くのは控えた方が良さそうだ)
シャワーを止めて、濡れた身体を拭いていく。丁寧に畳まれた寝間着に袖を通して、髪を拭きながらメルの元に戻った。メルは本を読んでいた。メイルが上がったのも気付いていないようだ。
(全く。不用心にも程がある)
仕方なくメイルもベッドに腰掛けた。ベッドの揺れでようやくメイルに気付いた。慌てて本を閉じる。メルの慌てっぷりが不思議でしょうがないメイルだったが、敢えて追及はしなかった。
「凄い集中力だ。本が好きだとは知らなかった。寝間着出してくれてありがとう」
「メイルのサイズが有って良かったのだよ。……ボク、シャワー浴びてくるね」
シャワー室に向かったメル。ポンと置かれた本を何気なくメイルは捲っていく。どうやら、恋愛小説らしい。メイルは気になる一文を見つけた。丁度メルがしおりを挟んだ箇所だった。
「まさか……メルの様子がおかしかったのは……!?」
小説の一文には、『寝床を共にする男女。愛する二人は抱き合って眠りに就いた』とあった。もし、この一文を真に受けてしまっていたとしたら、メルの様子のことも説明がつく。偶然にも、寝床のベッドが一つだけなのも拍車を掛けているのだろう。
「僕達はまだ子供だぞ。この小説のターゲットは、僕らよりも上の筈だ。それを理解してないな?」
シャワーが止まる音を確認したメイルは、本を素早く片付ける。腰掛けて乱れたシーツを正すと、椅子に座って伸びをした。
「メイル、髪を乾かしてほしいのだよ」
「分かった。座って」
メルを椅子に座らせ、メイルはドライヤーを片手に櫛を通していく。濡れた髪に櫛を通すのは容易く、ドライヤーの温風が髪を乾かすのもあっという間だった。
「メイルは、髪を乾かすのが上手いのだよ。ボクが自分でするよりも早いし」
「慣れれば簡単だぞ? 一人でも出来るようになる」
「メイルがやってくれるから、無理して慣れる必要もないかも」
「甘え上手というものか?」
「……かも、なのだよ」
メルは、そのままベッドにダイブする。折角直したシーツがしわくちゃになる光景にメイルは苦笑した。
「しっかり掛けるんだぞ。風邪を引きかねないからな」
「……メイルも一緒に寝るのだよ」
「そのベッドはシングルだ。一人で寝るのが最適なんだ。僕なら椅子の背凭れにでも寄り掛かれば寝れる」
「……メイルが可哀想なのだよ」
「僕のことなら気にしなくていい」
「……今日だけ、ね?」
メイルに背を向けていたメルが、振り返って訴えてくる。シャワーを浴びたことで火照ったからなのか、頬がほんのり赤くなっていた。メルの円らな瞳に吸い込まれるように、メイルがメルの隣で横になった。
「メイル」
メイルの腰に腕を回すと、そのまま背中に顔を埋める。メルの吐息を背中で感じているメイルは、心臓の高鳴りを抑えきれないでいた。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!! こんなのとても堪えきれんぞ!?)
「……ー」
メルの吐息が寝息に変わっていた。それでも、腰に回された腕はなかなか外れないでいた。仕方なく、メイルはそのまま瞼を閉じた。その後、メイルも寝息を立てていた。睡魔とベッドが、メイルに助太刀したのかもしれない。二人は起きるまで、そのままの状態であった。




