メイル:一目惚れ
メイルとメルは、鍛冶屋が沢山集まる街・ファロンへと到着していた。大小様々な剣や槍、鉄鍋などが店を彩っていた。あまりの店舗数の多さに、メイルはキョロキョロとしている。一方、メルはというと、芸術品のように陳列されている包丁に夢中になっていた。
「鉄製のドッシリ感もいいけれど、こっちのステンレス製の軽いのも捨てがたいのだよ」
「料理出来るのか?」
「やらざるを得なかったのだよ。ママとパパは離婚しちゃってて、お姉ちゃんは家を出ちゃったし」
「わ、悪かった!? 余計な事を訊いちゃったみたいだ」
「気にしないでいいのだよ。ボクが、物心付く前に別れたみたいだから。ママの顔、覚えてないのだよ。お姉ちゃんは、お仕事で家を出たんだけどね」
「そうだったのか……ホントに済まなかった」
「もう! メイルは反省しすぎなのだよ。それよりもメイル、どっちが良いと思う?」
包丁を差し出し意見を求めるメル。どうして自分に選ばせるのか疑問が湧いたメイルは、率直に訊いてみた。メルは少々照れながら、『だってメイルは、ボクの未来の旦那様なのだよ?』と答えた。以前ならスルーしていた言葉だったが、今はそれをスルーすることが出来なかった為、メイルは顔を赤らめてしまった。
「へぇ~。最近の子供は進んでるねぇ! しかも変に隠そうとしないときた! その心意気、気に入った! 嬢ちゃん、その包丁、おじさんからのプレゼントとして持って行きなぁ! 砥石もあげちゃうからなぁ!」
「でも、この包丁……一生懸命おじさんが打ったんでしょ? 流石に悪いのだよ」
「いいんだ。懸命に打ったからこそ、大事に使ってくれる人の手に渡ってほしいのさ。こうやって直接、謂わば自分の子供を嫁がせることが出来るのは、職人として凄く嬉しいんだ。嬢ちゃん、おじさんの子を宜しく頼むねぇ!」
「うん! 大事にするのだよ!」
うして、二本の包丁が十歳の少女に貰われていった。幸せそうに、包まれた包丁を抱えるメル。メイルが持つと言ったのだが、メルは自分で持つと譲らなかった。
「メイル。目ぼしい物は有った?」
「うーん。何でかピンとこなくてさ。こういうのって出会いが肝心と聞く。そういう意味でピンとこないんだ」
各店を彩る品々が充分に素晴らしいことは、メイル自身感じていた。しかし、惹かれる物はなかなか見つけられなかった。
「ボク、メイルが望めば応えてくれると思うのだよ。見つけるんじゃなくて、感じればいいんじゃない?」
メルからの突拍子もない提案だったが、メイルはなんとなく信じてみることにした。目を閉じて全身の力を抜いてみる。耳に届く鍛冶屋の声。品定めをしているお客の声。そんな声に混じって、不思議な声がメイルに聞こえてきた。
《来て》
(今のは?)
声のする方向に歩いていくメイル。辿り着いた先は、小さな金物屋だった。調理器具は売られているものの、武具の類いは売っていない。
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「お婆さん。ここは剣を売っていますか?」
「売ってないよ。昔は鍛冶屋として腕を鳴らしていたが、今は趣味で集めた金物を扱っているに過ぎないよ」
「……そう……です、か」
「銀髪の。何故来たんじゃ?」
「聞こえたんで……声が」
「成る程。そういうことかの」
「え?」
「売ってはいないが、置いてはあっての。気に入るかは知らんが……ほれ!」
店の奥からお婆さんが持ってきた、一本の剣。鏡のようにメイルを映す刃は、丁寧に作り込まれているのが一目瞭然であった。それを見たメイルの目の色が、あっという間に変わった。
「これだ!」
「でもメイル。それ、売り物じゃないのだよ?」
「欲しいなら、くれてやるよ。年寄りには過ぎたものだ。持っていき」
「いくらなんでも流石にタダって訳には!?」
「声を聞いたと言っていたろ? それで充分だよ」
「ありがとうございます! 大事にします!」
背中に背負い込んでみせるメイル。メルは目を輝かせて拍手をしている。
「格好いいのだよ!」
「そうか?」
メイルとメル、それぞれが大きい収穫を得た。ファロンという街の人情に触れたことで、一層の想いが籠った物になった筈だ。そんな二人の背中を見送るお婆さんの目には、若い男女の姿が重なって見えていた。
「可愛い子には旅をさせよ、だろ? お爺さんや」
メイルの背中の剣が、お婆さんに何かを言うかのように、一瞬輝いたような気がした。




