メイル:緊張
メイルは困っていた。今、目の前で繰り広げられている父娘の言い争いを、どう収束させようかと考えていた。
「パパには関係ないのだよ。ボクの想いは、ボクのものだよ!」
「パパは認めない。ぜーったい認めない。十歳で色恋だなんて認めない!」
両者互いに譲らない平行線。とてもメイルが口を挟める隙はなかった。
「ボクは、旅を続けるのだよ! ボクの旅に口出しは無用なのだよ!」
「〈精進の儀〉だから、そこは仕方ない……が、異性と旅をするのは認めない」
「……あの……えーっと」
無理矢理会話に入ったメイル。メルの父親は相変わらずメイルを鋭い目付きで見る。なんとかそれを耐えながら、メイルはメルに提案した。メルは納得していない。
「メイルはボクが嫌いなの!?」
「そういう問題じゃないぞ。我が子を大事に思うのは、親にとって当たり前だ。ここはひとつ、僕とは離れて旅を続けるんだ。まずはひとつ、心配事を減らしてあげるんだ」
「ボクはメイルと離れたくないのだよ。メイルと会えていなきゃ、ボクはリリッシュにも着けずに挫けていたのだよ」
「だからだ。だからまずは、君が一人でも立派に旅が出来ることを証明するんだ」
メイルの眼差しが、メルの心に突き刺さる。メイルの言っていることは充分に理解できる。理解はできるが、〝想い〟が決断を鈍らせる。メルは、メイルの身体に飛び付いた。驚くメイルだったが、拒絶をすることはなかった。頭を撫でてゆっくりと剥がす。泣いているメルの涙を拭って、にっこりと微笑んでみせた。
「メルのお父さん。僕、彼女とはここで別れます。だけどお願いです、彼女と会うことを許可してください。彼女の気持ちは承知してますが、僕にとっては、まだ友達です。友達と会うのは許してほしいんです。お願いします!」
頭を下げたメイル。人に頭を下げるのは、旅を始めて二度目だ。最初は自分の為だったが、今回は他人の為である。それを見たメルの父親は、『分かった』と了承した。メイルは深い溜め息を吐いて座った。
※ ※ ※
「それでは気を付けて。無事を祈る」
メルの父親がメルを見送る。そこにメイルの姿はなかった。メイルとは少し前に別れたのだ。
(……メイル……メイル……)
メルの心は、恋心一色だった。メイルのことを考えまいと思えば思う程、その想いは強くなってしまう。
ポツリポツリと涙を流して立ち止まる。大粒の涙が地面を濡らす。彼女の視界は涙で閉ざされた。
(ボクは……こんな気持ち……初めてだったのだよ!)
十歳の初恋。その初恋は実らず埋もれた。芽吹くことを許されなかった種は、芽吹くことを諦めた。種は種のまま、想いを封じ込めて埋まることに決めたのだ。
(バイバイ。ボクの恋)
「オーイ? さっきから呼んでいるんだぞ」
「え!?」
木に凭れかかり呼ぶ少年。金髪の少女の初恋の相手が、目の前で待ち構えていた。
「待ちくたびれたぞ。僕をいつまで待たせる気だったんだい?」
「ど……して?」
「友達と会うのは許してもらえたろう? 僕はそれを守ったまで」
「最後のお見送りのつもりなの?」
「何を言ってるんだか。ほれ、行くぞ」
「え、でも!?」
「いつまでも追っては来ないさ。あの場は、ああでも言わないと収まらなかった。それじゃ不満か?」
「ボク、メイルと一緒に居たい! 居たいのだよ!」
メイルに駆け寄り抱き付くメル。メイルは案の定照れている。そんなメイルの頬に柔らかい感触が伝わった。
「君は何を!?」
耳まで赤くなるメイルをよそに、メルはとびっきりの笑顔を見せた。




