ウル・ティタ:力の使い道
翌朝。ティタは、当たり前のようにウルの部屋に入っていくと、ウルの耳をつねる。深い寝息を立てている為、なかなかウルは起きないでいた。
「ウル!」
耳元で叫ぶティタ。身体を揺らして目覚めを促すが、ウルはびくともしなかった。こんなことは、ティタにとっては日常茶飯事なのだろう。ウルのシャツを捲し上げると、へその辺りを擽り始めた。
「う……ううううぅぅ……ははは! やめろぉーって」
「起きるまで止めないよ。観念することよ!」
擽る指の速度を速める。ウルが目に涙を溜めている。その様子を見て、ようやくティタは擽りを止めた。
「おはようウル。私が起こしに来なかったら、一体何時まで寝てたのかな?」
「……なんじ?……」
「九時。ここまで寝かせてあげたんだよ、感謝してよ。さ、起きた起きた!」
ウルの背中を叩いて気合いを入れるティタ。ウルの方も、なんだか慣れているようだ。顔を洗いに起き出すウルを確認すると、ティタは自分の部屋から荷物を運び出した。
「で、どうするよ? もう少しロイズを見ていく?」
「いや、もういいだろ。ギルの動向が気になってしょうがない。先に進もう」
すっかり目を覚ましたウルは、テキパキと支度を始める。寝起きのときとは別人のようだ。とはいってもこれといって荷物はない。
「何か必要な物ってないの? いくらなんでも、荷物を持たなすぎだよ」
「必要な物はお前が持ってるから要らない。じゃあ行こう」
二人はホテルをあとにした。ロイズの次の行き先を考えていると、ティタの視界に、ある女性が入ってきた。
「あ! 昨日の軍人さん」
走り出すティタだったが、女性の真剣な表情から物事を察して距離を取った。女性と相対する男は、老婆を人質にして抵抗している。
「このババアを殺されたくなけりゃ、今すぐに車と金を用意しろ! ヘタな真似をしてみろ……このババアの首をへし折るぜ?」
男は腕を老婆の首に回している。少しでも力を入れれば確実に折ってしまうだろう。現場に緊張感が漂う。
「軍の司令部があるロイズで犯行だなんて、なかなかに根性あるようね。ワタシを見ても動揺していないもの」
「軍人なんか見慣れちまった。恐くもなんともないぜ。さっ、早く用意しろ!」
男の腕に力が入る。女性は、司令部に要求内容を伝えると腰にぶら下げていた銃を捨てた。
「これでワタシは丸腰よ。良かったわね」
「上出来だ。それでいい」
均衡したまま、時間だけが過ぎていく。そんな緊張感を車のエンジン音が解いていった。軍が用意した車が現場に到着した。男は老婆を突き放すと、一目散に車へと乗り込んだ。アクセルを踏んで走り出す。男の勝ち誇った声が、車から聞こえてきた。
「軍人さん!? あのままじゃ」
「大丈夫よ、ティタちゃん。ワタシ達は、犯人の要求を呑んだけど、逃がすつもりはないから」
「え?」
※ ※ ※
「さああて。これから豪遊し放題だぜ!」
「そうか。豪遊とは楽しみだ」
「そうだろう……え!?」
後部座席から聞こえる声。余裕と自信を感じさせるその声は、運転席で勝ち誇っていた男に、追い討ちを掛けるには十分だった。
「出血大サービスに、車と金を要求記念として軍人を付けてあげた。ボディーガードにはうってつけの筈だが……お気に召したかい?」
男の心境は最悪だった。天国から地獄とはこのことだろう。車はよろけながら、壁に追突して停まった。
車から降りて走り出す男。後部座席から降りた軍人は、持っていた煙草を取りだし、逃げる男に投げていく。
「私の貴重な煙草の数だけ、罪人は罪を償わなければならない。思い知るがいい!」
軍人から、一筋の稲妻が先走った。煙草が激しく燃え、男に雨のように降りかかった。『熱い!』と叫ぶ男だったが、当の軍人は、退屈そうに煙草に火を着けて吹かしていた。
※ ※ ※
「少尉。済まないが煙草をくれないか」
「駄目です。犯人確保に使った分を差し引いても、本数が減ってます。喫煙数が明らかに増えてますよ」
「私の楽しみを奪わないでくれ」
「『煙草の吸いすぎで上官が死んだ』と報告は出来ません。我慢してください」
キリナの鋭い眼光が、ライドにそれ以上の発言をさせなかった。
「キリナさん、かっこよかったよ」
「あら。ティタちゃんは誉め上手なのかしら?」
「……ライド煙草ダメダメ軍人さん。えーと……」
「少年。私は、ライド大尉だ。ダメダメ軍人ではない!」
(煙草の否定はなしかって!?)
「……で、言いかけていたが?」
「……大尉はその……核、使えるの?」
「さっきの私の活躍の通りだ。私は、稲妻を自由に発電させることが出来る。それがどうかしたかい?」
「俺、核を使いたいんだ。コツを教えてほしいんだって!」
「〈精進の儀〉の最中だそうだが、急ぎはないのか?」
「俺が核を使いたいのにも理由がある。理由を話すから!」
ウルの目が、ライドの目をしっかりと捉えて離れない。『良かろう』と一言伝えると、ライドはウルに付いてくるよう促した。




