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ウル・ティタ:子供の暴走

 メイルと別れたウルとティタは、列車に乗って移動していた。


「ふわあ~!」


「ちゃんとしなさいよ。アンタ、いい加減朝弱いの直したらどうよ」


「眠いもんは眠いって。俺の朝の苦手っぷり、舐めちゃ駄目だ」


「誇るな。毎朝、私が起こしてあげなきゃ本当にいつまでも寝てるんだから」


「今日も起こしてもらって助かった」


「感謝されるのは嬉しいけど、それとこれとは話は別よ。はい、シャキッと目を覚ましなよ」


 ティタはウルに水を差し出した。ウルは水を受け取ると、ガブガブと飲んでいく。


「この水、美味いな。何でだ?」


「知らないよ。ウルって普段からあまり水を飲まないからじゃない」


「そう言われれば炭酸水ばっかだな」


「毎日、コップ一杯は水を飲みなさいよ。身体にもいいんだから」


「考えとくって」


「で、どこで降りるかは決めたわけ?」


「いーや? ティタが決めてくれって」


「そうやって人任せにする! 自分で決めなさいよ」


「決められないから言ってんだって」


「変なところで優柔不断なんだから!」


 ティタの説教を聞き流しつつ、ウルは景色を眺める。車窓から覗く景色は、一つの絵のように鮮やかであった。


「聞いてるの!」


「聞いてるよ。話は済んだか?」


「もう!」


 頬を膨らませて拗ねるティタ。ウルはティタが膨らませた頬を突いて遊んでいる。ティタは、そんなウルの行動に顔を染めてしまった。


「顔赤いけど……どうした?」


「知らないよ!?」


 二人を乗せた列車が停車した。『降りる?』とティタが訊いて、ウルは『いいや』と返事をする。


※ ※ ※


「くぅ~……」


 幾つもの駅を乗り過ごし、ティタは座っているのが退屈になってきた。ふと、隣のウルを見れば、当のウルは寝ている為に話せない。景色は変わるものの、大きく変化があるわけでもなく次第に飽きてきた。


「お爺さん、食べますか?」


「ありがとう、婆さん。食べるよ」


 通路を挟んで座っている老夫婦。ティタはなんだか羨ましくあった。お爺さんの姿とショウの姿を重ねるティタ。自分にもっと力があったなら、もしかしたらショウを死なせずに済んだかもしれないという思いが湧き上がる。


(このままじゃ、私だって死んじゃうかもしれない。〝左目〟に勝つ自信なんかない)


「食えないって……むにゃむにゃ……」


(呑気に眠っちゃって……。どんな夢を見てるのか知らないけど、幸せねアンタは)


 コツンとウルの頬を突くティタの表情は、ウルを羨ましがりながらも、どこか嬉しそうであった。


「オンボロ列車だ!」


「壊しがいがあるね」


 二人の少年が列車に乗り込んできた。とても態度が良いとは言えず、空いてる席に座るなり大声で話し出す。


(なんなのよ、あれ!)


 ティタも不快感を覚える。二人の少年は、持っていた飲み物を周りの乗客に掛け始めた。その乗客の中には、あの老夫婦もいた。掛けられた乗客が注意をするが、二人の少年は聞く耳を持たない。それどころか、段々とエスカレートしていく。


「アハッハッハ!! 窓割れた。流石はオンボロ列車、壊れるさまもオンボロだ!!」


「見て見て見て。壁も簡単に壊れるね」


「これこれ、止めんか。列車にイタズラにしてはやりすぎだよ。その辺にしときなさい」


「お爺さんの言う通りだ。元気なのは良いことだが、それとこれとは事が違う。止めてはくれないか」


「うっせーんだ老害! 長生きだけが誇りの逝き遅れ!」


「そうだそうだそうだ。さっさと灰になっちゃってね」


 二人の少年の暴言に、車内は怒りに満ちていた。それはティタも例外ではなく、ティタの我慢の限界がやってきた。


「ちょっとアンタ達!! オジサン、オバサンに失礼じゃない!! 謝りなさいよ!!」


「はあ? 誰だよオマエ。喧嘩売ってんのか?」


「謝りなさいって言ってるのよ!!」


 ティタの言葉に目くじらを立てる少年。立ち上がり、ティタの席へと来るや、いきなりティタを殴り倒した。


「このフウマ様に喧嘩を売るなんて生意気なんだ。ふーん、よく見ればカワイイ顔してるじゃないか。このフウマ様の彼女にしてやってもいい」


 ギリギリと、ティタの顔を踏みつけながら笑っている。お爺さんが止めに入るが、逆にフウマの拳を食ってしまった。気を失ったお爺さんを心配するお婆さんだったが、もう一人の少年の手で気を失った。


(なんてこと!?)


「ライ。手始めにその老害殺せ。見せしめにしてやる」


「うんうんうん。〈精進の義〉として殺しちゃお」


(〈精進の義〉!? ……コイツらも十歳)


 ライが、持っていた硬貨を刃物に変えてお爺さんに突き刺した。ほかの乗客が止めに行くが、刃物になった硬貨が飛んでいき刺していく。


「動いたら殺す殺す殺す。ま、全員殺すけどね」


「よくやった、ライ。ふふふ、このフウマ様に見逃してほしければ、……!?」


 フウマの腹部に激痛が走る。真っ直ぐ伸びた石ころは、フウマの脇腹を刺していた。


「私も核師コアマスターよ。そのくらいの傷なら、掠り傷と大差無いよ」


「カワイイ顔してえげつない。ますます、このフウマ様の好みだ」


「キモい! 私の中では対象外よ。残念だった?」


「……いや? ……〝欲しくなった〟」


 ティタの顔に手を掛け、フウマは顔を近付けていく。ティタにとって地獄の瞬間である。石を深く刺していくが、フウマの顔色は変わらない。


(何で!?)


 ティタは視線を落とす。フウマの脇腹に刺さっていた石ころは、無惨にも砕けていた。


「残念だった? 生成……創成と破壊は表と裏だ。作れるんだから、壊せるのは当然だ」


 ライの攻撃に狼狽えて乗客は動けずにいた。そして、フウマの唇がティタの唇に迫っていた。力負けして抵抗できないティタの目には、悔し涙が溢れていた。


(こんな奴に! こんな奴に私は……)


 諦めかけていたティタの身体が後ろに引き寄せられる。ティタに迫っていた筈のフウマが、鼻を押さえて睨んでいる。優しくティタの涙を拭った温かい手に、ティタは安心した。


「俺の幼馴染みを泣かせたのはテメエか? 自分のことを様付けで呼ぶ奴が、女の子の一人も喜ばせられないとは情けないって」


「……よくも……このフウマ様の鼻を!!」


「知るかって。自分勝手も大概にしろ、お子さま野郎が! ティタを泣かせたんだ……許さねえ!」


 ウルは拳をボキボキと鳴らし始めた。寝起きの彼は、随分と機嫌が悪いのだ。

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