目覚めのとき
呼吸を荒げ、汗を流し、自分の身体を痛め付け……。ウルの修業の仕方は荒業以外のなにものでもなかった。
「まだだ! まだだぁー!」
雨があがった昼下がり。ジメッとする空気が肌にまとわりついて、ウルの体力を奪っていく。
「教えようとしたらアノ様だ。やけくそにやっても効果はないのにね」
「ダイ。僕も核を早く目覚めさせたい。修業をつけてくれ」
「それじゃあ、また小走りかね? 焦ったところで上手くはいかない」
「結局そうなるか。仕方あるまい」
メイルも走り出す。ゆっくりと時間を掛けて……。
そんな二人を見ていたティタは、手当たり次第、石を槍にしていた。
「ショウさんの物とは比べ物にならないよ。私のじゃ、ショウさんの足元にも及ばない」
「昨日の今日でその出来だ。物凄い進歩だ。誇っていい」
「ありがとう。ダイも自信持ちなよ? ショウさんの弟子同士、師匠の意思を継いでいかないと」
(……師匠の意思……か)
自分に足りないものは何なのか? 必要なものは何なのか? 雨の間、ずっとダイは考えていた。
十歳という幼い人生経験では分からないでいた。
それはそうだ。大の大人ですら、死ぬまで何かを追い求め、自分なりの答えを出すのだから。
※ ※ ※
「こんのぉー!」
「君には負けないぞ!」
いつの間にか、ウルとメイルとの、意地の張り合いになっていた。ティタが試したように目を閉じ、両手を合わせて。起きる金縛りを気合いではね除けた辺り、流石は男の子である。気付けば夜、この日一日を修業で費やしていた。
「いい加減にしろ~。根を詰めても意味ない」
「そうよ! 二人共、ご飯にするよ!」
「……だそうだぞ! 早く行くんだ。ティタが呼んでいるではないか。フフっ」
「……テメエこそ、お先にだ。俺はテメエのあとでいい。譲ってやるって」
一歩も退かない二人。そんな二人に呆れたのか、ティタとダイは、その場を離れてしまった。ウルとメイルが戻ってきたのは、それから三十分後だった。
※ ※ ※
「これが、僕の核!?」
朝、メイルの左目に変化があった。〝左目を閉じた男〟と同じ金色の瞳。核の一つ、瞳術である。
「俺の弟子が瞳術に目覚めるとはな……。これも何かの因果か」
「瞳術を極めれば、〝左目〟と同等の力を得れるのか?」
「そいつは分からない。その前に難関が待っているしな」
「難関だと?」
「瞳術は、使う度に視力を削るらしい。そういうのも含めて瞳術は厄介なんだ」
「成る程……上等さ。僕にも覚悟はある! 〝左目〟を倒す為なら!」
「ちぇー。何でメイルの奴が目覚めて、一緒に修業してた俺には変化ないんだって!」
「個人差だ。修業を怠らなければ、ウルも必ず目覚める筈だ。焦るなよ」
「じ、焦らしやがって」
「ねえ、これからどうするの? 〝左目〟の行方を追うとしても、何にも手掛かりはないよ」
「俺は暫くこの街に留まる。師匠を最期まで見送りたいからね」
「僕は行くさ。とにかく進む。色々と修業になるだろう」
「ウルは?」
「列車に揺られながら考える。気の向くままってやつ」
「ウル、私も一緒にいい? 核使いが一緒の方が都合いいはずだよ」
「あんだけ別行動に拘ってたくせにか? 構いはしないがな」
「決まりだよ」
こうして、四人は動き出した。ダイは留まり、メイルは先を歩く。ウルとティタは列車に揺られて……。
一人の老人の死を胸に。




