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産まれた!

知らぬ間に美と舞の出産予定日が来週に迫っていた。

そして、予定日が近付くに比例して魅花のお腹は随分と大きくなっていた。


「今日の晩ごはん、何するっ?」


昼下がりのお昼休み、会社の中で携帯を確認するとそんなメールが入っていた。


「今週ぐらいはゆっくりしてないと、少なくとも今週は予定日なんだし。会社の帰りに何か買ってくるから、魅花はゆっくりしてて。今日も早く上がらせてもらうから」


「は~い♪」


数分後に返事が帰ってきた。

肩の力を抜き、寒い季節には助かる熱いコーヒーを息で冷ましながら飲む。

デスクの上に立ててある、前に徹から貰った写真立てを見つめる。この前ショッピングモールに行った際、夜のイルミネーションが綺麗だった為、二人して綺麗なイルミネーションをバックにキスシーンの写真を撮った。そしてその写真をこうして写真立てに立てている。


この写真立ては、まだ余白が空いている。

勿論、この余白の部分は美と舞の写真を入れるスペース。

あと一週間。あと一週間で産まれる。そう思うと、頑張れた。

ただ、いずれ産まれてくる予定の三女のスペースが無い。でもそれはそれで直ぐに買い足す予定だ。


それから数時間後、家へ帰宅する。

途中、弁当屋で魅花と自分の分の弁当を買う。


「ただいま」


「お帰り。おっ、弁当! 今作業してたから、それ片付けたら食べよ」


魅花の言う作業とは、簡単な内職の事。あと裁縫も。

自分も身支度を終えた後、魅花の作業の片付けを手伝う。

そしてテーブルの上に、袋から弁当を取り出す。自分は豚汁と唐揚げ弁当。魅花は鮭等といった魚が数種類入った弁当。出来立てなので、透明のカバーを外すと湯気が立った。


「じゃ、手合わせて」


「「いただきます」」


テレビではバラエティー番組が部屋の雰囲気を明るくしてくれていた。

勿論、自分と魅花も、他愛もない話で盛り上がっている。

何処にでもありそうなアパートの、何処にでもいそうな男女の、何処にでもありふれていそうな会話。そんな光景が、今。静かな一時がゆっくりと流れていた。


唐揚げをかぶりつく。

何気無く、向かいに座る魅花を見た。

魅花はまだ此方の視線に気付いていなく、テレビの方を見ていた。暫くして、魅花が此方の目線に気付く。


「ん? どうしたの?」


「なんでもない。……その避けてる梅干し、食べて良い?」


「良いよ。ていうか、いつもパパが梅干し食べてるじゃん」


魅花が自分の弁当に梅干しを箸で渡す。

魅花が体を持ち上げた瞬間、呻き声が部屋に響いた。


「陣痛だ!!」即座に自分はそう判断した。

箸を床に落とし、車椅子から落ちそうなほど体を丸めて痛がる魅花を尻目に、自分は携帯電話で病院へ連絡した。

病院の方に内容を伝えている間、ずっと魅花は自分の腕を強く掴んでいた。自分も魅花を「もう少しだ」「頑張れ」等と声を出して励ましていた。


救急車に運ばれ、即座に魅花は分娩室に運ばれた。

今にも産まれる体だったそうだ。


立ち会い出産ではなかった自分。

緊急だった為、 分娩室の前で待つ形になった。

ぞろぞろと医師や助産師さん、器具が部屋に入っていくのを自分はオロオロと戸惑いながら見るしかなかった。流石に一つの部屋に大勢の人や機械が入っていくので、「そんなに大事なのか」と心配になった。

部屋の中では慌ただしそうに声が上がっていた。

「頑張って! 頑張って!」「出血が止まらない!」「用意は!」等、部屋の外からでも充分に中の状態が把握出来た。


早く産まれないかな。と思っていた今日、こんなにも早く出産するとは思っていなかった。

出産予定日は長くて来週、短ければ今週の末だと先生は言っていたが、まだ自分には心の準備が出来ていなかった。魅花も同じだろう。

ただ一人部屋の前の長椅子に座り、手を会わせて願っていた。

「元気な子が産まれてくれ」ただひたすら熱心に、その事ばかりを願っていた。


「産まれた!」


部屋の外からでも、魅花の声が聞こえた。

部屋の外からでも、その元気な声が聞こえた。二人、双子の赤ちゃんの産声だった。


部屋の中からは拍手、魅花を褒める助産師さんの声が聞こえる。

自分も、先程まで強く握り締めていた手が知らない間に緩み、自然と笑みを浮かべている。そしてまた知らない間に、頬に涙が流れていた。


部屋の外側に付いていた赤いランプが消えた。

扉が開くと先生が部屋の中に案内してくれたが、本能的にだろうか、魅花とその元気な子供達を見ると一目散に駆けつけた。


「よくやった! よくやったぞ魅花!」


魅花の頭を撫でながら、自分のおでこを魅花のおでこに擦り合わせた。


「うん……うん!」


自分は泣いていた。

魅花も泣いていた。

赤ん坊達も泣いていた。

そして、皆笑っていた。



先に産まれたのが(はな)。そしてその直ぐあとに産まれたのが(まい)

二人とも平均的な体重よりはちょっぴりと下の2890グラムと2860グラム。特に体には異常は無いとのこと。

それより、最近の出産した後の赤ちゃんに対するチェックが凄かった。

アプガースコアと呼ばれるチェック方法では、皮膚色、心拍数、刺激反応、筋緊張、呼吸の5項目を調べる……というのがアプガースコアと呼ばれるものらしい。

それぞれ各項目を満たしていれば10点で、7点以上は心配ないらしいのだが、6点以下の場合はその後の経過を慎重に観察するのだとか。

その他にも体重測定、伸長測定、頭囲測定等、自分が赤ん坊の時はこんな事しただろうか? と思えるものが多々あった。


とにもかくにも、美と舞は元気な女の子の双子として、自分と魅花の子供として、命を授かった。

そしてこれから新たなページを作るのだと、自分は思った。



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