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新しい我が家

ひとつひとつの部屋が大きい。

キッチンは腰より低い所に集中している。

角部屋である。尚且つベランダは大きい。


そんなマンションを、産まれてくる子供の為にも魅花と一緒に探していた。

不動産屋に足を運んだり、色々なパンフレットにも目を通した。

なかなかハードルの高い物件だが、全ては魅花と子供達のためである。


ひとつひとつの部屋が大きいと云うのは、美や舞が家の中にいる間でもはしゃがせていられる様にしたいという願いを込めて……という事だ。

キッチンは腰より低い所にある。これは魅花の為だった。今現在自分と魅花が住んでいるこのアパートには、キッチンの引き出しが頭より高い場所にしか無い。その為、いつも魅花が料理を作る時は、必然的に自分が傍に居てあげる事になっている。

角部屋を希望する理由は魅花の趣味に合わせたものであった。魅花は菜園が好きだ。見るのも作るのも、全てが好きなのだとか。魅花がまだ幼かった頃、母親が自宅のベランダ菜園を初めたらしくて、グングンと野菜や果物が成長していた事が何より面白かったそうだ。自分で作った物を食べると、より一層野菜の味が際立つのだとか。今回では母親を真似て野菜作りを挑戦するみたいだ。魅花の身体の都合上、外にはあまり出れないが、こうした趣味を初めるのも良いことなのかも知れない。話が反れたが、ベランダを大きくする事によって育てられる野菜の量も違ってくる。魅花曰くキュウリとミニトマトを育てたいと言っていた。何より初心者はこの二つから始めるのが無難のようだ。


兎に角、自分達はこうしたマンションを探していた。

そんなある日の休日、魅花のお腹も着実に大きくなっていた頃、二人でテレビを観ていると一本の着信が自分の携帯から鳴った。見覚えの無い番号からだった。


「あの、もしもし。どな……」


そう自分が話をしだした瞬間、何とも陽気な声で若い年齢であろう相手が話をしてきた。


「え~富士園さんですねぇ。希望していたマンションなんですけど、少~し都心から離れちゃいますが、それっぽい物件が一つ見つかりましたんで連絡させて頂きましたぁ~」


期待していそうな目で自分を見つめていた魅花に、無言で親指をグッと立てた。


「詳しい内容っつ~か、物件についての詳しい説明は以前来てくれた不動産屋で話しますんで。今日の昼過ぎにまた来てくださいっす」


「昼過ぎにですね。 分かりました」


通話を切ったら、魅花が声を出して笑った。

自分もつられて笑った。元気な笑い声が部屋に響いた。


その日の午後、約束していた不動産屋へ足を運んだ。

お客さんが中に数名ほど居た。その中に混じり、お客さんに物件を薦める独特の声をした若者が居た。中に入り店員さんを呼ぼうとした直後にその若者が自分達に気が付いた。


「あっ、もしかしてさっき電話した方っすか?」


すると魅花が二つ返事で「はい!」と答えた。

多少若者が不思議な顔を浮かべたが、 その後に自分が続いて「そうです」と答えた。そしたら若者が席を指差した。魅花のお腹を見て気を遣ってくれたのか、多少混雑したお客さんから離れたカウンターを薦めてくれた。「ありがとうね」と若者に一言声を掛けると、魅花の車椅子をカウンターに付け、自分は席に付いた。


「さっきも話したと思うんすけど、少し都心から遠くなっちゃいますね。あと、その角部屋なんすけど、方角南西向きっすけど……良いっすかね?」


「えぇ。 南向きでしたら何でも構わないんで、それでお願いします」


スラスラとボールペンで紙にメモをする若者。

ふと、若者のメモ用紙の裏に見えた写真が目に入った。


「その写真って……」


その写真に今気付いた様な言い方で頭を掻きながら若者は言う。


「これっすか? あ、すいません、見せようと思ってたら自分忘れてました」


そう言って若者が魅花に差し出した写真を、自分は魅花の横から覗いて見るようにして見ると、部屋やお風呂場、ベランダを写した写真だった。


「この物件の写真っすね。この前自分行ってみたっすけど、結構マンション自体も綺麗っすし、セキュリティは良い方だと思いましたよ。肝心の部屋の中っすけど、その写真よりも案外広く感じましたっす」


口を開けたまま感心していた魅花。

すると魅花は、何かを思い出したかの様に若者に話し掛けた。


「一度行ってみたんですよね? 部屋は……段差って、ありましたか? 小さな段差もです」


頭を掻き、目を天井に向けて若者は考えながらカウンターに肘を付いた。


「た~しか、無かったと思いますっすよ? あったとすれば……玄関ぐらいっすかね?」


「そうか……良かった。細かい所まで、目が行き渡るのね」


ホッと安心した様に肩を下ろした魅花。段差というのは多分、子供達が躓かないようのだろう。そういった気遣いは魅花には多い。


「自分、違う所にばっかり目が行くんっすよね。今回は役に立っちまったっすね」


苦笑いをしていた若者。若干褒められて嬉しかったのだろうか、頭を異常に掻いていた。

その後、自分と魅花は、今決めた物件に公式に手続きをした。その間若者は暇そうだった。


手続きを終え、来年の2月に引っ越す事が決まった。

ちょうど2月は美と舞の出産予定日だ。それに合わせて引っ越すつもりだった。新しい生活を始めるのが待ち遠しかった。今が10月だから、美と舞が産まれるまで、およそあと4ヶ月。素直に楽しみだ。


店を出た際、先程の若者の店員が少し遅れて店内から多少息を切らして出てきた。


「あ、あの……元気な子、産まれると良いっすね」


呟く様な声で若者はそう言った。

そうして魅花は大きな声で叫ぶ。


「お気遣いありがとうっす!!」


離れていく自分達に、若者は大きく手を振っていた。

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