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目標

只今、魅花は妊娠5ヵ月と3週間。

段々と魅花にも変化が目で見られる様になっていた。

 

 例えば、日に日に少しずつ張っている魅花のお腹。

 以前までは食欲が湧かないと言って、食べ物もあまり口にしなかった為に痩せていた魅花の身体だったが、ここ最近ではシッカリとご飯も朝・昼・夕と食べている。そのお陰か、はたまた美と舞のお陰か。魅花のお腹は張ってきていた。

 

魅花の変化は張ったお腹だけでは無い。

品の無い言葉だが、魅花のおっぱいも少しずつ大きくなりつつあった。(ハッキリ言っておくが決して変な意味で言ったつもりは到底無い)

以前まで、魅花の胸は小さかった。


「胸が小さかったら、赤ちゃんがおっぱい吸えなくなるのかな……」


と、この前ご飯中に魅花が一人呟いていた。知識豊富な大江さんから玄関の前でこっそり聞いた話だが、小さい胸でも余程の事が無い限り心配無いらしい。何せ乳房ごと吸ってしまう赤ちゃんがいるくらいなのだとか。それに今の段階で心配しなくとも、赤ちゃんが産まれ、実際に母乳をあげていると自然に胸は大きくなるのだという。

 あと、魅花に変化が見られたのは、胎動の数が増えた事ぐらいだろうか。土日の休日など、アパートでゆっくりしていると、良く魅花が「あ、今蹴った」と呟いている事がある。料理中・編み物中・或いはテレビを観ている時、何時でも何処でも魅花はそう呟いていた。

 一度、魅花がそう呟いて、自分が魅花のお腹に頬を当てた時、タイミング良くお腹の中に居る子供達が自分の頬を蹴った事があった。勿論自分は驚いたが、その分、嬉しさもあった。何とも力強い一撃だったから。自分はその時、改めて美や舞の生命力に感動した。いや、感動させられた。


そんな魅花の身体の変化に、自分はただ見守った。


『元気な子が産まれてきますように』


そう心の中で願い続けていた。


 ある日の夕方。

 魅花が突然ドライブに出掛けたいと言い出した。理由は以前決めた約束のリベンジと、丁度その日、流星群が観れる日だったという事。それと冷蔵庫に食材がほぼ無いため、外食にしようという理由も少しばかりかあった。

 以前決めた約束とは、『お互い忙しく無い日の満月の日には、山に行って夜景を観よう』という約束をしていたのだ。

 思い返せば、今まで魅花と二人きりで夜景を観たことが無かった。ある事はあったのだが、それは付き合い始めた頃の、高層ビルの最上階である展望台からの景色だった。それに人は大勢居た為、カップル二人が落ち着いて夜景を観れる環境では無かった。ましてや魅花は喧騒が嫌いだ。

 そして、その日の夜の7時過ぎ。二人きりのドライブへ行く事となった。山へと向かう前に、一度小さなお店屋さんで腹を満たした。

 段々と山道になるにつれ、道は凸凹とし始め、周りの風景は木々一色になる。自分は運転席でハンドルを握っている。横の助手席には魅花がお腹を撫でながら、窓から見える景色を眺めていた。


「魅花は……小さい頃、両親に連れて行ってもらった夜景の事、今でも覚えてる?」


ラジオは掛かっているが、少し物静かな雰囲気だったため、ちょっぴり場の空気を盛り上げようと自分は自然な感じで魅花に問い掛けた。


「うん。今でもハッキリ覚えてるよ。私にとってアレは、かけがえのない思い出の一つだもん。忘れる訳なんて……ないよ」


やっぱりそうだよなぁ……と、素っ気なく相槌を打つ自分。魅花にとって、夜景と云うのはどれほど特別な存在なのだろう。普通の一般人なら、町が輝いていて綺麗……等といった答えが帰ってくるが、魅花の場合は少し違う。自分はそこまで魅花の考えている夜景というのは意識した事は無いのだが、魅花は毎日ベッドに入って寝る前、新月以外の日は何があっても、部屋の大きい窓から月を数十分ほど静かに眺めている。

 

そんな魅花が今夜、夜景を見に行く……魅花は興奮気味になっていた。

 時折、車のラジオから鳴る音楽に、足を縦に揺すりながらリズムをとっていた。楽しみなんだろうな……と自分は心の中でそう思う。

 車を走らせる事、およそ30分。右手にある道に入った。

目的地の場所。そこは多少整備されているかどうかの小さく開けた場所。勿論、此処が正式な展望台である筈はないが。新地になっている場所に車を止め、助手席の扉の方に周り、魅花を車から下ろして車椅子に移し替えた。


魅花は一目散に車椅子を走らせ、木で出来た腰の辺りまである柵まで一気に向かう。


「来てっ! ほらほら、早く!」


小さい身体を上下に動かし、此方に向かって激しく手招きをする。これではまるで、幼い少女を相手に鬼ごっこをしているかの様だった。車に鍵を閉め、早足に魅花の元へ向かう。


「ほら、綺麗だよっ! そして今日は満月っ!!」


お腹の美と舞のために、もう少し落ち着いてほしいからと、自分は魅花の肩にソッと手を置く。


「満月も大きい……やっぱり、アパートで見るより、此処で見た方が大きく感じるね」


自分は魅花の肩に手を添え、満月の方を見ながら小さな声で言う。


「沢山の星も、この大きな満月も、いつかは皆で見ようか。自分、魅花、美、舞。そうだな……実際に、次女の舞が四歳とか五歳になったら、次の子供も産まれているだろうから、合計で五人。皆が皆、良い思い出になるだろう」


そこで自分は小さな目標を立てた。

頭の中で、自然とその光景が思い浮かぶ。


はしゃぎながら月を眺める舞の姿。

その隣で舞の手を握る姉、美の姿。

その美の右手を上から握る自分の姿。

一番左、自分の左手を右手で握る魅花。

魅花の左手で抱えているのは、次に産まれてくる赤ちゃんの姿だった。


「その提案……賛成するよ」


そうポツリと呟く魅花の声は、心なしか強く感じた。



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