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二度目の妊娠

 朝のテレビを観ながら朝御飯を食べる。今日からまた自分は仕事。魅花はまたアパートにひとりぼっちになるが、寂しくは無いだろう。何時でも自分に電話しても良いからね……と、自分は魅花に伝えているし、何かあれば大江さんも居る。心配する事は無いだろう。 

 

複雑な想いのまま、魅花が自分に手を振る玄関を後にした。 

途中、いつも通っていた喫茶店へ寄ってみる事にした。店内にはマスターが一人、カウンターでコーヒーを呑んでいた。静かにマスターの隣の席に座る。


「これは……富士園さん。お元気ですか」


魅花の入院から何一つ変わっていない、いつも通りのマスター。相変わらずの白い髭。自分はコーヒーを一杯頼むと、目の前でコーヒーを淹れてくれる。そして出来上がったコーヒーを自分の前へ配膳してくれた。


「嫁さんは元気か?」


思わず咽せる。単刀直入にも程があるだろう。もっと言葉を丸められなかったのか…… 


「あぁ、今はもうすっかり元気だよ。それより、マスターも元気そうじゃんか」


私はまだまだ現役だよ……と、マスター。 

今更かも知れないが、マスターの本名は松岡(まつおか) 茂増(しげます)。今年で丁度60歳であり、見た目は温厚そうで、如何にもマスターと云う、茶色の服が似合いそうな御方である。それと、いつも何を考えているのか分からない。マスターは釣りが好きだから、今度のターゲットを考えている? それとも、最近始めたと言ってたゴルフ? まぁ、どちらにせよ心の奥底で考えているのは喫茶店の事だろう。マスター曰く、この店を始めて15年。色々と古ぼけてはいるが、もうこの店は私の人生そのもの……なのだそう。その後軽く話を済ませ、マスターに別れを告げた。

職場はいつも通りの風景だった。あちらこちらと行き交う先輩方や、コピー機の無機質な音。こんな仕事でも、自分は魅花の為に働いているんだ。

 たとえ病気になっても、事故になっても、働いてみせる。魅花に少しでも苦労を掛けさせない様にするためだ。 

 その日はいつもより仕事に精が入った。そして深夜。車で魅花の待つアパートまで帰る。玄関を開けると、奥の部屋のリビングだけ電気が付いてある。手を洗い顔を洗い服を着替え、リビングのドアを開けると、イスに座ったままテーブルに腕を組んで寝ている魅花がいた。自分は小さく微笑むと、ゆっくり魅花の両足と肩を抱え、ベッドへと移す。そして静かに布団を被せた。

 リビングへ戻ると、キッチンには皿に盛られたオムライスがラップをして置いてあった。因みに、オムライスが盛られた皿の下には『冷蔵庫の中にコーヒーゼリーあるから、デザートとして食べてね♡』と書いてある紙があった。オムライスを電子レンジに入れ温める。一人静かに食べた。

 そして細かい用事を済ませ、先ほど起きてベッドに移った魅花が眠るベッドに就く。横に目をやると、小さく鼾を立てている魅花。お休み……と言い残し、眠りに就いた。


そんな日々が数週間程続いた。秋も近付くある仕事帰りの夜の事。リビングへ目を向けると、魅花はまだ起きていた。いつも通り、イスの上で自分の帰りを待っていたのだろう。今日の御飯は五目御飯だった。

 いただきますの合図を終え、熱いご飯を口いっぱいにかき込む自分。しかし、魅花はまだ箸に手を付けていなかった。


「どうした? いただきますは、もう言ったぞ?」


どうやらそういった問題では無いらしい。魅花の顔をよく見ると、暗い表情をしていた。珍しく魅花に元気が無かった。自分も始めは風邪だと思っていた。御飯食べないと、元気になれないぞ……と、魅花を励ましていた。しかし魅花の顔に笑顔は戻らなかった。時折、気を遣って魅花は笑顔を見せるが、顔が引き吊っていて、どの笑顔も本当に心の底から笑えている様には到底自分は見えなかった。 

 その後も段々と魅花は衰えていく様に痩せていった。この事態に、自分も質の悪い風邪等では無いと思い、最寄りの耳鼻科へ言ってみる。


「コレは……風邪でも無いですし、これから流行るインフルエンザでも無いでしょう」


と、先生が言った。

魅花曰く、毎日の様に吐き気、目眩、立ち眩み、が繰り返すと言う。先生も諦めなかった。検査をするからと、自分は診察室のドアの前にあるイスに座って一人、魅花の症状が何かを待つ事にした。数十分すると、ドアが開いた。魅花の乗った車椅子を押す看護婦さんと、その後ろに付いて歩く先生が出て来た。


「恐らく佐田上さんは、妊娠でのつわりの症状でしょう。この病院の近くに産婦人科が在りますので、そちらで一度、診て貰っては如何でしょうか?」


魅花の方を見て、先生が腕を前に組みながら言った。

魅花は妊娠していた様だ。         

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