表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

平穏な日々

 今日からまたアパートでの生活。 

 朝日の入るカーテンを横目に、朝刊を片手にイスに座りながらテレビを見る。

 

病院には御世話になった先生や看護士さんに御礼の挨拶をし、魅花は退院した。 


そして新しく、魅花は内職を始めた。

商品にシールを貼り、それをプラスチックの箱に入れる……というモノだ。やはり魅花なりに気を遣っているのだろう。自分も仕事は順調だが、余裕がある……という程では無い。何せまだ魅花の指輪も買ってやれていないのだ。情け無い……そんな自分を心の中で励ましていると、魅花が言った。


「あの可愛い写真立て……買ったの?」


魅花の見つめる先はタンスの上にある写真立てだった。 

徹が以前、自分にくれたプレゼントだ。


「徹……っていう、高校の時の同期からのプレゼントだよ。キスシーンでも入れればって言………あ、今の言葉は忘れてくれ」


「キスシーン……私とパパのでしょ? いいなぁ……面白そうっ」


やれやれ、変な事言うんじゃ無かった……

その後、さり気なく話を流し、別の話題へと持ち込んだ。徹の言われるがままにキスシーンの写真なんて……とんでもない。それに、もしそうなってしまった場合、徹の奴にまんまと引っ掛けられた気がするので何か……何だろうか……この感情は…… 


「で……子供の話だけど……」


子供の話とは前にも言っていた、香の妹、或いは弟の話である。 

魅花曰く、子供は最低でも二人欲しい……という要望から出た話だ。魅花は元々兄弟が居なく、それ故に一人っ子で育ち、兄弟と云う存在を強く願い、せめて子供だけでも楽しい……或いは明るい家族にしたかったのだろう。その想いは自分も同じであった。


「香の事もあるけど、魅花的にはどうなんだ? 子を……産むのは……」


そう言うと、魅花は箱に商品を詰めながら言う。


「私はもう落ち着いたし、早い内に子供は産みたいと思うけどなぁ……パパは賛成?」


自分は賛成……と云うよりも、魅花が良ければ自分はいつでも……と言う状況ではある。品が無い話だが、魅花と一夜を迎えるに当たって、魅花の身体が心配なのだ。魅花の身体が万全なのかどうか分からない。それに魅花は……いや、魅花の心の傷は治ったのだろうか。魅花の傷は大きく、それに深い傷だった筈だ。


念願の家族


夢を断たれたあの時の魅花の姿はもう二度と見たく無い。 

目の前にあった物を否定し、事実を否定し、自分を否定し……酷く落ち込んでいた魅花を……

 そうなれば、自分がただ起こり得る可能性のある二度目の流産に怯えているのかは知らないが、魅花が言うなら自分も魅花をサポートするつもりだ。勿論、全力で。


「自分は賛成だ。自分がどう答えるかは魅花次第……っていう事かな……」


魅花は目を細め、小さく笑う。

自分も魅花も、思っている事は同じだろう。


元気で明るい子を、自分・私の家族として迎えてやりたい


その想いは強く、固く……そして明るく。 

もう香の二の舞何て、あってはならない。必ず香があの世で微笑んでいてくれる……そんな家族を作るから。その為ならば、自分はどんな困難にでも立ち向かう。その糧となるのは、魅花の魔法………笑顔だ。

 

「……揚げ? オムライス? あ! それともカレー!?」


あ、全く魅花の話聞いてなかった。

多分だが、今夜の料理の話だろう。料理の話になると直ぐ興奮するのは昔からの魅花の癖だ。


「久し振りにカレーでも食べたい気分……かな?」


ラジャー! 敬礼のポーズになってそう言う魅花。 

時計の針は昼の11時を指していた。昼から機嫌良いな……そんな事を思い、朝刊を半分に畳む。身支度を済まし魅花の車椅子を押し、近くのスーパーまで出掛けた。

 

 二人でのんびりと町中を練り歩き、過ごす時間は入院以来であった。 

 何だかとても落ち着く。道行く子供達や大人の方達からは変わった目で見られるが、今はもう差ほど気にはならなくなった。

 というのも、自分と魅花が付き合い始めた頃、初めてショッピングモールへ出掛けた時の事。魅花が車椅子に乗り、自分が魅花の車椅子のハンドルを持って押してあげていた時、通り過がろうとした家族連れの女の子から、「あのお姉さん押して貰ってる! お姫様みたい!!」と言われた事があった。コレには魅花も顔を赤らめた。勿論自分からガツガツと食い付いてきた女の子には車椅子の説明・意味は伝えたものの、その後少しの間は魅花一人で車椅子を動かしていた。恥ずかしい事では無いと思うが、その時の魅花はまだ車椅子に慣れていなかったかも知れない。周りの目線も気になっていたのかも知れない。 

 

しかし今はもう変わった。 いや、変わっていた。

 

堂々と車椅子でコンビニでの買い物も出来るし、車椅子も差ほど気にせず町を一人で回れるし、車椅子の生活も思っていた程、苦では無いように見える。しかし見えない所で苦労する面だってやはりある。 

 例えば家でのお風呂。これには自分も流石に手を焼く。付き合い初めの頃はお互い恥ずかしがってはいたが、実際そんな事言ってられない。あくまでも魅花は女性な訳であって、自分が言うのも何だが、人一倍に身体には気を遣っているのだと思う。特に魅花の長い黒髪。サラサラだし、何より綺麗でもある。そんな髪の手入れは、毎日のお風呂では念入りに何度も何度も洗っている。 


 話が反れたが、車椅子での生活は苦もあり楽もあり。だから今こうして笑顔で町に繰り出しているのだが……

 そんな事を考えていると、スーパーへ着く。今夜のカレーの具材を買う。やはり始めに向かうのは精肉コーナー。肉がゴロゴロと入った魅花のカレーには欠かせない具材の一つだ。次に野菜コーナー……と、順序良く次のコーナーに向かう。会計を済ませ、買った商品を袋に詰める。魅花は手慣れた動きで野菜などを袋に詰める。流石は主婦だなと思う。周りから見れば、車椅子の女性が平然と笑顔でおしゃべりしながら作業しているのだ。

少し見慣れない風景ではあるが、自分にとって、そんな魅花は何も特別な事では無い。寧ろ見ていて微笑ましく思う。そんな作業を終え、買い物袋を自分は両手に、そして魅花は膝の上に買い物袋を一つ乗せ、一人で車椅子を動かす。周りから観ればそんな光景だ。 


途中の帰り道、魅花の車椅子が止まる。特に車が来たわけでも無かったので、魅花に言う。


「どうした、魅花? 何か買い忘れたか?」


自分は気になり、魅花の目線の先を辿ってみると、其処にはある家族が居た。 父、母、そして女の子と男の子の四人家族だった。 何処にでも居そうな幸せそうな家族だった。女の子は母の手を握り、男の子は父の手を握り、四人仲良く横一列になって歩いていた。暫くその家族に見取れていたが、ゆっくりと魅花の顔を見てみると、魅花は遠い目をしてその家族を眺めていた。多分、魅花の心は今、希望と不安に入り乱れているのだろう。 


「きっと魅花なら大丈夫。元気な子が産まれる」


魅花に優しく話し掛ける。

魅花が此方の顔を見る。不安そうな顔だった。 


「そうよね……そう、きっとそうよね! 大丈夫大丈夫!!」


笑顔の魅花。きっと魅花なら何とかなるだろう。 

そう自分は信じ、ゆっくりと帰路に着くのであった。

 

そして夜、肉カレーを二人で食す。

テレビでは大家族が中心に話が繰り広げられる番組だった。 


「こんなに子供が居たら、親は大変だろうね」


魅花はカレーをスプーンで掬いながら言った。 

確かにそうだよな……と、自分。流石にここまで子供に恵まれようと思わないが、せめて二人。今の段階ではその予定だった。カレーを食べ終え、自分が食器を洗っていると、魅花はもう洗面所へ行った。 


「まだ9時なんだけどな……ま、明日は仕事だし、早く寝るのも悪くないか」


そう自分は小さく呟き、早々と食器を片付けた。洗面所にいた魅花の後ろから手を伸ばし、歯ブラシと歯磨き粉を取る。 


「先に寝とくからね。お休み、パパ」


あぁ、お休み……自分がそう相槌を返すと、先に魅花は寝室へと帰っていった。 歯を磨き終わり、ガスの元栓を消し、細かいチェックを終え、ベッドへと横になる。横には魅花が居る。 


「魅花……」


その日迎えた夜は……自分にとって二度目の夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ