その八 姉
賞設定、ねつ造ことわざの案募集中。
……いや、早くもネタ切れとか、そんなんじゃないですよ?
やめて。やめて。もうやめて。
いやだ。いやだ。もういやだ。
助けて。助けて。誰か助けて。
お願いです。助けてください。
誰か。誰か、助けてください。
誰か、誰か。誰でもいいから。
助けて助けて、お願い助けて。
助けてください。
誰でも、いいから。
―――何でも、いいから。
――――――――――
「………………んあ?」
目が覚めたら、とっくに日が沈んでいた。枕元に置いてある目覚まし時計が、長針も短針も真ん中より左側にあるのを確認して、愕然とする。
……え?マジで?俺が寝たの、朝の六時だったよね?十二時間以上も寝てたの?
……思ってた以上に、疲れてたらしいな……。
「なんか、だりぃ……」
『寝過ぎだの。ようわからんが、なんでも人間は寝過ぎると、却って疲れるそうだぞ』
『それは知ってる。実体験したことはなかったけどな』
基本的に睡眠時間少な目なのだ、俺は。最近はそれが特に酷いが。
『睡眠時間、少しは増やしたほうがいいかもなあ……』
『うむ。殺人鬼が見付かるまでこんな生活を続けとったら、ぶっ倒れるぞ。すぐに見付かれば、話は別だがの』
『さすがにそりゃあ、楽観視し過ぎだよなあ……』
警察の人海戦術でも見付からないのだ。俺一人がそれとは別に探しても、大したプラスにはならないだろう。
警察を信用してないわけじゃないが、四週間近く犯行を続けている殺人鬼が、あと数日で捕まるとは考えにくい。長期戦を覚悟しておくべきだ。
『となれば、どの時間を使って眠るかだのぅ』
『問題は姉ちゃんなんだよ。帰って来る時間にムラがあり過ぎる。おかげで補導される時間帯は、今までの犯行の時間帯とまんま被ってるってのに、外に出られないことが多いからなあ』
昨日は姉ちゃんから、帰れないとあらかじめ連絡があった。だから家に戻ることなく、ずっと街を歩き回れたわけだが―――
『昨日は四人目が殺された直後だったからな。そりゃ帰れねえよ』
『最近はほとんど帰って来とらんようだがの。それでも帰って来る可能性がある以上、無理はできんか』
『ああ……見付かったらタダじゃ済まねえ。最悪病院送りだ。姉ちゃん、怒るととんでもなくおっかねえからなあ。……そんで、怒りまくった後に、一人で泣いてんだよ』
去年、とある暴走族を、とある理由で潰した時。俺は大怪我をした。
まあ当然だ。景虎も一緒だったとはいえ、相手は五十人近くいた。いくらガタイが良く喧嘩慣れしていても、所詮は素人。何度も殴られ蹴られ掴まれ、一回刺された。ぶっちゃけ死にかけた。
入院した俺の病室に息を切らして駆け付けた姉ちゃんは、重傷の俺を思い切りぶん殴り、病院全体に響くほど怒鳴り散らし、胸ぐらを掴み上げてガックンガックンと揺らしまくり、慌てて羽交い締めにして止めた医者を殺気すらこもった眼で睨み付けてから、肩を怒らせ大股で病室を出て行った。
……そして、部屋の外から、押し殺したような泣き声で。
―――良かった。生きてた。
そう、言ったのが。
微かに―――確かに、聞こえた。
『愛情の裏返し、というわけかの。お前さん以上の無理を続けておるのも、お前さんや薫が心配なのだろう。殺人鬼に襲われないか、との』
『んなこたあ百も承知なんだよ。俺が殺人鬼を探すことが、そんな姉ちゃんに対する裏切りだってこともな。
……けどな。姉ちゃんが俺たちを心配してるのに負けねえくらい、俺だって姉ちゃんと薫を心配してんだ。もちろん薫だって、俺と姉ちゃんを心配してる』
俺たち姉弟には、両親がいない。だから、三人で力を合わせて生きて来た。
その絆は、契約者と外法者との絆に、断じて劣るモノではない。
『姉ちゃん一人に任せっ切りになんざできるか。姉ちゃんは俺たちのことになると、自分のことなんか全然気にしなくなっちまうからな。馬鹿みたいにタフだから、過労で倒れたりなんかはしてねえが―――それでもとっくに、体はボロボロになってんだよ』
生理不順なんかは当たり前。長く続けた安定や規則正しさなど皆無の生活は、慢性的な体調不良を引き起こしている。
並の人間なら―――少なくとも俺なら、とっくに倒れてる。死んでたっておかしくない。姉ちゃんはただ、学生時代に身に付けた無尽蔵の体力と、それすら霞むほどの人間離れした気力で、どうにかしているだけだ。
『……ふざけんな。姉ちゃんは、俺の―――俺と薫の姉ちゃんだぞ。親じゃねえんだ、ただ一方的に守られるだけだなんて許せるか。支え合ってこその、姉弟だろうが』
俺は薫のように、家のことをなんでもできたりはしない。バイトに明け暮れてはいるが、元々金には困っていない。親の遺産は俺たちの学費分くらいは十分にあるし、姉ちゃんだけでも最低限の生活費は稼げてる。俺のバイト代はほとんどがいざという時のための貯金に回し、残りを薫の小遣いに当てている。つまり、絶対に必要というわけではないのだ。
むしろ私立の高校に通っている分、俺は家計を圧迫していると言える。これは姉ちゃんの指示ではあるが、それでもいつも心苦しく思っていた。
―――だけど。
『爺さん。アンタ、いつだったか言ったよな?爺さんと契約したことで、俺のこれから先の人生が狂う。そのことを恨んでないかって』
『……言ったのぅ、確かに』
『あの時俺は、爺さんに助けられたんだから、恨むなんて筋違いだって答えた。……付け足すぜ。爺さんと出会って、そして契約したことは、俺にとって宝籤の一等に当たる以上の幸運だ。俺はようやく、姉ちゃんの役に立てる』
それがたとえ、ありがた迷惑だとしても。余計に心配させるだけだとしても。
ほんの少しでも。姉ちゃんの無理を減らすことができるのなら、その可能性があるのなら。
『……大体今まで、姉ちゃんは散々、俺たちのために無茶して来たんだ。なら俺も、姉ちゃんのためにちょっとくらい無茶したっていいだろうが』
『カッカッカッ……何を言うか。お前さんは、儂と契約する前から、結構な無茶をして来たようではないか』
『うるせえよ、んなもんは姉ちゃんの比じゃねえ。―――これから、それに追い付くんだよ』
姉ちゃんは怒るだろう。そりゃもう怒るだろう。
―――そして、泣くだろう。
『けどさ。涙くらいは安いもんだ。姉ちゃんが犠牲にして来たモノ、これから犠牲にするモノに比べりゃあな。……背負い過ぎなんだ、姉ちゃんは。少しくらいは、無理矢理にでも、俺に背負わせてもらうさ』
悪いな、姉ちゃん。アンタの優しさを踏みにじるようなことをして。
だけど、それも仕方ない。だって姉ちゃん、アンタ忘れてるぜ。
―――俺は、百鬼鼎。
百鬼司の、弟だってことを―――
――――――――――
決意を新たにした鼎と金鬼が再び夜の街を歩き回り、またも収穫なしに帰宅した、翌日。
亜麻原警察署、刑事課。午前五時の半ばを過ぎたばかりのそのオフィスに、人気はほとんどない。
だが、皆無というわけでもなかった。
オフィスの隅にある、応接用の机と、それを挟んで置かれた、三人掛けのソファが二つ。
そのソファの片方に、妙齢の女性が一人、横たわっている。
脱ぎ捨てた黒いスーツの上下を机に投げ出し、豊満かつ形の整った胸に押し上げられたYシャツのボタンは上二つを外していて、その下の黒いブラジャーが覗いている。
加えて寝ている間に身じろぎしたためか、ブラジャーと揃いのショーツまでも丸見えだ。
無防備というより、だらしない格好だった。
「……んぅ……」
窓から入り込んだ朝日の光が、女性の顔を照らす。その眩しさに、女性は眉をしかめた。
反射的に腕を翳し、光を遮る。目覚めた直後のぼんやりとした意識で、ゆっくりと瞼を持ち上げ、翳した左腕に着けられた腕時計を確認し。
「……あー……朝か……」
むくりと体を起こすと、背中まで伸びた艶やかな黒髪がさらりと流れる。なんの対策もしていなかったせいで寝癖がひどく、無秩序にハネまくっていたが。
「んううううぅぅ……」
立ち上がり、伸びをする。自室などでならともかく、職場のオフィスで、下着とYシャツしか身に着けていない状態でそんなことをするなど年頃の女性として恥じらいが足りていないような気もするが、それを見咎める者は今は居ない。
オフィス内にはもう一人、女性の向かいのソファで寝ている男が居るだけだ。女性のあられもない格好を視界に入れないように背を向けて、つまりソファの背もたれに顔を埋めるような体勢で。
男の体はかなり大きく、立ち上がればその身長は2メートルほどはあるだろう。そんな大男が寝そべるにはソファは十分な大きさとは言い難く、体勢と相まって相当窮屈に見えるが、しかし苦もなく爆睡している。
女性はその男に近付いて行くと、スラリと長い脚を振り上げ―――
「起きろ」
ドグチャアッ!!
「ヒギャアッ!!?」
―――男のこめかみに、踵落としをぶち込んだ。
「いつまで寝てやがる。さっさと起きて準備しろ」
「ぐおおおおお……ヘ、ヘコむぅぅぅ……」
物理的にも心理的にも無防備な状態で急所に強烈な一撃を食らい、男はソファの上で器用に悶えた。それを冷たく見下ろしながら、女性は呆れたように溜め息を吐く。
「……情けねえな。そんなデカい図体してるクセに」
「いや今の図体関係ないっしょ!?せめてもうちょっと優し―――てうわあ!?なに服着る前に起こしてんですか!?」
「うるせえ、さっさと起きろ」
あまりに手荒過ぎるモーニングコールに苦情を言おうとした男は、女性の姿を見て慌てて目を背けた。しかし一瞬見えた長い脚、細さの中にしなやかさと強靭さを秘めた、モデルとアスリートのいいとこ取りな美脚が脳裏から離れず、しかもその脚で踵落としを叩き込んだ、つまり下着とYシャツしか着ていない状態で脚を高々と振り上げた様を想像してしまい、まだ若く女性経験もない男は自分でもわかるくらいに顔を赤くした。
その熱さをごまかすように、女性から顔を背けたまま、悲鳴のような声を上げる。
「い、いいから早く服着てくださいよ先輩!そっち見れないじゃないすかっ!!」
「別にいいだろ、減るもんじゃねえし」
「いやそういう問題じゃねえから!しかもそれ完全に男が言う側のセリフっすよ!!」
「はいはい、わかったよ。んじゃ顔洗って来るから、それまでにちゃんと起きとけよ」
女性は洗面所へと入って行き、長い髪と顔を石鹸(シャンプーや洗顔料ではなく、手洗い用の固形石鹸)で洗う。その手付きは乱暴で、汚れさえ落とせればいいという、女性としてどうかという洗い方であった。
洗顔と洗髪を手早く済ませ、濡れた髪をタオルで乱雑に拭きながらオフィスに戻る。すると男も、トイレでの洗顔を終えて戻って来たところだった。
「ぎゃあっ!?早く服着てくださいってば!!」
「んだよ、うるせえなあ。裸でもないのに、オタオタしやがって。童貞じゃあるまいし」
「俺はまだ童貞ですっ!!」
「そうか。私もまだ処女だ」
「そんなことサラッとカミングアウトしてんじゃねえよっ!!!」
おかしい、女の人って、もっとこう、お淑やかで、恥じらいがあって、けれど芯は強くて、それでいて優しいものじゃないのか―――
男の理想である、そんな今時では特別天然記念物並の希少価値のある、大和撫子のような人物像。
それとは正反対の、仕事の先輩であり上司であり相棒でもある女性に向けて、男は複雑な思いであった。
(見た目はすっげえ美人なのに……なんでこんなにガサツなんだ)
つまり、男は純情であった。その純情さも今では大和撫子に匹敵するレア物であることにも気付かないほどに純情であった。
「ほら、着たぞ。これで文句はねえだろ」
「ふう……」
女性はパンツルックのスーツを着て、ネクタイを身に着け、靴下と革靴を履き、安物の整髪料で寝癖を整えた。スーツの内ポケットから純白のリボンを取り出し、うなじの辺りで髪を一つに纏める。
ようやくまともな、仕事モードの格好になった。本来リボンはあまり適切ではないが、弟たちからのプレゼントであるそのリボンを外すつもりは、女性にはなかった。
「……六時か。そろそろ出るか」
時計を確認し、女性は男を促す。
「そうすね。もう人も増えてくる頃ですし」
男も頷き、出掛けるための最後の準備として、車のキーを持った。
「いくら寝不足だからって事故んなよ、権藤。眠くなったら言え、優~しく目を冴えさせてやるから」
「……今ので眠気が吹き飛びました。なんつーか、死の予感?それをビンビンに感じましたよ」
ガチャリ。
まだ誰も出勤して来ていないオフィスの扉を開け、二人は地味で、地道で、気の遠くなるような戦いに出た。
―――男は、亜麻原警察署刑事課、権藤雅紀巡査。そして女性は、百鬼司巡査部長。
現在亜麻原市で発生している連続殺人事件の特別捜査本部、その捜査官たちである。
――――――――――
「一人目。島田健介、41歳、会社員。3月23日、同僚との飲み会後、帰宅する途中に殺害される。刺傷14、創傷22」
「二人目。中村和子、37歳、主婦。4月1日、深夜、夫の酒のつまみを買いにコンビニへ出掛けたところを殺害される。刺傷11、創傷17」
「三人目。赤坂慎吾、16歳、高校生。4月7日、不良仲間との集会に向かう途中、殺害される。刺傷22、創傷26」
「四人目。鈴原紗耶香、22歳、大学生。4月12日、アルバイト帰りに殺害される。刺傷15、創傷19」
司は手にしたレポートを捲り、その内容を簡潔に読み上げる。運転しながらそれを聞いていた雅紀が、辛そうに顔をしかめた。
「……惨いっすよね。あんなズタズタにされて……遺族にも、現実として受け入れられない人が何人もいましたよ」
「そりゃそうだろ。家族が顔もわからないくらい切り刻まれてたり、内臓が全部ぶちまけられてたりすりゃあ、誰だって目を背けたくなる」
捜査のために確認した遺体の様子を思い出し、司もまた、顔をしかめる。自分に置き換えて考えればわかりやすい。
もしも弟たちが、そんな風に殺されたら―――現実を受け入れられないどころか、心が崩壊するだろう。
「このままほっといたら、間違いなくもっと殺すぞ、コイツは」
「夜中出歩かないように呼び掛けてはいますけど、完全にゼロにすることはできませんし……それにもし、本当に誰も出歩かなくなったら、昼にも現れるかもしれない」
「どっちにしても、捕まえなくちゃな。こんな舐めた真似してくれるクソ野郎は」
たとえこれ以上の犯行がなくなったとしても、既に四人も殺している殺人鬼を逃がすわけにはいかない。なんとしても捕まえなくてはならない。
―――警察官として。
「昨日もほとんど徹夜しましたけど……新しい情報はほとんどなし。めぼしい情報はまったくなし。気が遠くなりますね……」
「そんなもんだろ。警察の仕事なんざ、99パーセントは無駄だ。だが残り1パーセントの、「無駄じゃない部分」を得るためには、それくらいの無駄が必要なんだよ」
「無駄が必要……なんか、深いっすね」
「はあ?深くねえよ。ただの思い付きだ、こんなもん」
「………」
ダッシュボードに組んだ脚を乗せ(シートベルトはしている)、ヤンキーどころかヤクザをも上回る目つきの悪さでレポートを睨み付けていた司は、忌々しげにそれを後部座席に放り投げた。
その様子を横目で見ながら、狭い車内に巨体を縮こまらせて押し込めたような体勢で運転していた雅紀は、ああそう言えばここで先輩の怒りが爆発したら逃げ場がないな、なんてことを考えていた。
「ったく、ふざけやがって。てめえで切り刻んだ遺体も、それを見て泣く遺族もほったらかしか。背負う覚悟もねえクセに、罪なんぞ犯してんじゃねえ」
「なんでですかね……なんでこんなことを、平気でできるんですかね。そりゃ人間はこんなに大勢いるんですから、個性……個体差は、あるでしょうけど。これはもう、個体差なんてもんじゃない。突然変異だ」
自らの内で燃える正義感に従って警察官の道を選んだ雅紀にとって、罪を憎んで人を憎まずというのが基本の考え方だった。どんな犯罪者にも、たとえどんなに小さなモノでも、必ず良心がある―――そう考えていた。
だが警察官になり、まだ新米ながらいくつかの事件に実際に関わって、その考えは早くも揺らぎ始めていた。
特に今回の連続殺人事件は、雅紀に極めて大きな衝撃を与え。
犯人は、人ではないナニカなのではないか―――そんな非現実的な考えさえ生まれ始めていた。
「ふん。相変わらず……甘ちゃんだな、てめえは」
そんな雅紀の心情を、司はかなり正確に読み取っていた。一年と少しとはいえ雅紀の相棒を務めて来た司は、雅紀の性格、警察官にとって最大の武器にも最大の弱点にもなりうるそれを、とうの昔に見抜いていたのだ。
「んなわけあるかよ。人間なんてなあ、元々残虐極まりない生き物なんだ。大部分の人間は、それを理性やらなんやらで抑えつけてるが―――その枷がなくなりゃ、こんなもんさ」
逆に司は、それなりに正義感はあるが、どこまでも現実的かつ利己的な理由で警察官を目指した。今までに数々の事件で活躍し、普段の仕事ぶりは誰が見てもワーカホリックだが、しかし司は、仕事に対して信念も情熱も持ち合わせてはいなかった。
司の目的はただ一つ。弟たちを、鼎と薫を守ることだけ。
そのために、危険をいち早く察知することができ、そしてその危険が弟たちに降りかかる前に合法的に解決する権力を持つ、警察官の道を選んだ。それは一度だけではなく、この先何十年もの間二人を守って行くという決意であり、いざともなれば自分の将来を犠牲にして、職権を乱用してでも守るという覚悟でもあった。
それは司にとって、父親を失った八年前からの決定事項なのだ。
「それに、もし本当に、人間じゃねえナニカがこの事件の犯人だったとしても」
故に、百鬼司は容赦しない。たとえ誰が、あるいは何が相手であっても、自分の能力と権力の全てを使って圧殺する。
「関係ねえな。この街で悪さをする奴は、それ即ち私の敵だ。……敵は、潰す。二度と同じことをする気が起きねえように、徹底的に潰す。それだけだ」
腕を組み、前を―――この場に居ない殺人鬼を射殺すように鋭い眼で、前を睨み付けた。
その声に宿る尋常ではない殺気を感じ、雅紀は司に目を向ける。
いつもであれば、組まれた腕に押し上げられた胸やスーツの上からでもわかるほどの美脚に思わず顔を逸らしてしまうところだが―――
今は、そんなモノには欠片も意識が向かず。
その黒い瞳の、悪鬼の如き凶悪さと、ただ弟たちを想う、一人の姉の優しさが同居した、その輝きに。
―――目を、心を奪われていた。
「……ておい、前見ろ前ええええええええっ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」
アスファルトの路面に、黒々としたタイヤ痕を刻み付けることになったが。
幸いにも、事故は起きなかった。
最キョウお姉ちゃん登場。彼女の立ち位置は、今までの短い間でも、大体想像が付くと思いますw




