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OUTLAWS  作者: 七四
第一章 人も歩けば鬼に当たる
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その六 赤い爪

超能力系の話って、強さ設定が難しいんですね……。

男―――霧島は、自分にとって格下であろう俺と対峙して、余裕を見せつつも慎重だった。爺さんのことを「商品」と呼んだコイツは、その能力を知っていてもおかしくないはずだが―――それでもまずは、様子見を選んだのだ。


『儂の能力は知っていても、お前さんがそれをどれだけ活かせるかはわからぬからのぅ。おそらく先の奇襲と逃亡も、それを探るためのものでもあるのだろう』

『……それであんな、無茶苦茶な逃げ方したのか。俺がどれだけついて来れるか、見るために』

『結果としては、想像以上だったのだろうさ。だからこそこうして、油断なく構えておるのだ。……こういう手合いは、ちと手強いぞ』

『ちとどころじゃねえな。初陣には厳しい相手だぜ』


せめて油断くらいしててくれれば、そこを突くこともできたのに。格上にどっしり構えられちゃあどうしようもない。


―――少なくとも、正面からでは。


『なんとか粘る。爺さんはその間に奴の契約相手を見極めて、策を練ってくれ』

『それしかないのぅ。あまり頭脳戦は得意じゃないが―――まあ、仕方あるまい』

『よし……それじゃあ』

「行くぜ、おっさん」

「来な、坊や」


拳を握り締める。両腕がビキビキと音を立て金属の輝きを放ち始め、皮膚に、筋肉に、骨に、金剛の強度が宿る。


その両腕を構え、ズシン、と踏み込み、一気に距離を詰める。霧島は見たところ武器を持っておらず、徒手空拳で戦うようだ。契約による能力は火に関するモノであるということ以外わからないが、今のところ、火炎放射のような攻撃をして来る気配はない。


―――さて。


見るからに熟練者なこの男に。


俺の喧嘩殺法が、どこまで通用するかね―――!


「シッ!」


まずはジャブ。腰を使わず、肩から先の動きだけで繰り出す軽いパンチだが―――今の俺の力でなら、十分過ぎる威力が出せる。直撃すれば、人間の頭くらい消し飛ぶ打撃だが―――


「よっ」

「っ!?」


そのジャブを、霧島はいとも容易く弾いた。


「お、なかなか重いな。だが、まだまだ」

「てめえ……!」


しかもどういうわけか、弾かれた左拳からブスブスと黒煙が上がっている。


この男、一体―――


「何を、しやがった!?」

「はっ、そう簡単に教えるかよっ!」


ドンドンドンドンドンドンッ!!

左右の拳で連打を放つ。さっきのようなジャブじゃない、地面を蹴る力を腰の捻りで増幅した、力のあるパンチだ。次々繰り出すその連打を、しかし霧島は構えた両腕で悉く弾き―――そのたびに、爆音が轟いた。


「ぐうっ……!」

『コイツまさか、防御に合わせて爆発を起こしてやがるのか!?』

『そのようだの。攻めてるのやら守ってるのやら、火炎使いらしい荒業よ』

『関心する余裕なんざねえよ……!』


ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。その全てが弾かれ、そのたびに俺の腕が焼け焦げていく。


……なんて熱量だ。ライフル弾すら無傷で弾き返す、俺の皮膚を―――!


「そら、食らいな」

ドゴンッ!!

「がっ!?」


霧島の拳が、鳩尾に突き刺さる。


……速い。コマ送りにしか見えなかった。ただ弧を描く赤い軌跡が残っているだけだ。


そしてそれ以上に、重い。


まるで、というより。


文字通り、爆弾を叩き込まれたような一撃―――!


「ご……はっ……!」

「おいおい、一発かあ?流石にそりゃあチョロ過ぎんぞ」

「ぐ、お……!」


馬鹿な、どんな威力だ!?こんなもん普通の人間が食らったら、それこそ粉々になるぞっ!!


「おら、踏ん張れ男の子。もう一丁行くぜ?」

「があっ……!?」


体をくの字に折れ曲げた俺の頭に、凶悪な一撃が振り下ろされる。慌てて翳した腕でどうにか受けたが、肉が焼け骨が軋む。


「ぐっ!」


これをまともに受け止めたら、連撃で一気に畳みかけられる。だから衝撃に逆らわずにコンクリートに叩き付けられ、そのまま転がって距離を取った。

その勢いはコンクリートが砕けるほどだったが、それは俺の身体が埒外の頑丈さを持っているからだ。俺自身に、叩き付けられたことによるダメージはない。


「へえ……ガキのクセに、咄嗟の判断力は大したもんだ」

「ぐ、ううぅぅ……!」


心底からの賞賛とわかる言葉だったが、それを喜ぶ余裕は皆無だ。今はただ、霧島の攻撃で受けた激痛に耐えることしかできない。


『悪い、爺さん。粘るどころじゃなかった、逃げるだけで精一杯だ』

『いや、そんなことはない。おかげで幾つかわかったぞ』

『はあっ!?』


マジか、あんな一方的にやられてるだけの無様な一瞬でか!?爺さん、アンタ頼もし過ぎんぞ!!


『まず奴の能力だが。ありゃ「火を操る」と言うより、「身体に火を纏う」能力だの。故に戦術は、接近戦に限定される』

『なるほど、火炎放射をしてこなかったんじゃなくて、できないのか』

『然り。次は契約相手の正体だが……これは正確にはわからん。だが恐らく、この国の外法者ではないのぅ』


日本の外法者じゃない?じゃあ霧島は、外国で契約したのか。


『身体に火を纏う……若しくは身体そのものが火である外法者では、この国では〔火之迦具土(ひのかぐつち)〕辺りが有名だがのぅ。もしアレと契約しとるんだったら、今ごろお前さんは、灰も塵も残っとらんわ』

『……へー』


……今後は喧嘩売る相手には気をつけるようにしよう。


『だがそうなると、奴の気配に覚えがない。儂は陰陽師全盛の時代に暴れとったがの、少なくとも陰陽師どもの操っていた式神や、色々と故あって喧嘩した者の中には、奴に近い気配の者はおらんかった』


気配、か。ついこの前ならそんなもん、笑い飛ばしてたんだろうが……爺さんの言葉ってだけで、信頼に値する。


『最後に。奴の契約相手、その格だがの。精々中堅、てところだのぅ』

『……はあ!?』


中堅!?あんなとんでもない奴がか!?


『少なくとも、儂には勝てん。一発ぶちかましてやりゃあそれで終いよ』

『ちょっと待て、アイツ滅茶苦茶強えぞ!?契約者の力は契約相手関係ないのか!?』

『いや、契約相手も契約者の強さを決める大きな要素だ。だがあの男は、その要素を覆して余りあるほどに、力の使い方が巧いのよ』

『力の……使い方……』


そう言われて、少し考えてみた。


爺さんは、霧島の能力は「身体に火を纏うこと」だと言った。


なら―――あの爆発は?


『力の「総量」では、お前さんの方が圧倒的に上だ。それをあの男は、力を一点に集中させることによって、そしてその集中させる方向性によって、その差を十分以上に補っているのだ』

『力を集中させる方向性……て、なんだよ』

『密度、精度、そして速度だ。火を極狭い範囲に密集させ、そして解放することで強力な爆発を生み出す密度。それを拳の当たる瞬間だけでなく、拳を繰り出すための、あるいは身体を動かすための推進力としても使う精度。そしてそれらを、連撃を防ぎきり反撃すらして見せるほどの短時間で溜める速度。これが、奴の強さの源だ』

『……最悪だ。奴は魔人でも超人でもない、達人だってことかよ』


霧島の顔に刻まれた、無数の傷。それは多くの戦いを潜り抜けたというだけでなく、敵の攻撃を受けつつも生き残って来たという証。

それはすなわち―――初めから強かったのではなく、幾つもの戦いを経て強くなっていった、ということだ。


『油断なんぞするわけがない。奴は一瞬でも気を抜けば死んじまう戦いを、永いこと続けて来たのだからの』

『油断やら満身やらは最も縁遠い、ってことか。策を練るのも、奴のほうが上手そうだなあ……』


だとするなら、どうするか。真っ向勝負じゃ相手にならない、不意を突けるような隙もない。


打つ手は、果たして―――


「よう、お休みはもう終わりでいいか?……そろそろ再開しようぜ」

「ちっ……」

『小僧。無様に逃げ回ってでも構わん、もう少し時を稼げ』

『了解だ』

『……理由を訊かんのか?』

『必要ねえからな』

『カッカッカッ……ならその信頼に、応えねばなるまいのぅ!』


ああ、信じてるぜ、爺さん。


アンタなら、この絶望的な力量差のひっくり返し方を思い付くさ―――!


「そぅらあ!」

「おおおおおおっ!!」


凄まじい速さの剛拳を、全力で受ける。両腕を交差し、背中を丸め、足を浮かせ―――吹き飛ばされた。


「ほお……受け流したか。やるな」

「ちいっ!」

「じゃあ、これならどうだ!?」


次に繰り出されたのは、手刀の一撃。今度は爆発ではなく、爪から伸びた炎が鋭い刃となって襲いかかって来る。


「ぐあああっ!!」


炎の剣は防御した俺の腕を浅く傷つけ、傷口から入り込んだ炎が血管を焼いた。腕全体が火に包まれたような熱さに、思わず口から絶叫が漏れる。


「いっ……てえなこの野郎っ!!」

「頑丈な坊やだ、普通なら今ので全身中から丸焼けだぞ!」


やっぱそんだけの威力があったか!ふざけやがって、腕持ってかれるかと思ったぞ!


「ぬおおおおおうらああああ!!」

「うおおっ!?」


反撃の右ストレートはかわされたが、霧島はそれに多少なりとも驚いたようだった。俺の腕もかなり痛んだが、傷口を焼いてくれたおかげで、出血は最小限だ。助かったぜ、血を流し過ぎると意識が鈍るからなっ!!


「激痛どころの話じゃねえ筈なんだがな……そんな腕で殴りかかるたあ、とんでもねえ根性だ」

「それくらいしか、アンタに勝てる要素がなさそうなんでねっ!」


突き出した腕を引き戻す反動で、蹴りを放つ。それも防がれ、同時に受けた爆発に痛めつけられた。


「くそ、便利な能力だ……!」

「そうでもねえさ、要は使いようだ!」


拳の連打は通用せず、蹴りも見切られている。しかも霧島にとっては防御と攻撃は同義だ、このままじゃどんどん消耗しちまう。


やっぱ攻めるより、逃げたほうが得策か……!


「くっ……」

「……お?」


トン、と軽く退がり、霧島の間合いから離れる。距離的には大したことはないが、踏み込まなきゃ手足が届かないってだけでも大分余裕が―――


「そいつは―――ちょっと甘いな」

「っ!?」


ドゴンッ!!と、轟音が響いた時には。


既に、目の前に―――


「おらあっ!!」

「ごぼぉっ!?」


能力を使って文字通り爆発的に加速したのだろう、業火の轍を残して仕掛けて来たのは、ショルダータックル。その威力は迫撃砲すら上回るだろう。


そんなモノを受けた俺は肺の中の空気を全て吐き出し吹き飛ばされ、コンクリートの壁に勢い良く叩き付けられて―――ぶち抜いて、向こう側の部屋まで行った。


「ぐ、げぁ、はあああっ……!!」

『無事か、小僧!?』

「な、ごほぉ……なんとか……」


今のは効いた……マジで効いた。なんとか立ち上がれたが、膝が笑ってやがる。


『とにかく、ここまで吹っ飛ばされりゃあさすがに……』

『うむ。多少なりとも回復するまで、逃げながらちまちま小突け。まともにぶつかりゃあ即死するぞ』

『ああ、それは今更言われるまでもねえよ』


大穴の開いた壁の向こうから、霧島が近付いてくる。爺さんの言う通りまともにぶつかるわけにはいかないので、部屋の中にあった機械の後ろに隠れた。


―――少なくとも、呼吸くらいは整えねえとな。


「おいおい、隠れん坊か?くっくっ、童心に帰るね」


霧島は油断なく部屋の中を歩きながら、俺を探している。俺は手近に転がっていたレンチを一つ拾い、投げつけようと構え―――


「そこか」

「っ!?」


ちょい待て、この位置からじゃ絶対見えないだろうが!どうやって―――


『体温だ!奴はお前さんの体温を感知したのだ!』

『はあ!?火炎使いってなそんなことまでできんのかよっ!』

ゴウッ!

「うおおおおおっ!?」



なんかよくわからない、多分金属加工のための機械だと思うんだが、とにかくその機械が一瞬で溶断された。そしてその影に隠れていた俺が飛び出したところに、拳が打ち込まれる。


「づあっ……!」

「しぶといな、坊や」

「死にたくないもんでねっ!」


もはや服の袖が肩まで焼け落ちた腕で霧島の猛攻を凌ぎながら、なんとか突破口を探す。といっても、時間の稼ぎ方を考えるだけだが。


隠れることはまったくの無駄ではない……と思う。多分熱感知も、あまり離れていると使えないのだろう。見つかるまでに少し時間があったしな。今の状態じゃ隠れるなんざできはしないが。


つまりはどうにかして、霧島の視界から逃げなくちゃならないわけだ。さっきみたいに吹き飛ばされる方法は、もう使えない。次は死ぬ。運良く生きてても立ち上がれない。


じゃあどうするか。……とりあえず、走るか。


「む、今度は鬼ごっこか?鬼が逃げる側とはおかしな話だが」

「うるせえボケたまにはそんなことがあってもいいだろうがよっ!!」


真っ直ぐ走ったら、さっきの技で簡単に追い付かれる。だがあれは直進しかできない。方向変換はできない筈だ。


……でないと困る。


『まあ恐らく、その見立てに間違いはなかろう。あれだけの速さだ、そこから無理に進む向きを変えれば、体に負担が掛かりすぎるからの』


爺さんもそう言ってるし、小刻みに左右に動きながら走れば多分大丈夫だろう。


「へえ、一回で見切るとはな。知恵も回るようだ」


……とは言うものの、決して楽なことじゃない。全速力が出せないってだけで、ちょっと速度を抑えりゃそれなりに小回りの効く動きもできるんだから。


そして逃げている、てことは、霧島に背中を向けている、てことだ。


―――背後から迫る炎の拳はハッキリ言ってめっちゃ怖いです勘弁して下さい霧島さん。


ビュゴウッ!!

「うっひょお!?」


か、掠った!今掠ったよ耳にっ!!白髪の先っちょが黒く焦げてるよっ!!


「ったく、よく避けるもんだな……!」

「だろ!?無駄だろ攻撃しても!だからやめようぜ!?」

「そうだな、当たったらやめるよっ!」


後ろからぶっ飛んでくる榴弾じみたパンチを必死にかわしながら、走る。そして―――


「辿り……着いたあっ!!」


―――その先にあるのは、工場の外壁。


「よおおおおいしょおおおお!!」


猛牛のようにその壁にぶち当たり、ぶち破る。外に出て飛び上がり、二階の壁に取り付き更に跳び、三階の壁に大穴を開けて中に戻った。


『よし、視界から外れた!』

『今のうちに、身を隠せ!』


近場の扉を抜けた瞬間、霧島が俺を追って壁の大穴から入って来た。


……間一髪、だったな。


『ふう……一息つけるか』

『うむ。根拠もない儂の言葉を信じ、よくぞ今まで持ちこたえてくれた。―――おかげでわかったぞ。奴の契約相手、その正体が』

『本当か!?さすがだぜ、爺さん』


助かった、このままいつまでも逃げ続けられないからな。反撃の糸口を掴むためには、敵の正体は是非とも欲しいヒントだ。


『拳だけ使っとれば良かったのにのぅ。爪で斬りつけたのはまずかったの』

『爪……?それがどうかしたのか?』


確かに恐ろしい威力の爪だったが。爆発もそれに劣らずとんでもなかったし、特におかしなところは―――


『形だ。奴が生み出した火の爪。その形は―――蜥蜴のそれに似ておった』

『……トカゲ……』

『外国におっただろう?燃え盛る火炎や、溶岩の中に住むと言われるモノが』

『……〔サラマンダー〕、か』


有名なソイツは、俺でも名前くらいは知っている。この世界を形作る四大元素、それらを司る四精霊。


水の〔波の乙女(ウンディーネ)〕。


風の〔風の妖精(シルフ)〕。


土の〔地に住まう者(ノーム)〕。


そして―――火の〔火蜥蜴(サラマンダー)〕。


『なるほど……確かにあまり高位って感じはしねえな』

『土地によっては、身近な存在なのだろうよ。ある意味、この国の八百万の神々と似た概念だのぅ』


日本特有の、あらゆるモノに魂が宿るという考え方、八百万の神々。

そして地水火風という、自然そのものと呼べるモノたちを司る精霊。


……似てるか?


『とにかく、奴の正体がわかればその格も予想が付く。それと合わせて、何度も奴の攻撃を見て、その力がどれほどか、大体把握できた。―――反撃と行くかの、小僧』

『おう―――やってやろうぜ、爺さん』

『うむ。……さて、それで、儂の考えた策なんだが―――』




――――――――――




『居ないな……サラ、どうだ?』

『見つからない。まだ少し、遠いみたい』

『金鬼……だったか、坊やの契約相手は。鬼というくらいだからただの筋肉馬鹿かと思ってたが、存外そうでもなかったようだな』

『ええ。まさかこんな短い時間で、私の力が見切られるだなんて』


霧島と、その契約相手である外法者、サラマンダー。二人は自分たちの能力の一つである温度感知を駆使して、見失った鼎を探していた。


『見切ったのは金鬼だろうが、百鬼ってガキも大したもんだ。契約してまだ一週間も経ってないってのに、まさかこの俺を相手にこうまで粘るとはな』

『……ごめんなさい。私の力が足りないばかりに、あんな子供に手間取らせて』

『おいおい、俺はお前だから今まで生きてこれたんだぜ?自分を卑下するなよ、サラ』

『……そうね。今はあの子に集中しましょう』


サラマンダーと金鬼では、外法者としての格に差があり過ぎる。だがそれ以上に、霧島と鼎の、契約者としての実力には圧倒的な差があるのだ。

実力で言えば、二人が真っ向勝負をすればまず間違いなく霧島が勝つ。圧勝だろう。だが逃げに回られたことで、その身体能力の差が大きな障害となって、霧島の勝利を遠ざけていた。


『慌てず急ぐぞ。時間はあまりないが、負けちまったら元も子もないからな』

『そうね。……けどいいの?兵吾』

『何が?』

『貴方、あの子のこと気に入ったんじゃないの?』


疑問系ではあったが、その言葉には確信が込められていた。心中を容易く見抜かれた霧島は苦笑して、半身に白状する。


『やっぱり、気付かれてたか』

『当然でしょう。何年付き合ってると思ってるの?』

『くっくっ。あの坊や、契約どころか会ったのもつい最近のクセに、アウトローとあんなに固い絆を結んでやがった。最近ではアウトローをただの道具と見てる輩もいるってのに、なかなか心意気のあるガキだ』

『そうかしら?私は貴方に一目惚れだったし、貴方もそうだったと思っていたのだけど』

『いやそういうのは後にしてくれ、戦闘中だってのにニヤけちまうだろうが』


足音を立てずに歩きながら、霧島は鼎を探し続ける。


―――これは、生き残りを賭けた戦いなのだ。相手が気に入った少年であろうと、確実に殺さねばならない。


『さて……坊やの気合いの入りっぷりからして、いつまでも隠れてるとは思えねえ。そのうち仕掛けてくるだろうが……』

『できれば、早めに居場所を突き止めたいところね。あの鬼、多分今ごろ、作戦を立てているでしょうから』

『ああ。それもきっと―――俺たちを倒せるような、作戦をな』


霧島とサラマンダーは、今までに何人もの契約者たちと戦い、倒して来た。だがその歴史において、力で相手に劣っていることのほうが遥かに多かったのだ。

だから霧島は、サラマンダーの力を最大限に引き出す技を磨き、戦闘においては幾つもの策を用いて来た。


だからこそ、知っている。どれほど圧倒的な戦力差があろうと、戦いに「絶対」などない、ということを。


現に自分たちは、そうして生き残って来たのだから。


『あの子の能力で、貴方に勝つ方法……』

『坊やが鬼の力を完全に引き出してりゃ、作戦が必要になるのは俺のほうなんだろうがな。今の段階じゃ、まだ俺のほうが強い。強敵になる前で良かったぜ』

『そうね。あとはあの子の作戦を潰せば―――』


警戒しながら、廃工場を歩いていた、その時。


唐突に、轟音と共に、工場全体が揺れた。


『な、なに!?』

『わからん!くそ、アイツら何を始めやがった……!?』


音は続き、揺れも続く。それどころか、どちらも次第に大きくなっていた。


何が起きているのか。


何をしているのか。


霧島にもサラマンダーにも、それはわからない。


ただ一つ、わかることは。


―――これは、反撃の銅鑼だ。





金鬼を初めとするアウトローたちの性格は、ほぼ私の妄想です。文献等とは大きな違いがあるかもしれませんが、ご容赦ください。

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