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OUTLAWS  作者: 七四
第一章 人も歩けば鬼に当たる
3/16

その三 力の矛先

「その三」と「そもさん」て似てますよね!




はいどうでもいいですよねわかってます言ってみただけですごめんなさい。

「ふぁ……」

「よ、薫。おはよう」

「おはよ……て、お兄ちゃんっ?」


 午前六時。青いパジャマを着た薫があくびをしながらリビングに出てきたので、しゅぴ、と手を上げて出迎えた。

 するとなにやら驚いた顔をされた。まあ当然か、今まで薫が起きるより早く、新聞配達から帰って来たことなかったからな。

 ポカンとしている薫の顔を眺めながら、適当に淹れたコーヒーをすする。


「……なんか不味いな。薫、淹れ直してくれよ」

「あ、うん。ちょっと待っ……ちょっと待ってよ!」

「待つけど」

「そうじゃなくって!なんでこんな早くに帰って来てるの?お兄ちゃん、今日バイト休んだの?」

「いや、行ってきたぜ」


 爺さんと契約したおかげだろう、どう考えても人間の限界を置いてきぼりにした速さで走れ、しかもそれをずっと続けてもほとんど疲れない。今なら高速道路だって走れそうな気がする。

 その脚力を惜しげなく使ったおかげで、今日も間違うことなく、配達を完遂できた。嗚呼、働くって素晴らしい。


「けど今までより随分早いね」

「今朝から本気出した」

「……けど今までは息が荒かったのに、今日は汗ひとつかいてないよね」

「日々の鍛錬の賜物だな」

「だからってそんなに早く体力つくわけないでしょ!」

「まあ落ち着けよ。ほら、朝の牛乳だ」

「あ、ありがと」


 薫に爺さんや契約のことを知られるわけにはいかないので、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注いで渡す。小柄かつ華奢な薫が、俺のように大きくなりたいとお小遣いを奮発して買って来た、栄養満点の高級牛乳だ。


「んく、んく、んく……」

「………」


 ……両手でコップ持つなよ、すげえ幼く見えるぞ。


「ぷは……ふう。それじゃ、朝ご飯作るね」

「おう、頼むぜ」


 流されやがった。寝ぼけてんのか?まあ好都合だが。コーヒーの淹れ直しも流されたが。


『お前さんの妹か?めんこいのぅ』

「……弟だ」

『………………カッカッカッ、嘘はイカンぞ、小僧』

「いやマジだって」

『………………マジで?』

「うん、マジで」

『………………世が世なら、攫われて遊郭に売られそうだのぅ』

「オイコラぶち殺すぞジジイ」


 人の弟になんてことを言いやがる。コイツは毎日、男らしくなるための筋トレを欠かさないんだぞ。


 ……力は付いてるのに、見た目細いままという謎体質だが。


「お兄ちゃん、何か言った?」

「いや、何も」

「んー?何か聞こえた気がしたんだけどなあ……」

『ふむ……人が居るところでは、ちと話しにくいか』

「……そうだな。悪いが爺さん、しばらく黙っててくれ」

『おうさ。……ああそういや言い忘れとったが。別に声を出さんでも、意識すりゃあお前さんの言葉は儂に届くぞ』

『それを早く言えよっ!』


 いきなり上手にできましたっ!


『さっきも言うたが、外法者とその契約者は魂が繋がっておる。意思の疎通に、声などというモノは無用なのだ』

『……言われてみりゃあ、爺さんの声は俺にしか聞こえないんだもんな』


 声―――つまり音とは、空気の振動だ。周りの人間に爺さんの声が聞こえないってことは、正確に言えばそれは「声」ではない、ということだ。

 ……まあ、頭の中に直接響くしな。テレパシーとかそういう系のもんだとは思ってたが。


『いよいよファンタジーだなあ……今更過ぎるけどよ』

『しかし便利だろう?使わぬ手はあるまいて』

『ああ、ありがたく使わせてもらうさ。別に文句があるわけじゃねえんだから』


 だがまあ、慣れるまではうっかり声に出しちまうかもしれん。気をつけねえとな、頭のかわいそうな人と思われないように。


「……ん?」


 台所で鼻歌を歌いながら朝食を作ってる薫の背中を眺めていると、ふと気付いた。


 いつもは薫製味噌汁の匂いに誘われて現れる姉ちゃんが、まだ起きて来てない。


 ……まさか。


「おーい、薫」

「なあに?お兄ちゃん」

「姉ちゃん、結局帰って来なかったのか?」

「うん……お仕事、忙しいみたいで」


 帰宅すらできんとは、相当だな。


 ……爺さんと契約して、まず普通の人間に負けることはなくなったしな。いっそ俺が連続殺人鬼を誘き出してぶちのめす、てのも良いかも。


「お兄ちゃーん?なんか物騒なこと考えてない?」

「失敬な。姉ちゃんの手を煩わせる不届き者を俺が殺して連続通り魔殺人のフィニッシュを犯人自身の死で飾ろうかなー、くらいのもんだ」

「この上なく物騒だしお姉ちゃんが余計大変になるだろうから絶対にやめてね」


 しまった、思ったことをつい声に出してしまった。やはりまだテレパシーに慣れてないか。


「その連続通り魔殺人だけどよ、最初の被害っていつだ?」

「えーっと……半月……んー、もう三週間くらい前かな?」

「……何人殺られてる?」

「……三人、だよ」


 ―――三週間で、三人。週一か、かなりのペースだな。


 そんなとんでもねえのが街をうろついてんのに、なんでウチの学校は生徒に何も言ってねえんだ?


「被害者の人たちは、みんなナイフで何回も切られてたんだって……」

「通り魔なのにか?」

「うん。それで警察も、最初は強い恨みが動機の犯行だと思ってたみたいなんだけど」

「全然関係ない人が同じように殺されて、通り魔だって判断した……て感じか」

「うん……そうみたい」


 初動捜査の遅れ、てヤツかね。街で警察官のパトロールが強化されだしたのも、三週間前よりは最近だったと思うし。


『しかし人を切り刻んで殺す通り魔なんて、ジャック・ザ・リッパーみてえな野郎だな』

『なんだ、そいつは?』

『昔、イギリスって国のロンドンって街に出た猟奇殺人鬼だよ。売春婦を何人も殺しては、その死体をバラバラにしたり内臓を取り出したりしたんだとさ。そんで犯人は、今も分からないままらしい』

『……前々から思うとったが。人間は儂らを化け物だなんだと騒ぎよるが、どの口でほざくかと言うてやりたくなるのぅ』

『同感。よく「こんな非道いことをするなんて、人間じゃない」とかいうセリフがあるけどよ。俺に言わせりゃ、「こんな非道いことをするなんて、人間以外にいない」のほうがしっくりくるぜ』


 今は外法者の存在を知ってしまったので、また少し考えが変わるかもしれないが。

 爺さんは見た目はともかく、性格は俺の中の鬼のイメージとかけ離れていて、なんというかそこら辺に住んでる好々爺っぽい。だが話を聞く限りでは、外法者は人間以上に多種多様な性格がありそうで、爺さんみたいなのが一般的ってわけでもないのかもしれないのだ。


 真に化け物と呼ぶべきは、残虐な人間か、それとも人間を超えた力を持つ外法者か。


 それが、今の俺には判断が付かない。


「はい、できた。お兄ちゃん、お皿お願い」

「あいよ」


 む、今朝は厚焼き卵にほうれん草のおひたし、それに鮭の切り身か。ご飯も味噌汁も、実にいい匂いを漂わせている。


「「いただきます」」


 というわけで食べ始めたわけだが、せっかくだし久々にニュースでも見るかとリモコンを操作、テレビを点ける。ニュースキャスターが貼り付けたような笑顔で今日の天気予報を読み上げ、そして今世間を騒がせている連続通り魔殺人についての話題に入った。


「犯行は深夜の人気のない時間に行われたため、目撃情報がなく、捜査は難航しているようです。警察は市民に、夜間での外出は極力控えるように呼び掛け―――」

「……やっぱ、まだ捕まってねえか」

「うん……証拠も全然残ってないんだって」

「ふうん……」


 ただの通り魔じゃあなさそうだ。計算高く、計画性もある。でないとこんな、完全犯罪じみた犯行を続けられるわけがない。


 ……厄介だな。狙う相手も何かしらの目的があって決めてるのならまだやりようがあるかもしれんが、それだけは気まぐれだとしたら―――


(警察に、どうにかできるのか―――?)


 別に警察が無能だとは思っていない。むしろ彼らは、この上なく優秀だ。なにせ彼らは、「ルールを守って」戦っているのだから。


 考えても見てほしい。犯罪者ってのは、ルールを破った者。もとからそんなモノに縛られない連中だ。

 だが警察は、犯罪者がルール無用だからといって、ルールを破るわけにもいかない。彼ら自身がルールを守らせる存在である以上、ほんの些細なルール違反でも、世間から攻撃される要因となるからだ。


 例えるなら、犯罪者はアメフトのルールで戦っていて、警察はそれを相手に、サッカーのルールで戦っているのだ。

 ……そんなのが、まともな試合になる筈がない。ガッチリ抱えられているボールを、脚だけで奪うなんてことは神業どころの話じゃないんだから。


 しかも警察は、犯罪を未然に防ぐというのも役目である以上、究極的に言えば全ての人間を疑わなければならない。善良な一般人も、身内ですらもだ。

警察とそれ以外の人数比は、数百人に一人。数の利さえ相手にあり、ルール的にも圧倒的に不利な中で、それでも少しずつ、確実に実績を挙げているのだ。


 優秀だろう。十分以上に。


 だが、だからこそ。


 この殺人鬼に、対応できるか―――


(……俺がやる、てのも、本気で考えとくか……)

「ごちそーさん」

「あ、早い!?だめだよお兄ちゃん、ちゃんとよく噛んで食べないと、体に悪いよ」

「おっとすまん、お前の朝飯が美味すぎて、ついがっついちまった」

「えっ、そう?……えへへ、僕の料理の腕も上達してきたかなあ、えへへへ」

「………」


 顔を赤らめるな、知り合いから「弟さんを僕にください」と言われるたびに殴り倒す俺の身にもなってみろ。


「さーて、シャワー浴びて来るか」

「いってらっしゃい。……あ、シャンプー詰め替えといたから」

「おー、サンキュ」


 まったく、いつもながら良く気がつくいも……弟だぜ。兄として誇らしい限りだ。




――――――――――




「くああぁぁ……」

「おはよ、カナちゃん!今日も眠そうだね」

「だからその呼び方やめろよな、柊」


 一年の歴史を誇るこの遣り取りも、いい加減飽きてきたな……。


 とにかく、いつものように爽やか極まる挨拶をしてきた柊と合流し、学校に向かう。昨夜の大事件のことを忘れてしまいそうなほど他愛のない会話をしながら歩くと、見慣れた馬鹿デカい学校が見えてきた。


「笠田先生、今日はいないね」

「あんなのが毎朝校門で張ってたら、不登校児が大発生するぜ」


 その中に俺が含まれていることは間違いないだろう。


「相馬君、今日はいつも通り遅めだね」

「いつもギリギリなクセに遅刻したことはないってのは、真面目なのかどうなのか、判断に困るところだな」


 さてと、ホームルームまでまだ少し時間があるな。というわけで、鞄の中から携帯電話のカタログを取り出す。


「んん?カナちゃん、携帯電話変えるの?」

「ああ、昨日壊れちまってな」


 銃に撃たれて―――とは、口が裂けても言えんが。


「あー……わっかんねえな。ケータイなんてどれも同じに見えるぜ」

「うーん、あんまり使わない人にとってはそうだよね……」


 つーかなんだよ、この数は。一冊丸々携帯電話だと?とんでもねえな。


「カタログってそういうものだよ、カナちゃん」

「人の心を読むなよ」

「口に出してたよ……」


 む、またか。やはり早いとこ、テレパシーに慣れないとな。


「おいすー。ぐっもーにん」

「よお、景虎」

「おはよ、相馬君。今日はちょっと早いね」

「おー、二年になって心機一転しようと思ってさ。ちょっとずつ登校時間を早くしようかと」

「三日に千円」

「うーん……じゃあ私は、四日に千円」

「賭けんなよっ!しかもどっちも短けえし!」

「おい柊、このカウントには昨日も入ってるんだぜ?」

「うん、わかってるよ、カナちゃん。……それでも私は、相馬君ならやってくれるって、信じてる」

「良いこと言ってるみたいなつもりかもしれんがお前も相当失礼だからな柊ィっ!!」


 朝から元気なヤツだな、相変わらず。かなりの夜更かし常習者なはずなのに。


「お?なんだ鼎、ケータイ買うのか?」

「ああ。けどどれにしたもんか、迷っててな」

「どういうのがいいの?」

「頑丈なヤツ」

「頑丈……あ、これなんかどう?トニーの新作で、象が踏んでも壊れないんだって」

「銃に撃たれても壊れないってのはないのか?」

「「え?」」


 ……しまった、つい。


「けどこれ、多機能って書いてあるぜ。そんなの使い切れねえよ」

「んじゃこれならどうだ?機能はシンプル、最先端の防水防塵加工がされていて、海中でも砂漠でも、果ては泥の中でも故障しない、キョーシバの新作だ」

「防弾加工ってのはないのか?」

「「え?」」


 ……しまった、またもやつい。


「……ねえ、カナちゃん」

「お前もしかして、撃たれたのか?」

「イヤイヤマサカナニヲイッテルンダオマエラハ」

「撃たれたのかよっ!」


 馬鹿な、何故バレた!?


「……カナちゃん……」

「そうか……暴走族では飽きたらず、ついにヤクザの事務所にまで乗り込んだか」

「お前らは俺をなんだと思ってるんだ」


 つーか景虎、去年族を壊滅させた時はお前も一緒に居ただろうが。俺が単騎で乗り込んだみたいに言うなよ。


「カナちゃん……無理しちゃダメだよ。カナちゃんに何かあったら、司さんも薫君も悲しむよ」

「俺はちゃん付けなのに薫は君付けなのがちょっと納得行かないが、まあ……努力する」

「タダでさえ近ごろ、危ねえヤツが街をうろついてるらしいからな」

「危ねえヤツ……連続通り魔殺人鬼のことか?」

「うん。被害に遭った人は年齢も性別も職業もバラバラで、つまり誰でも襲われる可能性があるんだって」

「へえ……やっぱみんな、ちゃんとニュース見てんだなあ」

「何言ってやがる。先週から、毎朝ホームルームで言ってるだろうが」

「……………………え?」


 ……話してたのか?え?マジで?


「……聞いてなかったの?カナちゃん」

「……おう」

「朝礼でも言ってたぞ」

「悪い、俺、立ったままでも寝れるんだ」

「そんなこと自慢しないでよっ!」


 むう……少な目の睡眠時間を少しでも確保するべく、授業以外の時間は寝るようにしていることがこんなところで裏目に出るとは……。


「ごめんなさい、校長先生。俺、あなたが何も対策してないお馬鹿さんだと思ってました」

「失礼過ぎるよ……」

「毎朝一生懸命注意を促してるのに全部聞き流しやがって……」


 返す言葉もない。これは完全に、俺が悪い。


『お前さん、失礼なのは儂だけにではなかったんだのぅ』

「……っ!?」

「ど、どうしたの、カナちゃんっ?」

「あ、いや、なんでもない……」

『いきなり話しかけてくんなよ、爺さんっ』

『カッカッカッ、これはすまなかったの、小僧。だがお前さん、随分楽しそうだからのぅ。ちぃとばかり、混ざってみたかったのだ』

『ふん……良い歳したジジイが何言ってやがる』

『カッカッカッ……しかしお前さん、良い友に恵まれとるのぅ』

『……まあ、良いヤツだよ、二人とも』


 この二人と居る時間は、俺にとって、家族三人で居る時間に次いで好きな時間だ。


 ……だからこそ。


「まあ、大人しくしてるさ、しばらくはな。それでもバイトには行かなきゃならねえから、どうしても夜遅く出歩くこともあるだろうから―――」


 この時間を崩壊させる可能性。


 その元凶となる、可能性。


 柊が、景虎が、そしてあるいは、薫が―――


 ―――殺される、可能性。


「―――もし、出会っちまったら」


 そんな可能性は。


「ぶちのめしても、そんでちょーっとばかし、やり過ぎちまっても」


 俺が、この手で。爺さんから与えられた、この力で。


「正当防衛ってことで―――しょうがねえよなあ?」


 ―――根こそぎ、ぶっ潰す。




――――――――――




 同時刻。亜麻原市内の、とある廃工場にて。


「……んで、状況はどうよ?」

「はい。裏切り者は処分しました」


 十人の黒いスーツを着た男たちと、その上からさらに黒いロングコートを着た男が一人、向かい合い話し合っていた。


「それはわかってんの。俺が訊いてんのは、アイツが持ち出した「商品」のことだよ」

「……それは」


 質問に対して言いよどむ黒スーツの男たちに、黒コートの男は呆れたように溜め息をついて、煙草をくわえる。


「やーっぱ、まだ見つかってねえか。……参ったね、こりゃ」

「も……申し訳、ありません……」

「謝ってどうすんのよ。それで何か解決すんの?」

「………」


 黒コートの男がくわえた煙草の先端を、指でトンと叩く。すると煙草に火が付き、白い煙を立ち上らせた。


「……ったく、どうすっかね。このままじゃあ、俺らみーんな、消されちまうぜ」

「す、すぐに見つけますっ、ですから……!」

「見つけて、それで?」

「そ……それは……」


 大きく息を吸って肺を紫煙で満たし、そして吐き出す。

 気怠げなその仕草一つ一つに、黒スーツの男たちは警戒するように身を震わせる。


「お前らが回収してきたヤツら、なんて言ってたっけ?」

「……「商品」の一つが、子供に拾われ……〔契約〕した、と」

「だろ?てえことは、だ。お前らだけで「商品」を回収すんのは不可能、てわけだ」


 その事実を突きつけられ、黒スーツの男たちはいよいよ怯え出した。


 ―――失敗は、既に自分たちでは取り返せないほどに、大きなものになっているのだ。


「お前らだけでできねえなら、俺が出るっきゃないでしょーよ」

「はっ……そ、それで……」

「あん?」

「わ……私たちは、どうすれば……」


 顔を青ざめさせる男たちに、得心が行ったように頷く黒コートの男。


「なるほど、俺に処分されねえか心配なわけだ、お前らは」

「い、いえ、そんなことはっ……!」

「ククク……まあ安心しろ、俺にそのつもりはねえよ。部下の失敗は上司の失敗、今回のことを知られりゃあ、俺も処分されちまうんだからな。立場は一緒さ」


 危機的な状況をくつくつと笑いながら話す黒コートの男に、男たちは戦慄すると同時に、安堵する。


 ―――この人ならば、もしかしたら。


「それを避ける方法は一つだけだ。一刻も早く「商品」を回収して、裏切り者から取り返したことにして報告する」

「やはり、それしか……」

「他に良い案があるなら聞くけどよ。……ま、そのためにはお前らの協力も必要だから、俺がお前らを処分することはねえって」


 再び煙草を吸い、煙を吐き出す。


 その白色を眺めながら、男は続けた。


「とりあえず、そのガキを見つけてくれや。じゃなきゃ話にならねえかんな」

「はっ、すぐに……」

「任せたぜ、皆の衆」

「はい。……それで、霧島様は……?」

「様付けかよ……ま、それは置いとくとして」


 黒コートの男―――霧島は、呆れたように頭を抱え、そして自らの部下たちに指示を出す。


「見つけて、そのガキをここに連れて来い。……誘き出せ、て言うべきかね。まあとにかく、街中じゃあ目立っちまうからな」

「わかりました」

「後は俺がやるよ。丁度都合の良いことに、今この街にゃあ殺人鬼がいるらしいからな。ガキ一人くらい消えたって、どうにでも誤魔化せる」


 話はこれで終わりだと立ち上がり、霧島は煙草を投げ捨てた。


 ―――その煙草が、地に着く前に、灰すら残さず燃え尽きる。


「んじゃ、始めてくれや。……生き残るための、お仕事をよ」


 生き抜いてきた世界の過酷さを思わせる、傷だらけの顔を歪め、霧島は笑う。そして背後の、誰もいない空間に声を掛けた。


「さて。……悪いがいつも通り、お前の力を貸してくれや」


 その声に、応えるように。


 ゆらり、と。陽炎のように、その空間が、揺らめいた。





敵の契約者が契約している相手が誰なのか、というのも、楽しむ要素にできるよう頑張って行きたいです。

某ゲームのサーヴァントみたいなっ!

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