その十 夜道を往く
やはりあの投稿ペースを続けるのは無理でした……ごめんなさい。
『……なあ、爺さん』
『……なんだ、小僧』
景虎と柊の追撃から逃れ、ようやく帰宅した俺は、薫への挨拶もそこそこに家を出た。薫にはバイトに行くと言ったが、もちろんそんなものは大嘘だ。
―――俺は、殺人鬼を探しに行くのだ。
『気のせいだったら良いんだけどよ』
『そうだの。それならどれほど気が楽かのぅ』
と言っても、先週のハードスケジュールはもう懲りた。あれは無理だ、あんなのは長く続かない。
だから今日から新しい作戦として、暗くなるまで近所の公園で寝ることにした。
この公園はお世辞にも広いとは言えず、遊具も少ない。少し離れたところにもっと広くて遊具も充実した公園があるので、この辺りの子供たちはみんなそっちに行く。つまりはこの公園には、ほとんど人が来ないのだ。
とは言え、普通に寝そべってたらさすがに見付かり不審者扱いされるのは目に見えているので、この公園の数少ない遊具の一つ、穴の開いたコンクリート製のドーム(名前は知らん)の中に新聞紙を敷いて寝転んだ。
……ホームレスになった気分だ。
『けどどう考えても、気のせいじゃねえよなあ』
『そうだのぅ。いくら煩わしくとも、現実は受け止めねばならん』
寝心地は最悪だったが、立ったままでも眠れるという特技を持つ俺にはそんなことは些細なことだ。しっかり爆睡し、ケータイのアラームで目を覚ました頃には、今まさに日が沈むところだった。
殺人鬼探しに丁度良い時間。公園を出て、街に繰り出したのだが―――
『……まだ付いて来てるなあ』
『……まだ付いて来てるのぅ』
しばらく経った頃から、俺から距離を置いて、しかし離れ過ぎないように、一人の少女が付いて来ていた。
その顔には、見覚えがある。
―――ていうか鐘井明日香じゃねえか何してやがるアイツ。
『なんなんだ、アイツ』
『儂が知るわけなかろうよ。いくらなんでも、あんな短い付き合いで追っ掛けになるとは思えんしのぅ』
殺人鬼の出現により、夜の街には人が少ない。あんな見るからに高校生の女の子が歩いていれば、どうしたって目立つ。尾行下手くそだし。
『……このままってのは、マズいよなあ』
『マズいのぅ。連れ歩くにしても、振り切って置いて行くにしても、あの小娘の身に危険が及ぶやもしれん』
当然、殺人鬼探しに鐘井を連れて行くわけにはいかない。そしてこの数日、夜の街に居るのは、仕事やらなんやらの理由がある者以外は、ほとんどが不良や犯罪者予備軍だ。中には本物の犯罪者もいるだろう。そんなところに女の子を置いて行くなど論外である。
『……帰ってもらうしかねえよなあ……』
『それしかないのぅ。あの小娘が荒事に巻き込まれるのは、お前さんの望むところではあるまいよ』
『……俺ぁそんな善人じゃねえよ。アイツが勝手に付いて来て、その結果どんな目に遭おうが知ったこっちゃねえ。……ただ―――忠告くらいは、する責任があるかな、てだけだよ』
『カッカッカッ……素直じゃないのぅ』
とにかく、鐘井にはお帰り頂かなきゃならん。
しかしどうするか、なんで付いて来てんのかもわかんねえしなあ。その目的によっては、いくら説得しても無駄な可能性がある。
何せこんな物騒な時分に、夜の街を一人で出歩くくらいだ。ただの危機意識皆無な平和ボケガールならいいが、そうでない場合はそれなりの覚悟をして来てるのだろう。
『……しゃあねえ。ここはアレだ、アイツの目的がなんであろうと帰りたくなるような、誠心誠意を込めまくった説得をするしかねえな』
『……なにやら、不穏な気配を発しとるのぅ、お前さん……』
うるせえ、なんとでも言え。
―――さて。
普段は鬱陶しいだけのこの容姿、たまには、役に立ってもらうとするか―――
――――――――――
「………」
とある理由から鼎を尾行する少女、鼎と今日出会ったばかりの私立姫榊高校一年生、鐘井明日香は、付かず離れずの距離を保ちながら、鼎を追って夜の街を歩いていた。
鼎は明確な目的地も無く、あちらこちらへフラフラと足を向けていたし、歩幅が広いために歩く速さも結構なものだったが、見失わないように追うことは難しくなかった。街は普段と比べてかなり人気が少ないことに加えて、鼎の長身と特徴的な髪がなによりの目印となっているからだ。
故に明日香は、電信柱や看板などの物陰を移動しつつ、さ迷うように街を歩き回る鼎を追い続けていた。
―――ちなみに、自分の尾行がバレバレであることなど、露ほどにも思っていない。
「………」
時刻はそろそろ11時。それを過ぎれば、警察官に見付かった場合、明日香は補導されてしまう。それは鼎も同じであったが、しかし鼎は警察官のパトロールコースを大体把握しており、それを上手くかわしている。必然、明日香が警察官に見付かる可能性も低くなる。明日香本人は、そんなことはまったく気にせず、開始とほとんど同時に気付かれている尾行に集中していた。
「……あっ」
鼎が道を曲がり、建物の隙間へと入って行く。視界から消えた背中を追って、その入口まで走った。
壁に寄り、角の向こうを慎重に覗き込むと―――
「!?あ、あれ……!?」
―――いない。
慌てて身を乗り出して良く見てみたが、鼎の姿はどこにもなかった。
角の向こうは狭く暗く、まさに路地裏という言葉がピッタリ当てはまる。だがそこは、少し進めば行き止まりになっている。出口は無く、隠れられそうな場所もない。
なら、一体どこへ―――?
「―――よお」
「っ!?」
不意に、後ろから声を掛けられた。
驚いて、振り返る―――よりも速く、背中を押されて、路地裏へと押し込まれた。
「あうっ」
突然のことにつんのめったが、なんとか踏ん張って、倒れることは防いだ。運動神経には自信があるのだ。
そして今度こそ、振り返る。
そこに居たのは―――
「かな―――むぐっ!?」
大きく、ゴツゴツした手が、明日香の口を塞ぐ。その手を振り解こうとしたが、ガッチリと掴まれていてビクともしない。それどころか、手を振り解くために持ち上げた手も掴まれて、路地裏の壁に押し付けられた。
「もが……むぐうっ!?」
「よお、鐘井明日香。ちょっとぶりだな?」
―――そこに居たのは、明日香が尾行していた、百鬼鼎。だがその表情は、昼と放課後に見た、いかにも気怠そうなモノとはまるで違う。
まさしく不良の―――それもとびきり質の悪い不良の、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「なんかさっきっから、俺のことつけてたみてえだけど。なんの用だ?」
「む……ぅ……!?」
ギリギリ。ギリギリ。
掴まれた手首をきつく締め上げられて、骨が悲鳴をあげる。このまま続けられれば、関節が外れるのも時間の問題だろう。
だがそんなことは、今は些細なことだ。
それよりも、自分を見下ろし、覗き込んで来る。
―――その、禍々しい、眼が。
捕食者が獲物に食らい付くのには、似ても似つかない。
―――三日月のように歪められた、口元が。
それらが形作る、なんともおぞましい。
―――悪鬼の如き、その貌が。
―――恐ろしい。
「お前みたいな女の子がさあ。こんな時間に、一人で出歩いてちゃあ危ないぜ?」
「……っ!?」
ギョロリ、と瞳が動いて、明日香を―――明日香の身体を見詰める。
それどころか、匂いさえ感じられるほどに顔を近付け。
上から順に、舐め回すように見下ろして行った。
「ふ、ぐぅっ……!!」
「くくく……まあそんなことは、俺に言われるまでもなく、わかってるよなあ」
生理的な嫌悪を感じて、明日香は思わず顔を逸らし目を閉じて、身をよじる。
しかしどれだけ必死にもがいても、鼎の手からは、ほんの僅かにも逃れることはできなかった。
「知ってるか?ここには街灯の灯りが入らない。この時間じゃあ両隣のビルには誰も居ないし、最近じゃあ表にもほとんど人が居ない」
「……っ!!」
耳元に口を寄せ、不気味なほど優しく囁く。
その声が鼓膜を震わせるたび、まるで毒のように、恐怖が染み渡って行く。
「わかるか?ここは、学校とは違う。誰もお前を助けに来ない。俺も―――遠慮する必要なんかない、てことさ」
「っ!?んぐ、ふぐぅっ、むがぐっ!!」
ニィィィ、と音が聞こえそうなほどに、さらに笑みを深める鼎に、いよいよ恐怖が限界に達する。
全身でもがき、自由な手で殴りつけたり蹴ったりするが、屈強な鼎にはまったく効果がない。
「……ああ、なるほど。それで俺をつけてたのか」
「んむっ……!?」
「お前も―――それが目的だったんだろ?」
「っ!!?」
考えの透けて見える、下卑た笑み。
パックリと口が開き、そこから伸びる舌が明日香に近付く。
それが、顔に触れる―――直前に。
「むが―――がうっ!」
ガブッ!!
「っつ……!」
口を塞ぐ手、その指に噛み付き、鼎が僅かに怯んだ隙に拘束を振り解いた。
そのまま駆け出し、一目散に逃げる。
「う、くっ……うううぅぅぅぅ……!」
必死に歯を食い縛り、漏れそうになる嗚咽を飲み込む。だが涙をこらえることはできず、ポロポロと、両目から溢れ出て顎を伝い、落ちる。
(覚悟……してたのに……!)
鼎を追ううちに、大分治安の悪い所まで来てしまった。人はほとんどおらず、居るとしても柄の悪そうな連中ばかり。
それらにできるだけ意識を向けないように、先ほどの恐怖を思い出してしまわないように、ただひたすらに、走る。
(どんな目に遭っても、絶対にって……覚悟、してたのにっ……!!)
目的があった。だから危険を承知で、夜の街に出た。鼎を見付けて、追い掛けた。
―――なのに。
「……やっぱり……怖いよ……!」
恐怖と悔しさに、涙を流しながら。
明日香は、家への道を走る。
―――それはまさに、敗走だった。
――――――――――
『……名演技だのぅ。様になっておったぞ、小僧』
『……勘弁してくれ。ただいま絶賛自己嫌悪中なんだよ、俺は』
手を額に当てて、深々と溜め息を吐く。かなり憂鬱だった。
『……泣いておったのぅ、あの小娘』
『……泣かせちまったなあ、女の子を』
押しの強そうな子だったから、普通に言うだけじゃ聞かないと思ってあんな手を使ったんだが……。
……正直、やり過ぎた……。
『だがまあ、あれだけ脅かされれば、流石にこれ以上は付いて来まいよ』
『当たり前だ。あれでまだ付いて来るようだったら問題あるぞ、アイツ』
それに俺の言ったことは、俺にはその気がないというだけで、実際には十分有り得ることだ。不良が相手であれば尚更であり、俺もその不良にカテゴライズされる人種なのだから。
今日は俺も鐘井に気付いたからいいものの、そうでなかった場合、そういう連中に物陰に連れ込まれでもしたらどうにもならない。尾行の目的がわからないということは、今日だけなのかどうかもわからないのだ。明日も明後日も、と続けているうちに、本当にそうなる可能性は無視できるものじゃない。
……なにせ、その果てにある結末は。
女の子には、あまりにも辛過ぎるものなのだから。
『しかしあれだな、アイツに警察に駆け込まれたら厄介だな』
『ちゃんと説明すれば良いのではないか?自分がいかに危険なことをしておるのかを教えるためであった、と』
『問題は警察そのものじゃねえの。そこから姉ちゃんに話が伝わったら……言い訳する暇もなく、殺される』
ああ、鬱だ。滅茶苦茶鬱だ。やっぱり他人と下手に関わると、禄なことにならない。今回のことで、改めて痛感した。
『とにかく、これで邪魔者は居なくなった。再開するか』
『……いや、そうしてえのは山々なんだけどよ。もう大分遅くなっちまった。そろそろ帰らねえと』
『ふむ……今日はあまりはかどらなかったのぅ』
『そうだなあ。いい加減、なにか進展が欲しいところだぜ』
殺人鬼が見付かるとか、殺人鬼が捕まるとか、俺が殺人鬼に襲われるとか。
さもないと、そのうち姉ちゃんにバレて酷い目に遭わされる。
『……帰るか』
『そうさの』
というわけで、鐘井に続き俺も帰宅。今日も姉ちゃんはまだ帰ってなかった。
……そうでないと困るのは俺なんだが、やっぱ複雑な想いだ。
『明日もまた、朝から探すのか』
『ああ。一日だってサボるつもりはねえよ』
最近疲れが溜まってるせいか、布団に入ると即熟睡だ。元々寝付きも寝覚めも良いほうではあるから、寝坊したりはないが。寝坊云々どころの時間に起きていないが。
『……しかしアイツ、ちゃんと家に帰れたかね』
『そこはお前さんが心配しても仕方あるまいよ。それにあの小娘は、お前さんが連れ出したわけではない。彼奴が勝手に付いて来たのだ。その結果なにがあろうと、彼奴自身の責任であろう』
『そういう問題じゃねえんだよ。……なんつーか、知り合いに何かあったら、気分悪いだろ』
『……まったく、お前さんは。責任感があるのかないのか、ようわからんのぅ』
責任感、か。どっちかってえと―――ていうか間違い無く、俺は無責任なんだろうが。
ただ。本当に、ただ。
知り合いに何かあると、気分が悪い。
それだけなんだよ。
――――――――――
―――翌日、放課後。
「……あ」
「……っ」
廊下でバッタリ、鐘井明日香に出くわした。
「……………………よお」
「っ!」
軽く手を上げて挨拶したが、鐘井はビクッと身を竦ませて、涙目で走り去ってしまった。そのリアクションを見て、周囲からヒソヒソと話す声が聞こえる。
……内容はどれも、「今度は何をしたんだアイツ」的なモノだった。
失敬な、俺は月に一度くらいしか問題は起こさんぞ。しかもそのほとんどが巻き込まれる形のモノだし。
「「じぃ~~~~……」」
「………………」
だがそんな周囲のヒソヒソ声よりも、気になる視線が二人分。
「「じと~~~~……」」
「…………う…………」
景虎と柊だった。なんか曲がり角の影から、ジト目で俺を睨んでいる。
「………………なんだよ、お前ら」
「べっつにー。なんでもー。」
「カナちゃん……何したの?」
「いや……ちょっと」
正直に言ったら……どうなるだろう。柊は……マジでどうするかわからん。泣くか、それとも説教されるかだと思うが。
景虎は……姉ちゃんに密告するだろうな。コイツは俺の恐れていることを熟知している難敵なのだ。
「正直に言えや。あの反応、よっぽどのことがあったとしか思えねえぞ」
「カナちゃん……後輩の女の子に、ヒドいことしたの?」
「何もしてない。バイト帰りに街で会ったから、ちょっと挨拶しただけだ」
「それだけか?本当にそれだけか?それだけであんなに怯えられるか普通?」
「……夜遅かったから、こんな時間に一人で出歩くと危ないよ、と親切に教えてあげただけだ」
「「………………………」」
「なんだその目はっ!?さてはお前ら、信用してねえなっ!?」
「当っっったり前だボケェッ!!んなこと信じられるわけねえだろうがっ!!」
「なんだとうっ!?」
俺は嘘なんか吐いてない!ただちょっと真実をボカシて伝えただけだっ!!
「カナちゃん……本当に、ヒドいことしてない?」
「………………………してない」
「「嘘だっ!!」」
くそう。バレバレじゃねえか、どうすりゃいいんだっ!?
「説明しろっ!さもねえと司さんに言い付けるぞっ!!」
「馬鹿野郎てめえそれだけはやめろ殺す気かっ!?」
「うるせえボケてめえはいっぺん死んどけっ!!」
「ならここでてめえの口を封じるしかねえなあっ!!」
「やってみろやあ!!」
「ちょ、ちょっとカナちゃん!相馬君もっ!やめて、ケンカは良くないよっ!?」
『……儂は手を貸さんぞ、子供の喧嘩にはの』
「「死にさらせオラァッ!!!」」
ズドバギィッ!!
廊下に響き渡る、重い打撃音。俺のチョッピングライトと景虎のハイキックが、互いの顔面に直撃した音だった。
そして始まる、拳と蹴りの応酬。爺さんは言葉通り、俺に一切の力を貸さなかった。つまりまったくの生身、普通の人間としてやり合うことになったわけだが―――
「フッ!」
「シィッ!」
「せりゃ!」
「でぇい!」
「死ねええええええええっ!!!」
「くたばれええええええっ!!!」
「もう、二人とも!やめて!やーめーてーっ!!」
「「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」
ドゴズカバキグシャドンガラガッシャン。
俺も景虎も慣れたモノで、周囲に被害が及ばないように殴り合い蹴り合う。周りの生徒たちは慌てて逃げるか、やんややんやと声援を送りヒートアップするか。
―――結局、騒ぎを聞きつけた教師陣がやって来る頃には。
俺は、しっかりノックダウンされていた。
「ぐぞう、景虎のやろお……今に見でろ、いづが必ずぶっどばじでやるう……」
『ふむ。それなりに体格差があるというのに、ものともせんとはの。やはり此奴、なかなかの資質よのぅ』
……まあ、予定していたよりも、大分流れは違ったが。
鐘井とのことは流されたので、良しとするか。
………………滅茶苦茶悔しいが。
――――――――――
その後、俺たちは担任に職員室まで呼び出され、こってり絞られた。しかし特に珍しいことでもないからか、若しくは俺の姉ちゃんが警察官として今大変な状況にあることを汲んでくれたのか、保護者に連絡、ということにはならなかった。
……しかし、校門まで行くと。
「お兄ちゃんっ!!」
「……げ」
薫が居た。中学校から直接来たのか、格好は学ランのままだ。相変わらず似合ってねえ。腰に手を当ててムムッと眉根を寄せ、いかにも「怒ってます」という顔をしている。全然怖くねえ。
ていうかさっきっから校門から出て行こうとしている女生徒たちが胸をキュンキュンさせているのに気付いているのだろうか、この弟は。
「お兄ちゃん!千草さんから聞いたよ、また景虎さんとケンカしたんだって!?」
「何のことだ?」
「とぼけないでよ、そんなに顔腫らしてっ!!どう見たってケンカした後でしょっ!!」
「何を馬鹿な。喧嘩じゃねえ、ただのちょっとしたスキンシップだ」
「そーそー。男同士の語り合いってのは荒々しいもんなのさ。薫にはわからないかもしらんが」
「わ、わかるもん!僕だって男―――て、そんなのはどうでも―――は、良くないけど!!今は置いておいてっ!!」
「む。問題の先送りとは、男らしくねえな、薫」
「女々しいぞ、薫」
「だ、か、らっ!!!お兄ちゃんも景虎さんも、二人してからかうのやめてよっ!!!」
「からかってなどいない。俺はお前が男らしくなるためのアドバイスをだな―――」
「そ、そんなこと言っても、もう誤魔化されないからねっ!!」
「「ちっ」」
俺とそれなりに付き合いの長い景虎は、薫とも仲が良い。扱いを心得ているのだ。その景虎と俺の連携攻撃ならば、どうにかやり込められると思ったのだが、ダメだったか。
むう……薫がかつての純粋さを失ってしまって、お兄ちゃんは悲しいぞ。
「と、に、か、くっ!!お兄ちゃん、それに景虎さんも!ケンカはもうしない!わかった!?」
「うぇーい」
「いえっさー」
「絶対わかってないでしょっ!!」
プリプリ怒る薫。その後ろで苦笑いを浮かべる柊。そしてそんな薫の姿を見てトキメいている女生徒たち。オイコラそこの涎垂らしてるヤツ、てめえは薫に近付くんじゃねえ。
「仕方ねえな。薫もこんなに怒ってることだし」
「そうだな。もう喧嘩はしねえよ」
「そ、そう?えへへ、わかってくれたなら―――」
「次からは総合格闘技ごっこにするか」
「あー、もーっ!!」
うがーっ!と可愛らしく吼える薫の姿に、ついつい口元が緩んでしまう。
まったく、これが天然だってんだから。コイツが「男らしく」なれる日が、果たして来るのかね―――
「もう、お兄ちゃん今日は晩ご飯抜きっ!!」
「ごめんなさい調子に乗り過ぎました堪忍してください」
次回、お姉ちゃんの出番です。




