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あの夜、僕達が授かったもの  作者: 近代現代
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2/3

物語はここから始まる

「……で、本当に来たのかよ」


翌日の夜。


俺は昨日と同じ公園の入り口に立っていた。


もちろん、自分から来たわけじゃない。


「何言ってるのよ。来るって言ったじゃない」


隣で杏奈が胸を張る。


「いや、言ったのはお前だろ。俺は反対した」


「でも来たじゃない」


「……」


それを言われると弱い。


昔からそうだ。


杏奈は無茶苦茶なことを言う。


でも。


最後にはなぜか付き合ってしまう。


幼馴染という関係は、時々こういう面倒なところがある。


「それに」


杏奈は懐中電灯を取り出しながら言う。


「もし本当に怪異だったら、こんなチャンス二度とないかもしれないじゃない」


「チャンスって言い方やめろ。普通は遭遇したくないものだからな」


「だから面白いんじゃない」


「理解できない」


「悟は人生の半分損してるわね」


「怪異を見ることが人生の半分なら、俺は喜んで損する」


杏奈は呆れたように笑った。


そして。


俺達は公園の奥へ進んだ。


昼間なら子供達の声が響く場所。


しかし夜になると、そこは別の場所に見える。


街灯の光が届かない場所。


風で揺れる木々。


誰もいない遊具。


普段知っている場所ほど、夜になると不気味に感じる。


「……本当にここなのか?」


「うん」


杏奈はスマホを見る。


「書き込みでは、この時間帯に現れるらしいわ」


「ネットの情報を信用しすぎるなよ」


「でも複数人が同じ証言してる」


「それが逆に怪しいんだよ」


俺がそう言った瞬間。


――ニャア。


小さな声が聞こえた。


俺と杏奈は同時に顔を上げる。


「……」


「……」


「悟」


「聞こえた」


俺達の視線の先。


公園のベンチの下。


そこに一匹の黒猫がいた。


ただの猫。


そう思った。


最初は。


「ほら」


杏奈が小声で言う。


「いた」


「いや、猫だろ」


「でも……」


杏奈が近づこうとする。


その瞬間。


黒猫がこちらを見た。


その目は。


普通の猫のものではなかった。


まるで。


こちらのことを理解しているような。


そんな目だった。


「……おい」


俺は杏奈の腕を掴む。


「何?」


「近づくな」


「なんで?」


「……分からない」


理由は説明できなかった。


ただ。


本能的に感じた。


あれは普通の動物じゃない。


「悟」


杏奈が小さく笑う。


「今、怖がってる?」


「警戒してるだけだ」


「珍しい」


「何が」


「悟が、存在しないかもしれないものを怖がってる」


返す言葉がなかった。


黒猫はそんな俺達を見たあと。


ゆっくりと歩き出した。


そして。


「ついてこい」


そう言った。


「……」


「……」


時間が止まった。


今。


何か聞こえなかったか?


「悟」


杏奈の声が震えている。


「今の……」


「ああ」


俺は頷く。


「聞こえた」


黒猫は振り返る。


そして。


もう一度。


「ついてこい」


確かに。


人間の言葉で。


そう言った。


「……」


杏奈の目が輝く。


嫌な予感がした。


「悟」


「何だ」


「今、人生で一番興奮してる」


「帰るぞ」


「なんで!?」


「危険だからだ!」


「でも!」


杏奈は黒猫を見る。


「本当にいたんだよ?」


その言葉に。


俺は黙った。


杏奈が追い続けていたもの。


証明できないもの。


存在しないと言われ続けたもの。


それが。


今、目の前にいる。


「……少しだけだぞ」


「悟!」


「ただし危険を感じたら即帰る」


「分かった!」


絶対分かってない顔だった。


黒猫はそんな俺達を見て。


どこか楽しそうに尻尾を揺らした。


そして。


公園のさらに奥。


誰も近づかない古い神社跡へ向かって歩いていく。


「……なあ杏奈」


「何?」


「この先、本当に行くのか?」


「もちろん」


即答だった。


「だって」


杏奈は笑う。


「ずっと探してたんだから」


その瞬間。


黒猫の姿が一瞬だけ歪んだ。


月明かりに照らされた影。


そこには。


猫の影ではなく。


二本足で立つ、人間のような影が映っていた。


俺は息を飲む。


「……悟」


杏奈が呟く。


「見た?」


「ああ」


「やっぱり」


彼女は震えながら笑った。


「本当にいるんだ」


その声には恐怖よりも。


歓喜が混ざっていた。


そして。


俺達はまだ知らなかった。


この出会いが。


ただの怪異との遭遇ではなく。


俺達自身が、人ならざるものへ近づく始まりだったことを。



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