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あの夜、僕達が授かったもの  作者: 近代現代
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なにもない一日に

※本作は怪異を広めることを目的として執筆されたものではありません。

また、作中に登場する怪異について、現実に存在するものとの関連を確認する行為は推奨いたしません。

「今日もろくでもない内容ばかりね!!!」


会議用の折り畳みテーブルを右手で叩き、見た目だけなら完璧な美少女である佐々木杏奈は、今日も今日とて怒っていた。


「いや、毎回思うんだけどさ」


俺は机の上に広げられた大量の資料を見る。


「そんなぽんぽん怪奇現象や未確認生物や、果てには『実は魔女の末裔でした』みたいな人間が現れるなら、今頃UMAは未確認じゃなくて確認済み生物になってるだろ」


「うっさいわね!!」


杏奈は勢いよく振り返る。


「日本だけでも一億人以上いるのよ!? その中の数人くらい、超常現象を経験してたっておかしくないじゃない!」


「この学校の全校生徒は六百人そこらだ。日本全体の話にまで飛躍させて正論っぽく言うのをやめろ」


「むぅ……」


反論できないと悟ったのか、杏奈は不満そうに頬を膨らませながらスマホをいじり始めた。


こいつは昔からこうだ。


興味のあることに対しては異常なほどの行動力を見せるくせに、興味のないことには驚くほど無頓着。


そして、その興味の対象というのが――


「……あ、そうそう」


スマホを見ながら杏奈が言う。


「あんたさ、今日の帰り家寄ってっていい?」


「急だな」


「近代現代さんの新刊貸してよ。どうせ読み終わってるんでしょ?」


「あー……まあ」


俺は少し考える。


「一週間くらいで返してくれるならいいぞ。まだ考察しきれてないんだよ、今回の作品」


「相変わらずねぇ」


杏奈は呆れたように笑った。


近代現代。


今、日本中が熱狂している超常サスペンスミステリーホラー作家だ。


肩書きが多すぎると思うかもしれない。


だが、これは全て一つの作品に当てはまるジャンルである。


現実ではありえない現象。

そこに隠された謎。

そして、人間の恐怖。


その全てを混ぜ合わせたような作風が、世間では人気を博していた。


「あんたってさ」


杏奈がこちらを見る。


「普段は現実が見えてます、みたいな顔してるくせにホラー映画好きだし、幽霊特集とか宇宙人特集とか絶対見るわよね」


「まあ、娯楽として楽しむ分には好きだな」


「だからオカルト研究部にいるんでしょうけど」


今、俺達がいるこの部室。


ここは我が校が誇る――と言っていいのかは分からないが、オカルト研究部である。


とはいえ、現在の部員は二人だけ。


部長の佐々木杏奈。


そして副部長の俺。


元々は三年生の部員が一人いたが、その人が卒業してから新入部員は一人も来なかった。


つまり。


俺達が卒業すれば、この部活は静かに消える。


「このまま部室にいても仕方ないし、帰りましょ」


杏奈が立ち上がる。


そして。


「悟」


俺の名前を呼ぶ。


この呼び方をするときは、幼馴染として接する時間の合図だ。


部長と副部長ではなく。


昔から知っている、ただの幼馴染として。


「分かった。鍵返してくるから先に行っててくれ」


俺は部室の鍵を手に取る。


「どうせ公園行くんだろ?」


「ご名答」


杏奈は笑う。


「じゃあ先に待ってるわね」


そして俺達は二手に別れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


佐々木杏奈という人間について少し説明しておこう。


彼女は、世界を変えてしまうような特殊能力を持った主人公タイプの人間ではない。


普段は明るくて、人付き合いが良くて、少し変わったところがある普通の女子高校生だ。


二人きりでいる時もそれは変わらない。


ただし。


オカルトの話になると別だ。


幽霊。

妖怪。

未確認生物。

都市伝説。


そういう単語が出た瞬間、彼女の目は子供のように輝く。


まるで、そこに本当に何かが存在すると信じているように。


俺は昔から、そんな杏奈を少しだけ不思議に思っていた。


なぜそこまで、存在するかも分からないものを追い続けられるのか。


なぜ証拠もない話に、そこまで真剣になれるのか。


……まあ。


本人が楽しそうだから、別にいいのだが。


鍵を職員室へ返し、俺は公園へ向かった。


夕方の公園。


いつものベンチに杏奈は座っていた。


「遅い」


「五分も経ってないだろ」


「乙女の待ち時間は五倍になるのよ」


「初めて聞いた理論だな」


そんなくだらない会話をしながら、いつもの時間が流れる。


だが。


その日は少し違った。


「ねぇ、悟」


杏奈が突然、真面目な声を出した。


「今日さ、変な噂見つけた」


「またか」


「今回は本物かもしれない」


「毎回言ってるだろ、それ」


俺が笑うと、杏奈はスマホの画面をこちらに向けた。


そこには、とある掲示板の書き込みが表示されていた。


『夜の公園で、猫に話しかけられた』


そんな内容だった。


「……猫?」


俺は眉をひそめる。


「そう。ただの喋る猫って話なら、作り話で終わりよ」


杏奈は画面をスクロールする。


「でも、この書き込みをした人。他にも同じことを書いてる人がいる」


「同じ公園で?」


「そう」


杏奈は小さく頷いた。


「しかも全員、同じことを言ってる」


「何を?」


杏奈は少し間を置いてから言った。


「その猫は、人間の姿になったって」


風が吹いた。


夕暮れの公園。


いつもと変わらない場所。


いつもと変わらない時間。


なのに。


その瞬間だけ、なぜか嫌な予感がした。


「……杏奈」


「なに?」


「まさか」


俺はため息をつく。


「探しに行くとか言わないよな?」


杏奈は満面の笑みを浮かべた。


「もちろん」


やっぱりだ。


佐々木杏奈は。


こういう時だけ、異常な行動力を発揮する。


「明日の夜、この公園に来るわよ」


「絶対嫌な予感しかしないんだけど」


「大丈夫」


杏奈は笑う。


「何も起きないから」


――その言葉を。


俺は後悔することになる。


この日。


俺達はまだ知らなかった。


この街には、本当に。


人間の知らないものが存在していることを。


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