七話 平常
「……ご苦労だった。」
領城、執務室。
オーウェンの報告を受けて、アーノルドが頷く。
今回我々はほぼ損害なく、ワイバーンの群れを撃破した。
「ノーラ殿を伴って向かったのは正解でした。飛ぶ魔物の討伐は我々だけだと骨が折れましたから。」
「だろうな。」
戦闘中の各人の動きや部隊の損害の確認、ワイバーンから取れた素材の確認などの事務連絡が澱みなく行われる。
私はその傍で、飯を持ってきたついでに報告を聞いていた。
ヴォルフの姿はない。大方昼寝でもしているのだろう。
というか、ワイバーンの素材を使うつもりだったのならば、もう少し戦い方を考えたのだが。勿体無いことをした。
「……では、報告は以上ですので失礼します。」
「ああ。」
オーウェンが執務室を後にし、私とアーノルドだけになった。
「……冷めるぞ。」
「ああ。いただく。」
今日の夕餉は、角豚の肉塊を香草で焼いたものと蒸した芋。あとは豆のスープだ。
領主に食わせる料理ではないのだろうが、誰も作らないのだから好きにさせてもらう。そもそもが自分たちの飯のついでだ。
「味付けの要望はあるか。」
「いや、不満はない。」
「そうか。」
普段通り、アーノルドが食べ終わった食器を持って執務室を出る。
道中、すれ違ったメイドが声をかけてきた。
「ノーラ様。」
「ノーラでいい。どうした。」
「あのぅ、そのお食事は、旦那様の……?」
「ああ。食うと言ったからな。……どうした?」
「いえ……少し驚きまして。」
「……? そうか。」
まあ、食べていなかったやつが食べているのだから珍しくはあるか。
メイドはそのまま暇を告げて立ち去った。
……何だったのだろうか。
そのまま詰所へ向かい、食器を洗う。
領主用の食器は、誰も使っていないので今は詰所に置いてある。城の厨房までいちいち取りに行くのも手間だ。
いつの間にか、炊事場の入り口にイアンが立っている。
自分の食べ終わった食器を持ってきたようだ。
「ノーラ殿、皿洗いならば私たちがやりますと……それは?」
「領主の分の飯だ。」
「……何故?」
「誰も作らないからな。雇い主を差し置いて自分達だけ飯を食うのは気分が良くない。」
「……そうですか。」
「ああ。」
歯切れの悪いイアンを残して、私は厨房を出た。
寝る前にまだいくつかやる事がある。
食糧の残り在庫と、明日の警邏の担当の確認だ。
道具や装備の整備は先日したばかりだから、しばらくはいいだろう。
食糧庫の、自分たちの使っている区域を検分する。
肉は明日あたり買い出しが必要だ。ついでに野菜も欲しい。
今は葉物野菜がよく出回るから、湯がいて献立に添えるのもいい。
「芋がまだ随分あるな……油も潤沢だし揚げてみるか?」
そう独りごちながら、手元の石板に買い出しの内容を書きとる。こっちはこれでよし。
詰所の談話室に入ると、仲間達が思い思いに過ごしていた。
賭けをするもの、夜食を頬張るもの、本を読んでいるものとさまざまだ。
私は共用の掲示板で、警邏の当番を確認する。
これをやっておかないと、前日にしこたま酒を飲む馬鹿が出る。実際出た。
「お前ら、明日の警邏の割り当ては確認したな?」
「はい、姐御!」
「仕事前にあまり飲むなよ。」
「分かってますって!」
嘘をつけ。あらかじめ釘を刺していないと飲むだろう。
「……はあ。フラン、出来る限り見張っててくれ。」
「はあい。」
一連の流れを聞いていたフランが、くすくすと笑って答えた。
こうして見ていると、近頃は生活が整い、うちの連中も少し余裕が出たように見える。
空白地帯にいた頃は、もう少しピリピリしていた。罵り合いや喧嘩も多かった。まあ喧嘩は今も多いが、その頃ほど殺気立っていない。
はじめは不本意な契約だったが、こうしてみると悪くないのかもしれない。
仲間達の姿を見て、私はそう結論づけた。




